大人の遊び心をくすぐる「キダルト(キッズ+アダルト)」ホビーを紹介する当連載。今回は鉄道関係でキダルトに向いたホビーとして、Nゲージ鉄道模型に焦点を当てていきたい。
トミーテックが展開するNゲージサイズのディスプレイモデル「鉄道コレクション」において、今年2月に養老鉄道7700系が2種類発売された。養老鉄道は三重県と岐阜県で運行する地方私鉄。同社に譲渡された7700系は、2018年11月まで東急電鉄で活躍していた。鉄道好きでなくても、見たことのある人は多いのではないだろうか。
東急電鉄7000系から7700系へ - 養老鉄道に譲渡、現在も活躍中
養老鉄道7700系の実車は、ルーツをたどると東急電鉄の7000系(初代)にまでさかのぼる。東急電鉄の7000系は、1962年に登場した日本初のオールステンレスカー。東急車輛製造と米国パッド社が技術提携を交わして製造された。7000系は東急電鉄の鉄道線(一部路線を除く)で活躍したが、一部車両を7700系に改造、または他社へ譲渡し、2000年に引退した。7000系としての譲渡車両は、現在も弘南鉄道、北陸鉄道、水間鉄道で見ることができる。
その7000系を改造して誕生した車両が7700系となる。1987~1991年に改造され、制御装置をVVVFインバータ制御化して台車も新製。冷房化および内装の更新など行った。大井町線・目蒲線で運行した後、池上線・東急多摩川線に転属し、2018年11月まで活躍した。
東急電鉄で活躍した7700系のうち、一部編成が養老鉄道へ譲渡された。養老鉄道の7700系は3両編成・2両編成を3本ずつ運行している。7000系時代から数えれば現時点で63年経つため、東急線利用者の多くが一度は見たことがあると思われる。
Nゲージ鉄道模型としても、東急電鉄7000系はトミーテックの「鉄道コレクション」(事業者限定品)だけでなく、KATOも「レジェンドコレクション」として製品化したことがある。「鉄コレ」からは、過去に地方私鉄譲渡車両も製品化された。グリーンマックスはエコノミーキット(未塗装組立てキット)として展開している。
7700系のNゲージは、東急電鉄7700系(事業者限定品)と、養老鉄道7700系のTQ03・TQ12編成を「鉄道コレクション」で製品化したことがある。他社製品だと、グリーンマックスのエコノミーキットを改造して自作することになるが、未塗装キットを組む時点でそれなりの手間がかかるため、完成品として入手できる「鉄道コレクション」の存在はありがたい。
赤歌舞伎塗装と緑帯編成をNゲージ化、両編成の違いも作り分け
今回発売された商品は、「養老鉄道7700系 TQ14編成3両セットC」(9,900円)と「養老鉄道7700系 TQ05編成2両セットA」(6,600円)の2種類。TQ14編成は、3両編成3本のうち、製品化していなかった最後の1本。TQ05編成は、2両編成3本の中で初の製品化となった。
TQ14編成は前面貫通扉を黒く塗装し、その左右から側面下部にかけて赤色のラインを配した「赤歌舞伎」塗装。東急電鉄時代にはなかったスカートを追加し、パンタグラフをシングルアーム化した。前面・側面の行先表示に「大垣」も印刷済み。前面貫通扉は別パーツで取り付けられ、奥行きを感じる外観に。前面の連結器はダミーカプラーとなっている。
両先頭車「モ7714」「ク7914」において、前照灯・後部灯の周囲の形状が若干異なっており、「モ7714」は下に狭くなる形状、「ク7914」は小判型となっている。過去に発売されたTQ03編成・TQ12編成もライト周りの違いを再現していたが、TQ14編成は両先頭車で形状が異なっていた。このような細かな違いは、実車だと意外に気づかないかもしれない、鉄道模型としても面白いポイントと感じている。
内装パーツは実車の座席の色に合わせて黄緑色に。床部も同様に黄緑色となっているので、気になる場合は自身で塗装すると良いだろう。なお、3両編成の7700系は本来、中間車両の一部座席を転換クロスシートに換装しているが、「鉄道コレクション」ではこれを再現していない。後述する動力ユニットを中間車両に組み込む場合、内装パーツは外すことになるので、無理に気にしなくても良いのではないかと思う。
対するTQ05編成は、「鉄コレ」の養老鉄道において初という2両編成。前面窓下に細いライン、側面下部にひと回り太いラインを配し、緑の濃淡をあしらった外観を再現している。TQ14編成と同じく、前面にスカートを追加し、パンタグラフをシングルアーム化。前面の行先表示に「桑名」を印刷済みだが、こちらは側面の行先表示がない。違いは塗装のみと思えるかもしれないが、編成ごとの細かな違いも的確に再現されている。
どちらも屋根に取り付ける無線アンテナと動力ユニット用の台車枠が別パーツで付属している。アンテナを取り付ける場合、車体の裾を少し広げて床板から分解した後、裏側からネジ留め式の屋根を外す。外した屋根の指定位置に1.0mm径のドリルで穴を開けることで、アンテナを取り付けられる。動力ユニット用台車枠は動力化の際に使う。この製品は車体と床板がわりとぴったり嵌まっているので、分解時は爪が噛み合っている部分を慎重に探ってほしい。
もちろん、前回品のTQ03編成・TQ12編成を持っていれば、さらなるカラーバリエーションを楽しめる。首都圏を離れ、JR東海や近鉄の車両とも一緒に見られるようになったので、東急電鉄の車両や桑名駅・大垣駅周辺で活躍する車両など集めてみても面白いだろう。
数年前と比べてNゲージ全体の価格が上がっていることは唯一気がかりな点だが、それでも7700系のプラスチック完成品は「鉄コレ」ならでは。近隣の鉄道模型専門店、量販店、通販等をチェックしてみてほしい。
動力化や部品交換の方法は
厳密に言うと、「鉄道コレクション」はNゲージサイズのディスプレイモデルであり、購入しただけではNゲージ鉄道模型としての運転を楽しめない。もし運転も楽しみたいなら、動力ユニットを組み込み、トレーラー車の車輪も金属製に交換する必要がある。
「鉄道コレクション」では、各車両の長さに対応したNゲージ動力ユニットも販売している。養老鉄道7700系の場合、「TM-08R 18m級A」が適合する。動力に付属の床下スペーサーを動力ユニット両端、車両に付属している台車枠を動力台車にそれぞれ取り付ける。続いて、もともとの床板から床下機器を外し、動力ユニットの床下に付け替える。これで「鉄道コレクション」の車両がNゲージ鉄道模型として走行できるようになる。
2両編成はどちらかの先頭車両、3両編成はいずれか1両に動力ユニットを組み込めば良い。ただし、動力化する車両からは内装パーツも取り外すことになる。だからこそ、3両編成の7700系は中間車両に動力ユニットを組み込むほうが良い。そうすることで、転換クロスシートの省略がそもそも気にならなくなる。
動力ユニットを入れないトレーラー車においても、金属車輪やカプラーを走行用パーツに交換する。養老鉄道7700系の場合は、「TT-03R(車輪径5.6mm 2両分:クロ)」を1つ使用する。台車枠を少し広げてプラスチック車輪を外し、「TT-03R」付属の金属車輪を新たに取り付ける。カプラーを交換した後、連結間隔が若干縮まり、スプリングが組み込まれているため、連結しやすくなる。床板と内装パーツの間にウェイトを組み込むことで、重量が増え、安定した走行がしやすくなる。
ちなみに、前面のカプラーはダミーカプラーとなっているので、そのままだと前面の連結はできない。ただし、頻繁に他編成と連結する車種ならまだしも、7700系においてそのような機会は基本的にないので、ダミーカプラーのままでも問題ないだろう。
今回のような電車であれば、パンタグラフも交換したほうがより実感的になる。そこで、TOMIX「PT7169-A形パンタグラフ(2個入)」を1つ使用した。もともとのパンタグラフを屋根から外し、新しいパンタグラフを取り付け、穴に差し込むだけで交換完了となる。パンタグラフをたたむこともでき、収納しやすくなる。
簡単な作業で、東急電鉄時代に近い雰囲気も再現できる!?
製品そのままでも楽しめる7700系だが、3両編成で「赤歌舞伎」塗装のTQ14編成は、一部部品の撤去や交換次第で東急電鉄時代の雰囲気に一層近づけられる。先頭車両のスカートを撤去し、パンタグラフをシングルアームではなく菱形に交換。行先やコーポレートマークなど細かい箇所に目を瞑れば、それだけで東急電鉄時代の7700系に近づけられる。
厳密に東急電鉄時代に戻したい場合、内装パーツを東急電鉄時代の色調に塗装し、他社製のステッカー・インレタ(インスタントレタリング)で東急電鉄時代の行先・社紋を貼り付けると良いだろう。それ以外にも、戸当たりゴムや冷房のメッシュに黒色で色差しを行うことで、外観がより引き締まる効果もある。さらなるグレードアップをめざす場合は試してみても良いだろう。ただし、これらの改造・加工は必ず自己責任で行ってほしい。
鉄道模型全般にいえることだが、決して無理な力を加えないことにも注意してほしい。「鉄道コレクション」のような大手メーカーの製品であれば、部品同士を爪で固定していることが多いので、その勘合部分を探り、ていねいに扱っていけば良い。構造がわかってくれば、さらに鉄道模型への理解や愛着が深まるだろう。
「鉄道コレクション」で5年ぶりに発売された養老鉄道7700系。3両編成の「歌舞伎塗装」TQ14編成は東急電鉄時代の面影をよく残し、緑帯のTQ05編成は2両編成で扱いやすい。そのままでも十分だが、走行化や色差しなどにより、さらなるグレードアップも見込める。東急線または養老鉄道で見たかもしれない車両をNゲージで手もとに置いてみてはいかがだろうか。