私の家の近所に新しく、某有名スポーツクラブがオープンしようとしています。駅前で勧誘のチラシをくばっている光景をよく見かけますが、こういう会員ビジネスってどうしたら儲かると思いますか?

  • イラスト:井内愛

損をしないためには「耳に痛いことをいっさい言わない」

たくさん新規会員を入れること、もしくはジムがいかに効果的かをSNSなどでアピールすることと思う人は、まじめで善良な人です。実際は、幽霊会員(入会はしているけれど、実際にジムに来て運動するわけではない人のこと)が多いほどもうかる仕組みになっているそうです。確かに、新規会員をたくさん入れたら、混みあってしまい「せっかく行ったのに、全然マシンが使えない」なんてことになって、かえってジムの評判を落としてしまうかもしれない。ジムが「これをやったら、絶対に痩せる!」という素晴らしいメニューを開発したとします。そうすると、まじめにメニューをこなして、理想のスタイルを作り上げた人は「もうジムにいかないでいいや」とやめてしまうかもしれない。その点、幽霊会員はいい。ジムを混雑させることもなく、目標が達成されることもないのでやめることもなく、おとなしくお金を払い続けてくれるのですから。

結婚相談所も同様です。もしご自分が入会するとして、在籍者の多い相談所と少ない相談所、どちらに入会しようと思うでしょうか。おそらく前者でしょう。そうすると、会員同士が結婚して退会するよりも、在籍だけしてずっと会費を払い続けてもらうほうがいいのです。それでは、どうやったら、在籍し続けてもらえるのか。私がある人から聞いた話だと、「耳に痛いことをいっさい言わない」のだそうです。

ダイエットも婚活もすぐに結果が出るものではありませんし、結果が出ないのは本人のせいではありません。けれど、これまでの食生活や物の見方、考え方をある程度変えないと効果が出ないことは確かでしょう。せっかくお金を払っているのですから、こういう時こそプロを有効活用してほしいものですが、傷つきやすい人が増えているため、少しでも耳に痛いことを言うと相談所をやめてしまうのだそうです。結婚相談所はビジネスですから、みすみす損をすることはしないわけです。

マツコ・デラックスの名言「ホントのことを言うのって優しいんだよ」

ですから、マツコ・デラックスの「ホントのことを言うのって優しいんだよ」という名言は、真理だと思いますし、人気商売であるマツコ自身も、自分のイメージを落とすような「ホントのこと」は言わなくなるでしょう。マツコだけでなく、有名人によるお悩み相談でも「〇〇せよ」という答えはほとんどなく、「〇〇しないでいい、今のままでいい」というふうに相談者を肯定するようなものが増えたと感じています。

どうして論客たちが「ホントのこと」を言わなくなったかというと、傷つきやすい人が増えたこともありますが、格差社会が本格化しているからだと思います。持っている人と持っていない人が二極化していて、ちょっとやそっと努力をしたくらいでは問題は解決できない。だから、相談者を肯定するしかないのではないかと思うのです。

たとえば、母親の連れ子を再婚相手と母親が一緒になって虐待して殺してしまったという事件は後を絶ちませんが、調べてみると、母親と再婚相手、それぞれが子ども時代に虐待を経験しているということは珍しくありません。こういう負の連鎖について「わかる!」と言う人もいれば、「意味わからない、いくら自分が虐待されたからって、子どもにしちゃだめでしょ」と思う人もいるでしょう。両者の間にはふかーい川が流れていて、話し合ったところで、どうなるものでもない。さらにこういう問題には経済的な困窮も絡んでいることが多いので、経済的に潤っているであろう有名人が「アンタもいい大人なんだから、がんばりなさないよ」と言うと、正論ではありますが弱い者イジメみたいに見えなくもない。こうなると、「それでいいのよ」と言うしかないでしょう。

多様性という言葉を耳にすることが増えました。これは法に触れないかぎり、「私もOK、あなたもOK」でお互いを尊重しようと考え方だと私は解釈しています。誰もが自由に生きられる可能性が広がりますが、自分の生き方を自分で決めて、かつ満足しなくてはいけないという難しさを受け入れる必要があります。格差というのはおカネだけでなく、人的資源にも表れます。恵まれた人であれば、周囲がいいコースをおぜん立てしてくれるかもしれませんが、そうでない人は自分で人生を切り開いでいかないといけません。こういう時代に問われるのは、自分で考え、自分で調べる能力なのかもしれません。