ドラマ「半沢直樹」の快進撃が止まりません。『やられたら倍返し』のセリフは一躍有名になりましたが、前々回の放送ではついに半沢の妻、花の『銀行員の妻、なめんなよ!』という爽快なセリフが出ました。

今回はドラマ「半沢直樹」の妻、花に注目し、理想の妻の在り方の変化を追ってみたいと思います。

半沢直樹が好き過ぎて、原作者である池井戸潤氏の作品をほとんど読破してしまった私。池井戸潤氏はほとんど同世代で、同じ大学です。しかも私が一年生のときに在籍していた「推理小説同好会」の出身。勝手に親近感を感じています。

そして池井戸潤氏の描く夫婦像は同世代の典型的な夫婦像であることが多いです。つまり、妻は専業主婦、夫は大手企業のサラリーマンというものです(「半沢直樹」の原作での半沢夫婦は、例外で、妻は広告代理店勤務のキャリアウーマンですが)。私の教え子でもある女子大生たちが、まさにそのバブル世代の子どもたち。

両親にインタビューするレポートを書いてもらったら、父親は半沢世代。バブル期で比較的容易だった就職(「先輩に連れてってもらったら受かった」など)を経て、OLの妻と結婚し、その妻は夫の転勤などもあり、ほとんどが寿退社でした。

ドラマの半沢夫婦も原作とは違い、花も夫の転勤に伴って専業主婦となっているようです。

おもしろいことに、半沢直樹はサラリーマン小説でありながら、同じサラリーマンものの「島耕作」などとは違い、「浮気」、「不倫」などの「男の夢の定番」の女は出てきません。あくまでメインは男、男、男の日本の企業社会ががっちりと描かれています。男と闘うのも男なら、男を助けるのも熱い男の友情。

女は常に半沢に優しく寄り添い支える存在です。どの小説でも女たちはわき役なので、池井戸潤氏は女性を描くのが苦手なのかな~、とちょっと思うぐらい、ステレオタイプな「三歩下がって夫をたてる」妻がたくさん出てきます。ただでさえ仕事がたいへんなんだから、「女絡みの苦労は勘弁」というところでしょうか?

しかし、ドラマの半沢花は存在感を示しています。花の「妻力」がツイッター等で話題になっているぐらいです。

「恋人・夫婦仲相談所」所長の二松まゆみ氏は、「夫を立てる、癒やす、慰める、ハッパをかける、すねて甘える、ほほ笑む。まさに七変化で夫を上手にリードしている」と言っていました(上戸彩「半沢直樹」でひと皮むけた? 七変化で"妻力"好演2013.08.28)。

ドラマでの花は、フラワーデザイナーのプロでありながら、「夫が大切だから今は仕事はしない」と、夫を支える妻に徹しています。ただ、寄り添うだけでなく、「7つの妻力」を駆使し、たまには「ぜってー負けんじゃねーぞ!!」とすごむことも…。社宅妻の会合でも、上司の妻とはうまくやりつつ、裏で舌を出している。専業主婦でありながら、夫にべったり依存するわけではなく、あくまで自分は自分。疲れてきている男性たちには、こんな妻が理想の妻像なのでしょうか?

そんな花の名セリフが『銀行員の妻、なめんなよ!』です。

これは半沢が自宅に隠した(疎開という)書類を探しに来た金融庁の役人に対しての捨て台詞。「ここは主人の家であると同時に私の家。主人は銀行員だから何も言えないかもしれないけれど、私は一般市民だから言わせてもらうわよ。なんとか言いなさいよっ!」と、役人に詰め寄る花…カッコいい!

まあ本当は自宅に書類を隠す「疎開」という行為は、ばれたら懲戒免職もの(私もバブル時代の商社の頃に見たことがありますが)。そんなに妻が堂々としていられるような事態ではないのですが、「専業主婦でも夫は夫、私は私」という立ち位置が今っぽい。

花を見ながら「サラリーマンの妻、なめんなよ!」って、心の中で叫んだサラリーマンの奥様、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

昨今「専業主婦は肩身が狭い」というご時勢ですが、働く兼業主婦と違い、「家族を養うのは夫ひとり」というリスクの高い専業主婦になるという選択は、今の時代、かなり勇気のある決断だと思います。

「夫と一蓮托生。一銭も稼がず逃げ道なしの専業主婦、なめんなよ!」ってことで、半沢花のおかげで、奥様方の心もゲットしたドラマ半沢直樹。今後の視聴率が楽しみです。

著者プロフィール : 白河桃子(しらかわとうこ)

少子化ジャーナリスト、作家。一般社団法人「オサン・デ・ファム」アンバサダーとして、「女の子を幸せにする心とカラダの授業」プロデュース、「全国結婚支援セミナー」主宰。大妻女子大学就業力GP「ライフコース講座」講師および企画。山田昌弘中央大学教授とともに、2008年度流行語大賞にノミネートされた「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著『婚活時代』(ディスカバー21)がある。近著は、国立成育医療センター母性医療診療部不妊治療科医長、齊藤英和先生との共著で『妊活バイブル』(講談社)、『女子と就活 20代からの就・妊・婚講座』(中公新書ラクレ)。