「毎日のように怒ってしまう」「言うことを聞いてくれなくて困る」「夫(妻)と育児方針がかみ合わない」……などなど、育児に悩みは尽きません。特に、毎日忙しく過ごしている共働き夫婦なら尚更でしょう。

ここでは、育児中のマイナビニュース会員に"育児の悩み"についてアンケートを実施。寄せられたお悩みに対して"どのようにすべきか"を、NHKの育児番組でキャスターを務めた経験を持ち、現在は育児のセミナー講師や書籍執筆なども行っている天野ひかりさんに、アドバイスしてもらいます。

  • 子どもを「叱る」ことは悪いことなのか(写真:マイナビニュース)

    子どもを「叱る」ことは悪いことなのか


多くのお母さんお父さんが「なるべく叱らずに育てたいと思っています」や、「今日も怒りすぎてしまって、あとで自己嫌悪……」など、子どもを叱らずに褒めて育てるべきだと考えているようです。

一方で、「子どもが騒いでいても叱らない親がいて非常識だ」と感じる方も少なくなく、「悪いことをした時に、どのように叱ればいいのかわからない」と、叱ることができない親も増えているようです。

そこで今回は、「子どもを叱ることは悪いのか。正しい方法を教えてほしい」というご相談に、親子コミュニケーションアドバイザーがお答えします。

「叱ること」と「否定すること」は違う

「子どもを叱ってはいけない」という呪縛をそろそろ解いてもいいのでは、と思っています。

子どもが自ら夢中になっていることをやめさせて親の思い通りにさせるのは、叱ったとしても褒めたとしてもよくないことです。なぜなら、子どもは何かに没頭する中で、集中力や達成感、また効率的なやり方を身につけるからです。その機会を親の価値観で奪うことはもったいないですよね。

つまり、叱らないほうがいいのではなく、「子どもがやっていることを否定しない」ことが大切なのです。

ひとつの場面で考えてみましょう。病院で子どもが騒ぎ出してしまった時あなたはどうしますか?

「静かにしなさい! 大声で騒がないで!」と注意し、一瞬静かになってもまた騒ぎ出して、最後には雷を落としてしまう……なんてことが多いのではないでしょうか。

これは、"叱っている"というより"否定してしまっている"ので、子どもは納得できずに、何度も同じことを繰り返してしまうのです。そこで、以下の3つのステップを意識してみましょう。

【STEP1】子どもの視点で見て「認める」

「大声で騒ぐこと」は、場面が変われば素晴らしいことです。運動会やお祭りやイベントなどで、大声で盛り上がることができれば楽しいですよね。

ですから、まずは否定ではなく、「大声で騒ぐことができることはすばらしいことだね」と、認める言葉をかけます。これで子どもは一瞬、冷静になるでしょう。

【STEP2】親がお手本になる

次に、親が「騒いでしまって、申し訳ありません」と、周りの患者さんに謝ります。子どもは、大好きなお母さんお父さんが謝っている姿を見て初めて、自分のしたことを省みることができます。「ぼく(わたし)が、お母さんを謝らせるようなことをしてしまったんだ」と自分の行いを考え始めるのです。

悪いのは子どもなのに、なんで親が謝るの? と思われる方もいるかもしれませんが、病院に元気な子どもを連れてきてしまったのは親の責任なので、親が謝ります。子どもを騒ぎっぱなしにしている親は、やはり非常識ですね。親がちゃんと謝る姿を子どもが小さい時から見て育つことも大切なことです。

【STEP3】社会のルールを説明する

そして最後に、「病院には頭の痛い人や具合の悪い人もいるのだから、大声で騒ぐのはやめておこうね」と説明をします。子どもは自分を否定されていないので、お父さんお母さんの話を聞くことができ、自分の頭で考えるようになります。

1回ですぐにできるようにはなりませんが、毎回丁寧に子どもとコミュニケーションをとることで、確実に子どもは変わります。

「怒ってるときにこんな丁寧なことはできません、怒鳴りつけたほうが早いです」と思われる方もいるかもしれませんが、将来のことを考えると、実はずっと子どもの成長にとってはプラスとなります。ぜひ実践してみてください。

子どもを叱り、辞めさせるべき2つのこと

小さい頃から否定されずに育った子どもは、自分の頭で何が良く何がいけないことなのかを考える力が育てられているため、応用が利くようになります。

電車の中やレストラン、公園では、大声で騒いでもいいのか悪いのか、自分で判断できるようになります。そして、そこで更に何をすべきか考え、次のステップへ進むことができるのです。

同じ年齢なのにしっかりしたお子さんがいるのは、実は、生まれた時から否定されずに"考える力"をちゃんと育てられているからだと思います。

子どもが悪いことをしたら、ちゃんと叱ることはとても大切です。しかし、この悪いことは、親にとって都合の悪いことではなく、2つだけだと思っています。

「子ども自身の心や体を傷つけるようなこと」と、「相手の心や体を傷つけるようなこと」、つまり「命」に関わることです。

この2つは有無を言わせず、叱って辞めさせるべきですが、これ以外のことは別の視点に立てば良いことが多いため、親にとっての価値観やルールで子どもを縛り付けないように育てられたらと思っています。

「叱ること」「怒ること」どちらも大切

「叱る」とは、相手のことを思って注意してあげること。
「怒る」とは、自分の感情を爆発させること。

子どものために「叱る」のはいいが、「怒る」のはやめましょうという考え方があるのですが、子どものためを思って注意してあげるというのもなんだか不遜な気がしています。

子どもが親に言われて1番嫌なことばは「あなたのためを思って言ってるのよ」だからです。そう言われた子どもは、「私のためを思ってくれるなら、私のやりたい気持ちに寄り添ってよ。どうせ、自分のためでしょ」と受け取り、逆効果となりがちです。

親がいつも冷静に叱るより、我慢しきれない怒りを爆発させることも時には大切な感情だと思います。怒ってもいいのではないでしょうか。

怒ってもいい、叱ってもいい。だけど、否定せずにコミュニケーションを積み上げていくことで、子ども自身が"人間らしく""自分らしく"考えて、自立していけるのではないかと思います。