薬の効果(本当の効き目)を厳密に調査するにはいくつかの方法があります。実は医療の世界では科学的データ(証拠=エビデンス)の信頼度にランキングがあるのです。信頼度が高いと言われている順に並べると以下のようになります。

(1)メタ分析(多くの科学的実験をまとめて評価したもの)
(2)RCT(無作為割り付け比較試験: 客観性が高い科学的臨床試験)
(3)観察試験(一般の人の生活や病態を観察する)
(4)医学専門家の意見

専門家の意見が最下位って衝撃的ですね。しかし、白衣を着た有名な医師や偉い肩書きの人がたとえ「あの薬(治療法)はよく効くよ」と口で言っていても、科学的なデータに基づいていない限り、医療統計学的には「素人の体験談」と同じ程度の価値しかないのです。

RCT(無作為割り付け比較試験)の手順

上記4つのうち、医療界で現実によく使われているのは「無作為割り付け比較試験: RCT」です。RCTは最近では医学分野だけではなく、行政政策の分野でも使われるようになりました。これは注目すべき点です。

なぜ行政などでも用いられるようになったのでしょうか? それは、RCTがある事実の因果関係(例: その薬を使ったことが、病気が治った本当の理由か)をデータ分析によって明らかにする方法として非常に優れているからです。

RCTの原則(手順)を紹介しましょう。

(1)実験の対象を介入グループ(治療A)と比較グループ(治療B)に分ける
(2)比較グループの設定は必須(省略しない)
(3)参加者のグループ分けは必ず無作為(ランダム)に行う
(4)各グループには十分な数(ほぼ同数)のサンプル(患者)を割り振る

2つのグループにサンプル(被験者‐臨床試験を受ける人)を無作為に割り付けるのは、バイアスを取り除くためです。臨床試験に参加している患者さんや医師に自分のお気に入りのほうの薬を勝手に使わせないのです。なぜなら、試験結果判定の際にバイアスが入るからです。

また、Aグループが全員女性でBグループが全員男性だとすると、試験の結果、その薬に効き目があることがわかっても、薬が効いたのはその人が男性だったからというようなことが言われかねないからです。

メタ分析って何?

無作為にグループ分けする方法はいろいろあります。「乱数表を使う」「硬貨を投げて裏表で決める」「あらかじめ封筒にAかBのくじを入れておく」など。最近はコンピュータ上で乱数を発生させて割り付けるのが一般的です。

各グループに十分に大きな数(被験者)を割り付けるのは、例えばAグループとBグループに2名ずつしか割り付けられなかった場合、統計学的処理にほとんど意味がないからです。極端な話、その薬が効いたか効かなかったかは、単なるマグレだった可能性ということもありますよね。

この2名の数が10名、100名と増えていく度に得られた結果がマグレの可能性は減ります。統計学的には、一般にサンプル数は大きければ大きいほどよい(真実により近づく)わけですが、臨床試験にかかる費用から考えていたずらに大きくする必要もありません。最低どのくらいの数があれば統計学的な意味が出るかは、あらかじめ計算できます。

最も信頼度が高いとされている「メタ分析(メタアナリシスとも言います)」という言葉も、聞き慣れない方が大半だと思います。メタ分析とは、同じ目的で行う複数のRCTを一括して分析することです。RCTは「医療界最強の臨床試験方法」だと言われていますから、それをまとめて分析するのは「最強のまとめ」ということになります。

ところで機能性表示食品などのテレビCMで、その商品の「愛用者」が画面に出てきて「私には日々欠かせないものです」とかいったフレーズを発しますよね? その際、よく見ると画面の隅に「※個人の感想です」などと小さな字で表示されていることがあります。これはつまり、「RCTなどは実施していません」ということを意味しています。実際、健康食品でRCTが行われるケースは、ほとんどありません。