みなさんは「経済ニュース」と聞いてどんな印象を受けるでしょうか。「専門的で難しい」「自分の生活とは縁遠い話」といったイメージを持つ人も少なくないでしょう。なかには、就職などを機に経済記事を読まなければならなくなり、頭を抱えている人もいるかもしれません。
確かに慣れないうちは、経済ニュースは読んでもよくわかりません。専門用語がたくさん出てくるし、事件や芸能に関するニュースと違って具体的なイメージをともなわない抽象的な話が多いからです。
でも、本当は経済ほど私たちの生活に密着したニュースはありません。それは、私たちの生活のほとんどが経済活動だからです。一見すると経済とは関係がなさそうなニュースの背後にも、経済的な要因が強く働いていることはしばしばあります。
このシリーズを読もうと思った方は、なんらかの理由で「経済ニュースを理解したい」と思っているはずです。だとすれば、まずは経済ニュースに対するこれまでの「思い込み」や「苦手意識」をいったん忘れることから始めましょう。それはそんなに難しいことではないし、このシリーズはその手助けができると考えています。
そもそも「経済」って何?
さて、そもそも経済とは何でしょう。もしみなさんが小学生から「経済って何?」と聞かれたら、どう答えますか。意外と、すっきり説明するのは難しいと思います。
「お金の話だよ」という答えは、まったくの間違いではありません。ただ、お金は経済の一面を表しているにすぎません。むしろ、そういう理解は、経済の本質を見失う原因になるので注意が必要です。
では、経済とは何なのか。いろいろな説明が可能ですが、このシリーズでは「社会の中で人々が物やサービスを生み出し、交換すること」と理解しましょう。
昨日、自分が何をしたか思い出してみてください。朝、電車に乗って学校や職場に出かけたとしたら、それは経済活動です。鉄道会社で働く人々が生み出した「運輸サービス」を、お金と引き換えに受け取っているからです。もし、うちに帰って家族にご飯を作ってあげたとしたら、それも広い意味では経済です。お金は受け取っていなくても、ご飯を作るというサービスをだれかに提供しているからです。
こう考えると、「経済=お金」ではないことも見えてきます。例えば物々交換のように、お金を介さない取引も存在するのです。
もちろん、お金があると、物々交換に比べ、取引はスムーズに進みます。
例えばAさんがクッキーを持っていて、Bさんが持っているチョコレートと交換したいと思ったとします。でも、Bさんがクッキーを嫌いで、キャンデーを欲しがっていれば、取引は成立しません。AさんがBさんからチョコレートを受け取るには、キャンデーを持っていて、なおかつクッキーを手に入れたいと思っているだれかを見つけなければならないでしょう。
ところが、お金があれば、この問題はすぐに解決します。Aさんがお金を持っていればBさんからチョコレートを直接買えばいいし、なければクッキーを売ってそのお金を支払いに充てればいいからです。
つまり、お金があることで経済はスムーズに回るようになります。お金は取引以外にも、クッキーやチョコレートの「価値」を「値段(価格)」という形で表すものさしにもなります。ただ、お金はこうした交換を助ける道具でしかなく、「経済」そのものではありません。経済とはあくまでも、私たちの活動(働き)そのものを指すのです。
ニュースを理解するためにおさえたい「経済の流れ」
では、その経済に関するニュースを理解するにはどんな知識が必要でしょう。もちろん、経済用語をたくさん知っていた方が有利であることは間違いありません。ただ、いくら経済用語を覚えても、経済の仕組みが見えてくるとは限りません。
そもそも、「GDP」や「タックスヘイブン」といった言葉をひたすら暗記するのは苦痛です。経済を学ぼうとする人の多くが、この方法で経済を理解しようとして挫折します。
では、どうしたらいいのか。私がお勧めしたいのは、まず「経済の流れ」をしっかり頭に入れることです。実は、経済というものは「金融」とか「流通」とか「景気」といった個々の現象がバラバラに存在しているものではなく、それぞれが相互につながっています。そして、そこには水が高いところから低いところに流れるように、一定の法則があるのです。
そうした経済の全体像を頭に入れた上で、改めて個々の経済現象を見ると、理解の深さが全く違ってきます。見知らぬ土地をやみくもに歩くより、地図を持って歩く方が、目的地にたどり着きやすく、その地域のことを理解しやすいのと同じです。
経済の仕組みや法則がわかれば、ニュースを見た時に「何が原因か」「次に何が起きるか」「自分の生活にどんな影響があるか」といった推測ができるようになります。そして、どんなニュースでもそうした推理ができるようになると、読んでいて面白くなるものです。
ですから、まずは細かい経済用語にはこだわらず、「経済の流れをざっくり頭に入れる」ことから始めましょう。その際、常に「自分の生活にどう関係するのか」を考えるのも重要なコツです。そしてそれこそが、経済を本当の意味で理解する王道なのです。
著者プロフィール:松林薫(まつばやし・かおる)
1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。経済解説部、東京・大阪の経済部で経済学、金融・証券、社会保障などを担当。2014年、退社し報道イノベーション研究所を設立。2016年3月、NTT出版から『新聞の正しい読み方~情報のプロはこう読んでいる!』を上梓。