近畿日本鉄道の新型名阪特急「ひのとり」が3月14日にデビュー。6月13日から「ひのとり」を使用する列車が増え、名阪特急(大阪難波~近鉄名古屋間)で平日10往復・土休日11往復、阪奈特急(大阪難波~近鉄奈良間)で平日2往復、土休日1往復となった。
「ひのとり」の車両80000系はメタリックレッドの外観と豪華な内装で注目を集め、現在活躍中の6両編成に続き、今後は8両編成も導入される予定。近鉄は80000系を計72両(6両編成×8編成、8両編成×3編成)製造し、2020年度中に名阪甲特急(途中停車駅の少ないタイプ)の全列車を「ひのとり」で運行する計画と発表している。
6両編成・8両編成ともに先頭車が「プレミアム車両」、中間車が「レギュラー車両」となり、「ひのとり」のコンセプト「くつろぎのアップグレード」にもとづき、全席でバックシェルを設置するなど、居住性の向上に力を入れた車両となっている。
■バックシェル以外にも細かな配慮が行き届いた車内
筆者は6月の平日を利用し、「ひのとり」の乗り心地や車内サービスなどを確認するため、大阪難波~近鉄名古屋間で乗車。往路は大阪難波駅10時0分発、近鉄名古屋行「ひのとり」10列車の「レギュラー車両」を予約した。
大阪難波駅には発車30分前の9時30分頃に着いたが、平日朝のラッシュが終わった時間帯ということもあり、また昨今の不要不急な外出自粛の流れもあってか、ホームはいつもと比べて閑散としていた。9時45分、2番線ホームに「ひのとり」が入線。スピード感あふれる車体フォルムとメタリックレッドの組み合わせが非常に目立つ。
10時0分、ほぼ定刻に大阪難波駅を発車すると、大阪市内の主要駅である大阪上本町駅、鶴橋駅の順に停車。ビジネスマンらが多く乗車してきた。鶴橋駅を発車すると高速運転となり、今里駅を通過する頃には100km/hを超えていた。
「レギュラー車両」の車内は横4列(2列+2列)のレギュラーシートが配置され、各座席とも背面の部分がバックシェルで覆われている。レギュラーシートに座り、最初に驚いたのが座席の前後間隔の広さだった。レギュラーシートの前後間隔は116cmとされ、東海道新幹線の普通車の座席よりも10cm以上広い。足もとにゆとりがあり、フットレストも付いているため、普通車というよりグリーン車に近い感覚だった。
シートを倒してみると、バックシェルがあるおかげで後列の人を気にする必要もなく、じつに心地良い。筆者自身、電車の車内でシートを倒しきったのは今回が初めてだった。シートが倒れるだけでなく、連動して座面も動くため、腰に違和感もない。乗車中、トイレに行くときに気づいたことだが、席を立つ際、倒したシートを元に戻す手間が省ける点も、バックシェルで覆われた座席のメリットといえるだろう。
シートの背面に設置された大型テーブルはノートパソコンを置けるサイズで、手前に引き出せるようになっているため、シートを倒した状態でもパソコンや書き仕事は十分に可能だろう。缶コーヒーを置ける小テーブルも用意されている。
大阪難波~近鉄名古屋間の昼間時間帯における所要時間は2時間強。到着まで、映画鑑賞などで楽しむのも良いだろう。各座席とも肘掛けにコンセントが付いているので、パソコンやスマホ、タブレットのバッテリー残量を気にする必要もない。実際、筆者が乗車中の車内でも、タブレットで映画を楽しんでいる乗客を見かけた。バックシェル以外にも細かな配慮が行き届いており、これもレギュラーシートの特徴といえる。
■ICカードタイプのロッカー、ベンチスペースなどの設備も
10時28分、「ひのとり」は橿原線と接続する大和八木駅に到着。青山町行の急行と接続しているせいか、大和八木駅から乗車する人は意外に多かった。大和八木駅を発車すると、次の津駅まで途中駅には停まらない。その間、「レギュラー車両」(2~5号車)の乗車率は5割程度といったところだった。ビジネスマンの利用が目立つが、家族連れなど観光で利用する人たちもいた。
「ひのとり」には乗客をサポートするための新しい設備が備わっている。一部車両において、デッキ部にロッカーと多目的で利用可能なベンチスペースが設置された。
ロッカーは鍵タイプとICカードタイプがあり、いずれも無料で利用できる。ICカードタイプは「PiTaPa」「ICOCA」「Suica」などの主要な交通系ICカードが使え、カードをロッカー側にかざすと解錠され、ロッカーを開閉できる。ロッカー側の反応は良好で、操作に関してとくに支障はなかった。
ベンチスペースには大型の窓が設置され、景色を楽しみながら一服できる。ただし車端部にあるため、100km/h以上の高速運転が続くと揺れが激しくなる。その他、近鉄特急らしい車内設備として、3号車の喫煙室が挙げられる。喫煙室は喫煙席の廃止に伴い設置されたが、大阪難波~鶴橋間や近鉄名古屋駅などの地下区間では利用できない。
■「ひのとり」が名阪特急の主役になったと実感
11時13分、「ひのとり」は伊勢中川駅付近の中川短絡線に入り、大阪線から名古屋線へと進む。11時20分頃、津駅到着を知らせる自動放送が流れ、「ひのとり」が通過する白子駅、近鉄四日市駅、桑名駅に停車する近鉄名古屋行の特急列車への乗換えが案内された。この列車は五十鈴川駅始発で鳥羽線・山田線・名古屋線を経由し、津駅到着は「ひのとり」発車からわずか3分後。こうした特急列車同士の接続は近鉄の「得意技」と言えよう。
津駅ではビジネスマンの乗降があったものの、多くの人が近鉄名古屋駅まで乗り通すようだった。その後、11時43分に近鉄四日市駅を通過し、近鉄名古屋駅へ向けてラストスパートをかける。つねに100km/h以上で駆け抜け、走りっぷりも軽快だった。
12時6分、「ひのとり」は近鉄名古屋駅5番線ホームに到着した。先頭車の周囲にはスマートフォンを持った利用者らが集まり、新型車両の姿を写真に収めていた。しばらくすると、1988(昭和63)年デビューの21000系「アーバンライナー plus」がホームに入線したものの、この車両を撮ろうとする人はいなかった。名阪特急の主役が完全に「ひのとり」になったことを実感した。