スズキが開発している電動モペッド「e-PO」(イーポ)は、ペダルの付いた電動スクーターといった感じの乗り物だ。一見すると自転車のようで簡単に乗れそうだが、車両区分が「原付一種」と聞くと、いわゆる原チャリに乗ってこなかった紙ドライバーとしては心理的ハードルが上ってしまう。普通に乗れるものなのか、実際に試してきた。

  • スズキの電動モペッド「e-PO」

    スズキの電動モペッド「e-PO」を体験! 場所は味の素スタジアム(東京都調布市)に隣接する「あじペン広場」

e-POってどんな乗り物?

原付一種(50cc以下のバイク、いわゆる原チャリ)は排ガス規制の基準をクリアするのが難しいことから、2025年11月以降は生産できなくなってしまうと言われている。とはいえ、多くの人が日々の移動手段として原付を使っている(2022年3月時点の保有台数は約449万台)のは現実なので、何らかの代替案が必要だ。

スズキとしては、割と長い距離を原付で移動している人には125ccに、近距離の足として原付を使っている人には電動モペッドにそれぞれ移行してもらえないかと考えているらしい。

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    日常の足として電動モペッドはどうでしょう?

e-POは右側のハンドルに付いているスロットルをひねれば(電動)スクーターのように走り、ペダルを漕げば電動アシスト自転車に早変わりする乗り物。スズキとパナソニックの共同開発で、バッテリーはパナソニックサイクルテック製の電動アシスト自転車と同じものを使っている。つまり、バッテリーが簡単に手に入るので、スマホや電気自動車(EV)のようにバッテリーが「へたる」ことを心配しなくてもいい。

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    「e-PO」のハンドルはまっすぐなタイプ。またがると地面につま先が付くくらいの位置にサドルの高さを調整し、前傾姿勢で乗る

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    右ハンドルのグリップの根元の部分がスロットルになっていて、ひねると前進する。7段の変速機が付いているので、電動アシスト自転車として漕いで進む際には路面状況に合わせてギアを調整しよう

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    左のハンドルにはウインカーを出すスイッチとクラクションを鳴らすボタンが付いている

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  • 写真の「e-PO」が積んでいるのは容量16Ahのバッテリー。この状態でスクーターとして(ペダルを漕がずに)走ると、20km以上は移動できるとのことだった

20kmも走れば日常の移動には十分なような気もするが、出先でのバッテリー切れはやっぱり心配。ただ、e-POにはペダルが付いていて、漕げば電動アシスト自転車そのものなので、航続距離は伸ばすことができる。人力で電力の肩代わりをしてやればいいというわけだ。

バッテリー残量が少なくなると、電力を灯火類などだけに使用する「ペダル走行モード」に移行する。ペダルを漕いだぶんだけ走る(漕いだぶんだけしか走らない)状態、つまりは自転車と同じだ。ただし、e-POはあくまで原付一種の分類なので、単なる自転車の状態になってもヘルメット着用は必須だし、原付と同じ交通ルールを守らなくてはならない。バッテリーが完全に切れて灯火類の使用ができなくなった場合は、押して歩くしかない。

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    見た目は自転車だけどナンバー付き。あくまで原付一種という分類なので、原付と同じ交通ルールに従って乗ろう

バイク経験なしでe-POに乗れるのか

自転車については小さなころからかなり親しんできた紙ドライバーだが、スクーターには乗ったことがなかった。厳密に言えば、一度だけまたがってスロットルをひねってみたことはあるのだが、ひねり具合がわからず急発進させてしまい、田んぼに突っ込んだことはある。そんな苦手意識があるものだから、スクーターを買ってみようという気にはなれなかった。

なのでe-POについても、うまく乗れるかどうか少し不安だったのだが、実際に走り出すと操作は簡単で、すぐに慣れることができた。

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    結論:「e-PO」は自転車に乗れる人なら誰にでも乗りこなせる乗り物でした

停止状態からスロットルをグイっとひねっても、発進はそこまで鋭い加速ではなく、どちらかというとゆるやか。加速が物足りなければ自転車のように漕いで発進すればいい。電動アシスト自転車は人力1:モーターのアシスト2の「2倍アシスト」が一般的だそうだが、e-POは「3倍アシスト」になっている。ペダルを漕いで走ると驚くくらいに速い。

e-POのいいところは、スロットルをひねって「フル電動走行モード」で走っていても、ペダルを漕ぎ始めればシームレスに「アシスト走行モード」に移行するところ。いつでも電動アシスト自転車状態に戻せるし、何なら地面に足を付けば自転車と同じ感覚で停止していられるというのは、なんとも安心感がある。

バッテリーは取り外せるので、自宅に持って帰って充電できる。e-POは折りたためばけっこう小さくなるので、置き場所にもそこまで困らないだろう。ただし、16Ahバッテリー込みで重量が23kgだから、アパート・マンションなどの2階以上に住んでいて、普段は部屋に置いておき、外出の際には階段で持ち運ぶという運用はやめた方がよさそうだ。いくらなんでも、そこまで軽くはない。

  • スズキの電動モペッド「e-PO」
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  • 安全性を第一に作っているのでスイッチひとつでポンっと小さくなったりはしないのだが、慣れれば30秒くらいで折りたためる「e-PO」。クルマの荷室に積んでいって出先で乗るという使い方も楽しそうだ。電動だから音がしないので、静かな山の中を走ったりするのは気持ちがいいはず

見た目は自転車なのにナンバーが付いていて、分類上は原付一種という微妙な立ち位置の乗り物なので、出先での駐輪スペース探しにはてこずるかもしれない。こうした乗り物を自転車専用の駐輪スペースに置いてもいいものなのか、それとも原付やバイクの駐輪スペースを利用する必要があるのか。そのあたりは、駐輪場が私営か公営かでも違うし、私営の場合でもオーナーの考え方によっては可だったり不可だったりするという。このあたりのルールをしっかり作っていただかないと、思わぬトラブルが起こりかねないのは心配な点だ。

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    さて、どこにとめておきましょうか

原付免許の有効活用に一役?

スズキによればe-POの発売時期は決まっていないという。値段についても聞いてみたが、今のままだと原チャリより安く売るのは難しそうとのことだった。ただ、e-POはウインカーに大型バイクと同じパーツを使っていたりとけっこう贅沢な部分があるようなので、スズキのコストダウン能力には期待したいところだ。

紙ドライバーもそうなのだが、せっかくクルマの免許を取ったのに、勝手に付いてくる原付の免許については宝の持ち腐れ状態という人は、けっこういるはず。これを使えばe-POに乗れるというのは魅力的だ。自転車にさえ乗れればe-POにも乗れるということは紙ドライバーが実地で確認済み。人生初の原チャリとしてもオススメできる乗り物だと思った。

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