マナーの記事も今回で11回目になります。今回は皆様に手紙などに使える美しい日本語についてお話ししたいと思っております。ビジネスの文章を書くとき、以前使ったものなど出来上がっているフォーマットを少し変えて出すこともありがちですよね。

普段の会話や文章になかなか使わない言葉の中にも素敵な言い回しは沢山あります。ちょっとした文章やお手紙などに使うと言葉の上級者になれるかもしれません。

そうかといってあまり時間をかけていられない、どうやって書いていいのか分からない、そんな時にもご参考にして頂けたらと思います。

高橋こうじさんが書かれた東邦出版の『日本の大和ことばを美しく話す‐心が通じる和の表現‐』に素敵な言葉選びをされているので引用させて頂きます。

日ましに春めくこのごろ

略式の「和の手紙」のポイントは、「拝啓」や「謹啓」といった冒頭の言葉を省き、その代わりに短めの「季節の言葉」を置くことです。(中略)まず、春、夏、秋、冬のうちの一つを選び、次に、その季節について、(1)まだ新鮮に感じている、(2)慣れてきた、(3)深まりを感じている、(4)心はもう次の季節へ向いている…のどれかを判断します。(中略)春ならば「日ましに春めくこのごろ」となります。シンプルですが、「早春の候」のような漢語中心の表現よりも相手の心を打つ言葉です。

…… 都心ではちょうど今の季節も「日ましに春めくこのごろ」でしょうか。自分の生活している地域の季節がどのようなものか知らせるとともに、相手の地域も同じであれば共感してもらえますね。

夏も早たけなわ

ある季節について、あなたが、(2)慣れてきたと思ったならば、「〇〇も早たけなわ」という文句です。夏の場合なら「夏も早たけなわ」となります。

…… 簡潔なこの一言で、その季節が盛り上がりを見せこれから一層深まることが分かります。

秋まさにたけなわ

あなたが、ある季節について、(3)深まりを感じていると思ったならば、「早」ではなく「〇〇まさにたけなわ」がぴったり。秋ならば「秋まさにたけなわ」です。秋や冬はどちらかといえば地味な季節ですが、それぞれの味わい、楽しみがあるわけで、「たけなわ」という表現はおかしくありません。

…… 会食などの際で「宴もたけなわ」という言葉がありますが、盛り上がりを見せているという同じ意味で季節にも使われます。知っていると重宝しそうな言葉ですね。

其処彼処に春の兆しが覗くこのごろ

あなたが、ある季節について、(4)心はもう次の季節へ向いている、と感じたならば、「此処彼処に〇〇の兆しが覗くこのごろ」という言葉です。たとえば、まだ冬だけど心は春へ向かっていると思ったら、「此処彼処に春の兆しが覗くこのごろ」。「其処此処」や「垣間見る」を用いて「其処彼処に春の兆しを垣間見るこのごろ」としても構いません。

…… 趣深い言葉ばかりですね。通常ですとその後〇〇様におかれましては…… と相手の健康などを気遣う言葉が入ります。このように季節は文章に上手に組み込めばより上品で読んだ人の共感を得られるようになります。

こういった言葉を手紙に書けるようになるには季節や自然に敏感でなければならないということが分かります。これもまた、日本の良さのように感じますね。

その後の結びの言葉にも高橋さんの著書には参考にすべき美しい日本語が多くちりばめられているのでご紹介します。

お身体をお厭(いと)いください

結びの言葉として最もよく使われるのは、「時節柄ご自愛ください」でしょう。もちろん、それでもいいのですが、「ご自愛ください」の代わりに大和言葉の柔らかい響きを活かした「お身体をお厭いください」という表現も使ってみてください。意味はほぼ同じです。なお、手紙で相手の体について触れる時は、人間以外にも用いる「体」という字を使わず、「身体」と書いて「からだ」と読ませる慣習があります。学校で習った国語の規則に反する慣習ですが、少なくとも中高年の人への手紙では守ったほうが無難です。

くれぐれも御身おいたわりください

高齢の人や病人、体の弱い人に対して、本文で体調を気遣った場合は、結びが「どうぞご自愛ください」では物足りない感じです。「くれぐれも」を使って「くれぐれも御身おいたわりください」「くれぐれも御身お大切に」と結べば、相手の健康を深く願う気持ちが伝わります。

いかがでしたでしょうか。私個人的には文章や手紙だけではなく、はなし言葉にも使ってみたい表現が多くありました。普段同じになりがちな挨拶や締めの言葉を、このような大和ことばに替えて使ってみてはどうでしょうか。新学期や新生活など何かと挨拶が多いこれからの時期にも重宝しそうですね。

■ 執筆者プロフィール:名越 華子(なごや はなこ)

大学卒業後、TBCグループ株式会社入社。入社2年目より秘書として勤務。日々の秘書業務を活かし敬語やマナー等本の監修や講演をし、若手の育成などにも力を注ぐ。

その後マーケティングPR戦略部広報室に所属。TBCが掲げるTotal Beauty Communicationsの略であるTBCの窓口として美容や健康の情報を発信。秘書検定1級、青汁マイスターの資格を持つ。

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