今回は、最近ニュースで多く取り上げられることが多くなった「バイオガソリン」について。バイオと聞くと何か先進的な感じがするが、この場合は「植物などから作った燃料」をバイオ燃料と呼び、それをガソリンと混合しているためバイオガソリンなどと言う立派な名前になっている。ガソリンそのものを植物から作るわけではなく、今までのガソリンに植物から作った燃料を混ぜているわけだ。

バイオ燃料というとちょっと難しく聞こえるが、正体は「お酒」。とうもろこしやさとうきびなど、穀類などを醸造してアルコールを作っているわけだ。昔理科の実験で使ったアルコールランプでわかるように、アルコールはよく燃えるから内燃機であるエンジンの燃料としても使える。また、バイオ燃料が環境に優しいというのは、原料に植物などを使うためだ。光合成で空気中の二酸化炭素を取り込んで成長するため、その植物を原料とした燃料を燃やしても空気中の二酸化炭素濃度を高めない。二酸化炭素は温室効果ガスの1つだからそれを抑制することで温暖化防止に役立つ、というわけだ。

そのバイオ燃料を混ぜたバイオガソリンが、環境問題の特効薬のように言われているがそれは間違いだ。植物から作るバイオ燃料だけでクルマを動かすのならば地球温暖化防止の効果も高いが、4月下旬から首都圏で販売が開始されたバイオガソリンはバイオ燃料であるアルコール分はたった3%。もちろん社会実験的な意味がある販売だから意味がないとは言わないが、現状のバイオガソリンでは温暖化防止という面から見ると効果は少ない。では、もっとたくさん混ぜれば良いではないかというと、これがそうはいかない。現在ガソリンに混ぜることのできるアルコール分は3%までと決められているのだ。これは、以前高濃度アルコール燃料が市場に出回った際に、脱税行為にもなるということで3%が上限と決められたのだ。効果が見込めるほど混合しようにも、そもそもできないという、なんとも複雑な事情があったのだ。

さて、このバイオガソリン、経済産業省が推進しているもので、石油連盟が経済産業省の補助事業として4月27日から首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の50カ所のガソリンスタンドで市販している。ただし、今販売されているのは「バイオETBE(エチル・ターシャリー、ブチル・エーテル)」を配合したレギュラーガソリンで、純粋なエタノール(アルコール)をガソリンに添加しているのではなく、植物由来(バイオ)の合成されたエタノールを添加したものだ。バイオガソリンのETBEは約7%添加されているが、そのうちのアルコール分が3%ということで認められているわけだ。

ここで、なぜ純粋なアルコールでなくのバイオETBEを混合するかという疑問がわくだろう。温暖化防止の旗振り役の環境省は、ガソリンに直接純粋なアルコールを混ぜる方式を検討している。コストがかかるETBEとは違いそのままガソリンに混ぜるため、燃料そのもののコストは安いというメリットがあるからだ。だが、エタノールは水に溶解しやすいため空気中の水分などを吸収しやすい。そのため保存状態によっては燃料の品質を保つことが難しいとされている。また、ETBEに比べ揮発性が高いため大気中へ蒸散しやすいというデメリットもあるのだ。

では、現在発売されているバイオガソリンのETBEがいいのかというと、それも疑問なのだ。ETBEに似た名前を過去に聞いたことはないだろうか。80年代後半にプレミアムガソリンが導入されたとき、一部の石油元売りがアンチノック性が高く、酸素分子を持っているためよく燃えるガソリンということで発売したプレミアムガソリンに添加されていたMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)だ。MTBEはその後アメリカで発ガン性が指摘され現在は使われなくなったが、今回のETBEはメチルアルコールがエチルに変わっているものの、その毒性が心配だ。環境省が以前、ETBEの毒性について調べたところアメリカ、ドイツ、カナダ、EU、WHOなどの国際機関の有害性評価情報や健康毒性情報で評価されたことが少ないという。ETBEの安全性のデータ不足というのが心配のひとつだ。また燃焼させたときに排ガスに含まれる有害物質のアセドアルデヒドも気になる。

ところで今乗っているクルマにアルコール燃料を入れても大丈夫なの?

今回市販されたバイオガソリンはETBEが約7%、そのアルコール分が3%といわれているから石油連盟ではエンジンに影響を与えないとしている。四輪、ニ輪メーカーなどが加盟している自動車工業会もバイオガソリンを問題視していない。ただし今後アルコール濃度が高いガソリンが流通するようになると、今までのエンジンでは困ったことが発生する。それはゴム類の劣化だ。燃料ホースやシール類などにはゴムが使われていることがあるが、高濃度アルコールに長時間さらされるとふくらんでブヨブヨして弱くなってしまう。こうした状態を「膨潤」というのだが、膨潤が起こると燃料漏れを起こす可能性が高まる。万一漏れれば、車両火災という最悪の事態も考えられるわけだ。

高濃度アルコール燃料の使用は、ゴムだけではなく金属腐食も心配されている。ピストンやバルブ、ベアリングなどに腐食が起こり、磨耗が進みやすい。アルコールの吸水性がいいため金属をさびさせやすいのだ。劣化したアルコールが酸化すること、燃焼後のアルデヒドでも酸による腐食が起こる。これらは高濃度アルコール燃料でなければ心配はないが、今後アルコール濃度の高い燃料を普及させるためにはクルマ側の対策が必要不可欠だ。

では自動車メーカーはそうした燃料に対応できているのだろうか? すでにブラジルなどアルコール燃料を使うエリアでクルマを販売しているメーカーはノウハウを確立している。もちろん日本のメーカーもアルコール燃料に対応したクルマを販売している。例えばトヨタは現在全世界で生産しているガソリンエンジンで、10%アルコールを添加した(E10と呼ぶ)ガソリンに対応している。最近ではブラジル投入用としてガソリンでもアルコール燃料でも使えるFFV(フレックス・フューエル・ビークル)をホンダやトヨタ、三菱が相次いで発表している。

アルコール燃料のデメリット

エンジン技術ではアルコール燃料を使うことはできるが、植物を使ってエタノールを作ることのデメリットもよく考えたい。アメリカがクルマの燃料としてエタノールの生産を推進したことから、原材料となる穀物の価格が急騰している。食料自給率40%の日本で穀物からアルコールを作れるのだろうか? 地球規模で見れば穀物からアルコールを作るために、今以上に飢餓に苦しむ地域を広げてしまう可能性があるのだ。

温暖化防止やエネルギー問題は重要だが、「食料」はそれ以上に大切な問題。脱化石燃料で「バイオ燃料」に一気に突き進むのは危険すぎる。

トヨタはカローラのFFV仕様を今年の5月からブラジルに投入。生産はブラジルトヨタでバイオエタノール混合率100%燃料にも対応する

カローラFlexとそのワゴン版のカローラフィールダーFlexは、既存の1.8Lガソリンエンジンをベースに、燃料系やエンジン本体の仕様を変更してアルコール燃料に対応させた。パワーはベースエンジンと同等以上だという

シビックもブラジル用にFFVを用意している。排ガス濃度センサーによって燃料性状を推定して、ガソリン車と同等の動力性能と優れた燃費性能を発揮するようにエンジンコントロール

コンパクトカーのフィットにもFFVを設定。外気温が低いと高濃度アルコール燃料は始動性が悪化するため、ホンダでは少量のガソリンサブタンクを用いたコールドスタートシステムを採用している

三菱もブラジル用にパジェロをベースにしたパジェロ TR4 Flexを7月から販売。ブラジルでは初の本格的4WDのFFVだという

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員