"茶の湯"の所作や心得、教養を学び、また癒しを得ることで、ビジネスパーソンの心の落ち着きと人間力、直観力を高めるためのビジネス茶道の第一人者である水上繭子。本連載では、水上が各界のキーパーソンを茶室に招き、仕事に対する姿勢・考え方について聞いていく。
第13回は、"ハゲ"をファッションとして扱うメディア「NOHAIRS」を運営する株式会社Passion monsterの代表取締役、高山芽衣さんにお話を伺った。女性である高山さんが、男性がコンプレックスを感じがちな薄毛に主眼を置いたメディアを作った理由について伺ってみたい。
薄毛をファッションとして扱う「NOHAIRS」
「お気に入りの服を着るとその日が楽しくなる」という力がファッションにあると感じ、ファッション業界で販売の仕事に携わっていた高山さん。仕事を続ける中で「自己表現として、人目を気にせずに自分が良いと思うものを身につける大人」に対する憧れが強くなっていったという。
いまの世の中に無いものを作りたい……そんな思いから高山さんは株式会社Passion monsterを立ち上げる。そして"薄毛"というキーワードに着目し、薄毛を隠さない選択、そして薄毛をファッションとして扱うメディア「NOHAIRS」をスタートさせた。
髪が薄いことは男性にとってコンプレックスのひとつといえる。女性にとっての肥満や一重まぶたとも重なる特徴だろう。高山さんが男性の薄毛、いわゆる"ハゲ"にフォーカスした理由はどのような点にあったのだろうか。
「なぜ、いわゆる"バーコードヘア"になるのか? という疑問がずっとあったんですよね。そこまでして隠そうとしなくても素敵なのにと。日本では薄毛を隠す風潮がありますが、堂々としていれば、内面のすばらしさを引き立てる特長として捉えられるのではないかと思ったんです」
このような考えにいたったきっかけとして、高山さんは自信の経験を語る。
「私は学生のころ、自分のおでこがすごく嫌いで、ずっと前髪を作って隠してきました。しかし、一つを隠すと他の部分も気になってくるんです。もちろんそれは悪いことではないと思います。ですが、ある日そのおでこをさらけ出してみたら、不思議とコンプレックスが気にならなくなり、自信が持てたんです。薄毛の方が抱えるコンプレックスも同じなのではないかと考えました」
年齢を重ねると白髪が増えるように、頭髪が薄くなるのも当たり前だ。しかし日本では、薄毛は恥ずかしいというイメージがある。男性の中には40代から薄毛が進行する方がいて、私の身の回りでもカツラで隠している人がいる。
「『NOHAIRS』を通じて、多くの薄毛の方にお話を伺うことができました。なかには『10年隠していた』『彼女にも隠していた』という方もいて、その間、頭髪の量を増やそうと努力を続けられていたそうです。これを表に出すことは精神的にも楽になるようですね」
女性であっても歳を取ると髪は薄くなり、カツラを被る方が増える。髪が薄くなることは、若さを失った象徴のように感じるのかもしれない。だが水上は、例え"バーコードヘア"であっても、自分をより良く見せようと努力する姿勢には好感を覚える。それは自分が自分らしくあるための工夫だからだ。しかし、変化は受け入れる必要がある。昔の自分の良いイメージを持ったままで、年を取った自分を肯定できないといけないだろう。
「髪の薄い方はそんな自分を受け入れないといけません。ある方は『目の前に同じような方がいたら話しかけたくなるが接点がない。NOHAIRSはその接点を作ってくれる』と仰ってくれました」
あこがれられる大人の"ハゲ"を増やしたい
頭髪が薄い男性を応援するこの「NOHAIRS」。男性の連帯感に支えられていると思いきや、実は女性の協力者が多いのだという。
「『ハゲはモテない』のような風潮がありますが、私たちからすると全然そうは思いません。本質はそこではないんです。個性や特長、変化を認めて、受け入れる。そこに誇りをもつことが魅力になると思いますし、そんな大人を増やしたいと思いました。可能であれば、さまざま特徴を持つ方がより自分らしく生きられる文化を作っていきたいと考えています」
我々女性からすれば、薄毛自体は男性の魅力とは直接関係が無いように感じるし、それほど気にすることもない。問題は「年齢とともに変化していく自分を受け入れられるか否か」という点にあるのではないだろうか。こういったコンプレックスは性別に関わらず存在し、止めることもできない。
「頭髪が薄いというのは個性の1つに過ぎないんですよ。だからあえてスキンヘッドにしている方もいます。そういう方はおしゃれだったり、自分の価値観を表すためにそうされているわけですよね。それでちゃんと魅力があります。スキンヘッドにしている方は自分をしっかりケアしていて、清潔感がある人が多いんです」
禅の流れを汲む茶道においては、相手をもてなすための清廉さとともに自分を偽らずに相手に対峙することが求められている。茶室は、余計なものをそぎ落とした空間だ。茶室にあるのは、主客の他にはお茶と道具だけ。自分をさらけ出す"いさぎよさ"に美しさが生まれる。頭髪の薄さに代表されるようなコンプレックスを救うのは、そのような心の在り方にあるのではないだろうか。
「NOHAIRSに参加された方からは『概念が変わりました』といったお声をよくいただきます。現代社会は情報が溢れていて、"ハゲ"について調べるとネガティブな情報にたくさんアクセスできてしまうんですよね。それに引っ張られてネガティブになってしまい、新たな悩みを生み出しているという印象はあります。私は、あこがれられる大人の"ハゲ"を増やしたいんです。身近にそんな大人がいたら、きっと若い人も頭髪が薄くなることに恐怖を抱かないでしょう。明るく生きる"ハゲ"を増やすために、これからもポジティブな情報をたくさん発信していきたいと思います」