【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

たとえば世の女性たちに「好きなタイプの男性は? 」という質問をすると、今も昔も「優しい人」という答えが多く返ってくる。ルックスの良さや頭の良さ、話のおもしろさ、経済力などと並んで、優しさは普遍的な人気要素なのだろう。

そう考えると、「男性は優しくなりさえすれば女性にモテる」という方程式も成立しそうなものだ。これだけ優しさが女性のハートを射止めているわけだから、世の婚活男子はそこを満たすことで活路を見出せばいい。整形してルックスを向上させるより、仕事で成功して経済力を豊かにするより、はるかに実現性が高いモテ要素に違いない。

しかし、ここで厄介になってくるのが、その優しさの定義である。「優しい男は女にモテる」と言いつつも、その優しい男とはいったいなんなのかという部分が非常に曖昧だ。

ちなみに以前、僕が試しに妻のチーに「俺って優しい人だと思う? 」と聞いてみたところ、チーは不思議そうな顔で「さあ、普通じゃない? 」と答えた。なんでも、他人のことを思いやるといった一般的に優しいとされている行為のほとんどは、人間にとって特別変わったことではなく、普通の事柄であると、チーは考えているらしい。

確かにもっともだと思う。たとえば僕が誰かを思いやったとしても、それは人間として当たり前のことである。だから、そんな部分を大袈裟に取り上げられ、「私の主人は優しい人なのー」などと妻に嬉々として語られたら、恥ずかしさを感じてしまうだろう。だいたい、世界有数のモラル大国と称される現代日本においては、優しくない人のほうが稀少な存在なのだ。その稀少な存在がたまに凄惨な事件を起こすから、日本のニュース番組は仰々しく取り上げる。したがって、女性の多くが「優しい男が好き」なのであれば、それはすなわち大半の男性は女性にモテる要素を兼ね備えているということだ。

ところが、現実は違う。そんな当たり前の優しさの中にも、女性にモテるタイプとモテないタイプの2種類が確実に存在している。これは僕の勝手な分析だが、前者のような女性にモテるタイプの優しさとは、あからさまに女性にアピールする優しさのことだ。モテる男はただ優しいだけでなく、優しさアピールが驚くほど露骨なのだ。

たとえば合コンのとき、同じ男から見たら卑しいと思えるぐらい、意識的に女性への気配りをアピールする男がいる。酒を飲む前の女性に『ウコンの力』を配りながら「これを飲んでおいたら泥酔防止になるよ。飲みすぎないようにね」とわざわざ口に出したり、メニュー表を女性に向かって大袈裟に開きながら「俺は見えないけど、君が見えるならそれでいいから」とわざわざ口に出したり、女性のグラスの水滴をハンカチで拭きながら「手が濡れないようにね」とわざわざ口に出したり、とにかく優しさをこれでもかと言動に出して猛アピールする。彼らの中には「真の優しさとはさりげなさの中にあるもので、決して目立たせるものではない」といった男の美学はまるでない。しかし、そのぶん優しさの見せ方、気配りの表面化には長けているわけだ。

僕の個人的な美意識としては、そういう男性は苦手である。奥ゆかしさや恥の精神がないように思え、なんとなく女性にモテたいがために、どこまでも貪欲な男という下品な印象すら抱いてしまう。とはいえ、現実の恋愛社会には時間が足りないのか、男性が控えめな優しさをじっくり貫いたところで、そのほとんどは女性に伝わらず、自分の真の魅力に気づいてもらう前に、前述の優しさアピールくんに口説き落とされたりする。

そう、現代の恋愛社会にじっくりなんて言葉は似合わないのだ。一生に一度しかない青春という短い期間、あるいは婚活という人生最大のプロジェクトの中で、大成功をおさめようと思ったら、どこまでも貪欲に自分をアピールする必要がある。

たとえばデートのとき、男性が車道側を歩くことで女性を守るといった定番の優しさ攻撃を"さりげなく"やってはいけない。そこはいったん、わざと女性に車道側を歩かせてみて、良きところで「危ないからこっちを歩きなよ」とわざわざ口に出しながら、男性が車道側に寄るという優しさのプロセスを見せつけたほうがいい。そのほうが、女性が「この人は優しい」と認識するきっかけになるはずだ。

飲食店で対面に座るや否や、ジャケットなどの羽織ものを女性に渡し、「寒くなったらこれを使っていいよ。必要ないなら膝掛けにでもしたらいいから」とわざわざ口に出してアピールする行為もそうだ。事前に女性の終電時間を調べ、「今夜は○時までに店を出ないとね」とわざわざ帰りの心配をしてあげることで、安心感を与える行為もそうだ。食後にフリスクなどを渡し、「これあげるよ。口の中がすっきりするよ」とわざわざ口に出す行為も使えるだろう。とにかく、女性にモテるための優しさとは、人間としての真の優しさとはまったく別物であり、目に見える「わかりやすい優しさ」のことを指すわけだ。

要するに、優しい男がモテるという法則は少々言葉を省略しているのだ。正確には優しさをあからさまに振りまく、あるいは見せつけることが巧みな男がモテる、ということだろう。さりげなさの中にある男の美学は、ドラマや映画の中では観客に伝わるものの、現実の恋愛においてはほとんど伝わらない。優しさにはプレゼンが必要なのである。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
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