【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

最近、不眠症に悩まされている。ベッドに入って2、3時間が経過しても寝つくことができず、結局まったく眠れないまま朝を迎えるということが頻繁に起こる。もっとも僕は会社勤めではないため、一睡もしないまま家を出るということはない。しかし睡眠不足で原稿を執筆していると、集中力が持続せず、いいアイデアも浮かばないから厄介だ。

しかも間の悪いことに、朝をすぎると必ず眠くなるのだ。だから、そこがチャンスとばかりに眠るようにしており、そのときはスムーズに寝つけるどころか、平気で6~7時間ぐらい快眠に耽ってしまう。そう考えると、僕は真の意味で不眠症というわけではないのだろう。寝つくという行為にやたらと時間がかかってしまう非効率的な人間なのだ。

たとえば深夜2時に床に就いたとする。そこから2、3時間はベッドの中で寝られない苦しみを味わい、やがて開き直っていったん起きる。そして、なんとかして眠れないものかと自室で酒を煽りながら、本を読んだり、パソコンをいじったりして、時間を潰す。寝つけないときに酒を飲むと眠りが浅くなるため、かえって良くない、逆効果だという説はもちろん知っているけれど、それでも酒に頼ろうと思ってしまうのは僕の弱さだろう。

かくして不眠のまま朝になり、妻のチーが起きる午前7~8時ごろになって、ようやく眠くなる。そして、その後は6~7時間も眠ってしまうのだから、当然起床は正午を大幅に超えた午後2時~3時になり、そこから日々の執筆を開始する。もちろん開始時間が遅くなったからといって執筆時間が短くなるわけではなく、一日平均で8時間~10時間はパソコンに向かうようにしている。つまり、仕事が終わるのは午前0時を大きく超える……。

要するに、である。最近の僕が悩まされている不眠症改め"寝つきに時間がかかってしまう病"の最大の問題点は、生活のリズムがぐちゃぐちゃになるということなのだ。

昼夜逆転で一定のリズムを保てるなら、それはそれで夜の水商売みたいなもので、体さえ慣れれば問題ないのだろうが、僕の場合、昼帯に打ち合わせや取材、番組出演などの仕事が入ることも多く、昼夜逆転生活をするには少々無理がある。時に謎の自由業者だと蔑まれることも多い作家稼業だが、僕は意外にまともな生活を望んでいるのだ。

また、もうひとつの問題は僕が既婚者であるということだ。これが独身一人暮らしなら自由奔放に生活していればいいが、僕には子供はいなくとも妻のチーがいる。しかもチーは専業主婦ではなく、ごく普通の企業に勤める一般的なOLであり、毎朝定刻通りに起きては会社に出かけ、夜に帰宅するという一定リズムの生活を送っている女性だ。

したがって、僕が無茶苦茶なリズムで生活していると、当然のようにチーにも被害が及ぶ。本来のチーは翌朝の出社時間を考えると、最低でも深夜2時までには床に就きたいところだが、最近の僕が朝まで寝つけなくなっているせいで、チーの就寝時間も午前3時~4時と、日に日に遅くなっている。しかもチーの場合、起床時間に変わりがないため、単純に睡眠時間がどんどん削られている。それを証拠に休日のチーは昼すぎまで爆睡していることが非常に多い。きっと平日の寝不足の影響が、週末に一気に出るのだろう。

夫として、これほど罪悪感を覚えることはない。自分のせいで、妻に多大な迷惑をかけているのだ。だから僕は、いつもチーに口酸っぱくこう言っている。

「俺のことは気にしないでいいから、自分のリズムで寝てくれ」

しかし、それでもチーの生活リズムは僕次第で変化してしまう。こないだなんか午前3時をとっくにすぎているのに、チーは平気な顔でリビングのパソコンで遊んでいた。つまり、特にこれといった理由もないのに、ただ起きているだけなのだ。

これを妻の愛だと言う人もいるかもしれない。しかし、僕は少し違うと思う。どうせ朝方まで眠ることができない不肖の夫に無理して付き合われたほうが、僕としては罪悪感で胸がますます苦しくなる。その理屈はチーもわかっているはずだ。大体そんな話をエッセーとして書いたら、ただのノロケ話じゃないかと、読者から非難されるだろう。

しかるにこれは、チーの次女根性だと思う。チーには姉がいるのだが、このお姉様がこれまた一筋縄ではいかない強烈な長女キャラの持ち主であり、リーダーシップが服を着て歩いているような女性である。聞けば、子供の頃のチーは彼女の妹というより、ほぼ舎弟のような存在だったらしく、何をするにも常にお姉様の後ろにくっつき、お姉様のやることなすことに追従する日々を送っていたとか。まさしく金魚のフンだ。

つまり、チーには潜在的に誰かに追従するという性分が刷り込まれているのだ。それを証拠に、僕がたまに早い時間に寝ようとすると、なぜかその日に限ってチーも早い時間に寝ようとする。本人は「たまたま、わたしも眠くなっただけ」と弁解していたが、信じられるわけがない。定食屋に入っても、僕と同じ物を頼む確率が異常に高いのだ。

いずれにせよ、潜在的に刷り込まれた性分なら諦めるしかない。僕が昼夜逆転生活を続けるうちは、チーも必然的に寝不足に陥るだろう。かくして、僕の罪悪感は解消の兆しすらなく、そのせいで余計に寝つけなくなるというスパイラルに陥るのであった。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
山田隆道Official Blog
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