近畿日本鉄道は2月5日、新型車両80000系「ひのとり」の報道関係者向け試乗会を実施した。大阪上本町~榛原間を往復し、沿線の人々も熱い視線を送っていた。「ひのとり」は3月14日にデビューし、大阪難波~近鉄名古屋間を中心に運行される。

  • 近鉄80000系「ひのとり」。車体のメインカラーに「ひのとりレッド」を採用(写真:マイナビニュース)

    近鉄80000系「ひのとり」が大阪上本町駅に入線。車体のメインカラーとして、「ひのとり」のシンボルである「ひのとりレッド」を採用した

当日は大阪地区・名古屋地区でそれぞれ試乗会を実施。大阪地区の試乗会は午前・午後の2回に分けて行われ、午後の部では13時頃、「ひのとり」が大阪上本町駅を発車した。列車は大阪線を走行し、13時49分に榛原駅に到着し、5分ほど停車した後、折り返して大阪方面へ。大阪上本町駅には14時30分頃に到着した。

「ひのとり」を見ての第一印象は、「気品とスピード感を兼ね備えた車両」というものだった。車体のメインカラーに、「ひのとり」を象徴する「ひのとりレッド」を採用している。近鉄の一般車両も赤系の塗装をまとっているが、「ひのとりレッド」は赤ワインのような深みのある色に感じられた。

  • メタリックレッドのカラーリングを施した先頭車。「ひのとり」のロゴマークもある

  • 大阪上本町駅では旧塗装の特急車両12200系と並んだ

先頭車はメタリックレッドのカラーリングに加え、形状も相まってスピード感がある。車体側面のラインとロゴマークは「プレミアムゴールド」のカラーリングとし、「ひのとりレッド」との相乗効果で気品ある魅力的な特急列車を演出している。

■ハイレベルの座席を手頃な料金で利用できる

試乗会で使用された「ひのとり」は、先頭車の1・6号車が「プレミアム車両」、2~5号車が「レギュラー車両」の6両編成。「プレミアム車両」は床面の高いハイデッカー構造で、本革使用の「プレミアムシート」が横3列(2列+1列)のレイアウトで並ぶ。

「プレミアムシート」には読書灯、シートヒーター、大型テーブル、カップホルダー、コンセントなどが備え付けられている。肘掛には電動リクライニングや読書灯などを操作できるボタンがある。試しにシートを倒すと、座面も連動し、「座る」というより「寝る」感覚に近い。ヘッドレストも高さ・角度を調整できる。座席間の前後間隔は日本の鉄道車両で最大級という130cm。足を気兼ねなく伸ばせるのがうれしい。

「ひのとり」における最大の特徴が、「プレミアム車両」「レギュラー車両」の全座席にバックシェルを採用したことだ。座席を覆うバックシェルのおかげで、後列の乗客を気にすることなく背もたれを倒せることは特筆に値する。

  • 「プレミアム車両」の車内。横3列の「プレミアムシート」が並ぶ

  • 「プレミアムシート」を後ろに倒すと、「座る」より「寝る」感覚に近い

  • 「プレミアムシート」を覆うバックシェル

  • 収納式の大型テーブルなどを出した状態

「プレミアム車両」はハイデッカー構造のため、通常より目線が高くなり、見晴らしが良い。運転台からの前面展望では、後列であっても迫力満点の車窓を楽しめる。このように、車内からの眺望の良さも「プレミアム車両」の特徴といえる。「プレミアム車両」では、観光特急「しまかぜ」からグレードアップした電動式のフルアクティブサスペンションを採用しているため、横揺れが少なく、滑るように快走する。

2~5号車の「レギュラー車両」は、JRの新幹線・特急列車だと普通車に該当する車両だが、車内の「レギュラーシート」は新幹線・特急列車のグリーン車と比べても遜色ない印象だった。「レギュラーシート」もリクライニングと同時に座面が動くため、背もたれを倒しても腰に違和感がない。「プレミアムシート」と同様、各座席にバックシェルが装備され、後列の乗客を気にすることなくリクライニングできる。

  • 「レギュラーシート」はグレーを基本にしたシックな雰囲気

  • リクライニングすると、連動して座面も動く

  • 「レギュラーシート」のバックシェル

  • 背面テーブルなどを出した状態

座席の前後間隔にも注目したい。「レギュラーシート」の座席間隔は116cmとなっており、標準的な新幹線グリーン車と同じ値である。フットレストも備え付けられており、近鉄名古屋駅で東海道新幹線のグリーン⾞から乗り継いだ場合でも違和感はないだろう。「レギュラーシート」にもコンセントと大型テーブルが設置されているため、パソコン等を使っての仕事にも打ち込める。

ハイレベルな座席が注目されがちな「ひのとり」だが、座席以外の設備も忘れてはいけない。「プレミアム車両」のデッキ部には「カフェスポット」があり、1杯200円で挽きたてのコーヒーを楽しめる。他に紅茶やお菓子も販売する予定だ。

  • 「プレミアム車両」のデッキ部には「カフェスポット」があり、1杯200円でコーヒーが楽しめる。大型荷物対応のロッカーも設置された

  • 「レギュラー車両」の一部車両のデッキ部に設けられた「ベンチスペース」

  • 喫煙室もあるが、地下区間の大阪難波~大阪上本町間や一部の駅では利用できない

「レギュラー車両」の一部車両のデッキ部に設けられた「ベンチスペース」は、携帯電話の使用や気分転換などに使えるスペースとなっている。大阪難波~近鉄名古屋間を走る「ひのとり」は停車駅の少ないタイプの特急列車に使用される予定のため、「ベンチスペース」にいても、それほど乗降客を気にすることなく過ごせるだろう。

大型荷物を持っている場合は、デッキ部のロッカーや荷物置きスペースを利用したい。ロッカーは鍵タイプとICカードタイプがあり、無料で利用できる。

近鉄特急らしい設備としては、喫煙室を設置したことが挙げられる。近鉄特急は2月から喫煙車を廃止し、一方で喫煙室の設置を進めてきた。「ひのとり」にも喫煙室が設けられたが、地下区間である大阪難波~大阪上本町間をはじめ、大阪難波駅や近鉄名古屋駅などホームが屋内にある駅では喫煙室を利用できない。

  • 先頭車からは迫力ある前面展望が楽しめる。途中、高安検車区で近鉄の特急車両・一般車両なども見ることができた

「ひのとり」で大阪難波~近鉄名古屋間を利用した場合、料金の合計金額は「プレミアム車両」が5,240円、「レギュラー車両」が4,540円。一方、東海道新幹線の名古屋~新大阪間で普通車自由席を利用した場合の料金は5,940円(通常期)。新幹線よりも安い料金で国内最高級の座席を利用できることが、「ひのとり」最大のセールスポイントといえるだろう。3月14日にデビューする「ひのとり」の活躍に、大いに期待したい。