まず、夏休みの相場の傾向についてお話ししますと、夏休みは、相場に方向感がなくなり荒っぽいばかりの相場になりがちです。

ドル/円 日足 レンジ相場

特に8月の前半は方向感がありません。その主な理由は、「マーケットにフロー」がないためです。

「マーケットにおけるフロー」はどのようにして作られるのか

フローとは、資金の流れのことです。主にフローは、大口の投資家(※)や実需によって作られます。

(※)大口投資家
政府系ファンド、ペンションファンド(年金運用機関)や、中央銀行、また国内で言えばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や、生命保険会社などが、これに当たります。

こうした大口投資家や実需は、ある一定方向に継続的に資金を流します。大口の投資家では、例えば、米国債運用のために、資金を円からドルに差し向けます。

また、自動車のような輸出の受取ドル代金を継続的に円に換える企業もあれば、石油企業のように海外に輸入代金をドルで支払うために、ドルを継続的に買う企業もあります。

こうした輸出と輸入の差を、「貿易収支」と言い、輸出が多ければ貿易収支が黒字となってドル売りが強まり、一方、輸入が多いと貿易収支が赤字となって、ドル買いが強まります。

いすれにしても、例えば、大口投資家のドル建て債券投資も多くなれば、ドル買いが強まり、為替相場もドル買いが強まるのが、通常のときの、為替相場の決定要因です。

休暇シーズンにマーケットに残っているのは「投機筋」だけ

しかし、全世界的に本格的な休暇シーズンとなる8月上旬や、欧米勢ではクリスマス、また日本企業では年末年始ともなると、こうした大口投資家や実需は、休暇のシーズンに入るため、動きが極端に鈍くなります。

そうした中、マーケットに残っているのは、「投機筋」となります。

まず、話を進める前に、投機筋の宿命について、お話ししておきましょう。投機筋が、もし買いでポジションを持ったら、必ず利食いか損切りのために売りを後でしなくてはなりません。また、もし売りでポジションを持ったとしたら、必ず利食いか損切りのために買いを後でしなくてはなりません。

つまり、投機筋だけがマーケットに残っていると、方向感が定まらず、また足の引っ張り合いのような相場になってしまいます。そのため、一方向の資金フローを発生させられる大口投資家や実需がマーケットからいなくなる休暇シーズンは、方向性の定まらない相場となるのです。

そのことに、留意しておかなくては、投機筋同士の足の引っ張り合いに巻き込まれ、損をしなくても済むような相場で、損することになりかねません。

ここで、お話ししましたように、相場は、シーズンによって、前向きなとき、後向きのときがあります。そのことを決して忘れてなりません。特筆すべきシーズンは、既に申し上げたものも含め、下記のような時期は、だいたい同じことが毎年繰り広げられます。

■特筆すべきシーズン
・新年前後(比較的前向き)
・4月前半……本邦勢の新年度入りだが、投資家や実需はすぐには動かず(後向き)、
・6月欧米勢の中間決算(後向き)
・8月上旬(夏休み本格化)
・9月欧米製の実質下期スタート(前向き)
・12月前後欧米勢の本決算(後向き)
・クリスマスの休暇シーズン(後向き)

私自身、過去に実際にあったことですが、やられた後で、そう言えば去年も同じことがあったじゃないかと、悔しい思いをして、相場の年間スケジュールを自分の頭にすりこんできました。

しかし、こうして事前把握しておけば、なにも損をしなくても済みますので、是非ご自分のものにしてください。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら