相場には、毎年定期的に来るイベントがあります。しかし、これを頭に刷り込んでいないでいるとうっかりイベントを忘れてしまいます。イベントが過ぎて身構えていなかったばかりに損失を出してしまうことは、私の経験上でもよくありました。ですので、主だった年間のイベントについては、すっかり暗記するようにしました。

暗記しておきたい主だった年間イベント

暗記するポイントは、ひとつには年や年度の始まりであり、もうひとつは本決算から中間決算といった会計上の終わり時に、大きく動きやすいということです。

年や年度の始まりとしては、1月が欧米勢にとっては新年であり、また同時に新年度の始まりでもあります。更に4月は本邦勢の新年度です。そして9月が欧米勢にとっては実質的な下期のスタートであり、10月は本邦勢の下期のスタートです。年や年度の始まりの主だったところは、以上のようになります。

この時期は気持ち的にも「(気分も新たに)さあやるぞ!」と力が入りやすいですが、ことトレーディングの世界ではこの高揚感はプラスには働かず、逆にフライング気味に相場に飛び込んでやられることがしばしばです。ですので、これらの時期は慎重の上にも慎重に成るべきです。

一方、会計上の終わりの時期は2月の本邦の投信の決算、3月の大方の本邦企業の本決算が続き、その後6月には欧米勢の中間決算、10月には決算絡みの米系ファンドの45日ルール(これにつきましては、この後説明します)、12月の欧米勢の本決算が上げられます。

これらの時期は、たとえそれまでのファンダメンタルズ的な流れからの相場展開でも、決算のための反対取引の前では全く役立たずになります。つまり、それまでのファンダメンタルズに基づいた相場展開も決算絡みの手じまいの前では、全く無力です。

6月の欧米の中間決算のときに特に目立つことが多いのですが、まことしやかな理由によって、それまで下落トレンドが構成されてきたのが、6月になると、全くそんな理由に関係なく決算処理のための反対取引で相場は大幅にすることがよくあります。こうしたときに、ファンダメンタルズを振り上げても全く役に立ちません。

申し上げたいことは、年間の多くの時期の相場がファンダメンタルズではなく、会計上の理由によって成り立っているということです。

だからこそ、この相場の四季を知らずにファンダメンタルズで真っ向勝負しても的外れだということになりますので、ひたすら今申し上げた時期を覚えておいてください。

10月の米系ファンドの45日ルールを解説

これから10月の米系ファンドの45日ルールが始まりますので、最後に詳しくお話ししておきたいと思います。

米系ファンドの決算は11月30日ですが、そこから45日遡ると10月15日になります。この10月15日が重要で、解約を希望する投資家はファンドにこの日までに意思表示をしなくてはなりません。

一方、ファンド側も解約資金を手当てするために、10月15日までに手持ちのポジションの一部を現金化しなくてはなりません。 この現金化は手持ちのポジションを反対取引で決済して行います。そして、いつ頃から反対取引をするかは現金化予定額によって決まってきます。

現金化する額が大きければ9月の最終週ぐらいから、額が小さければ10月15日だけで処分されます。そして、どの通貨ペアで多く出るか出ないかは、チャートからある程度読むことができます。これは年初来の各通貨ペアの相場展開を見返して見ることです。

例えば今年の場合、ドル/円は年初来レンジ相場が続いており、それほど手じまうポジションはなさそうです。

ドル/円日足

ユーロ/ドルは、ドル/円とは対照的に年初来、今に至るまで上昇を続けてきました。

ユーロ/ドル 日足

年の初めは、ショートの買い戻しが中心だったと思われますが、特に4月からの米国と北朝鮮との緊張の高まりにより、米国からヨーロッパへの資金逃避という新規のユーロ買いが発生しているものと思われます。

更にユーロ/円が4月からユーロ高が始まり、基本的に原因はユーロ/ドルと同じだと思いますが、同時に日本が北朝鮮に近いという地政学的なリスクも感じていると思われます。

ユーロ/円 日足

今年の夏場、米系ファンドが積極にユーロ/円を買ったのは、このあたりを着目しているものと見ています。

これら主要通貨ペアをこのようにして見てみると、今年の45日ルールに伴う動きはドル/円はレンジだったためあまり目立たないかわりに、ユーロ/ドルとユーロ/円では上昇トレンドを描いた分、これからの時期売りが強まる可能性があり、注意しておく必要があると見ています。

なお、このファンドの動きは10月15日で終わりますので、終わればまた元のトレンドに戻る可能性が高いですから、単なる決算絡みの動きと割り切ることが必要です。ことに期間が長くなればなるほど、それまでの相場の変遷を十分に頭に入れておくことが大切です。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら