スズキが電動モペッド「e-PO」(イーポ)の開発を進めている。電気で走る電動スクーターであり、ペダルが付いているので自転車のように漕いで走ることもできる乗り物なのだが、スズキが開発する理由とは? 実物に試乗して、開発陣に話を聞いてきた。
電動モペッドはバイクの原点回帰?
「e-PO」は一見すると電動アシスト自転車のような見た目をしているが、電動モペッドは原付一種に区分されるため、乗るには免許(原付免許以上)とヘルメットの着用が必須となる。ペダルを漕げば「電動アシスト自転車」になり、右側ハンドルのスロットルをひねれば「電動スクーター」として走る面白い乗り物だ。
新しい乗り物のように感じるが、元をたどればオートバイの歴史は、自転車にエンジンを取り付けることから始まった。そう考えると、e-POはスズキのバイク史にとって原点回帰と言える乗り物なのだ。
「e-PO」を実車確認
e-PO(公道走行テスト車)のサイズは全長1,531mm、全幅550mm、全高990mm。車重は2.5kgのバッテリー込みで約23kg、最高速度は30km/hとなっている。
モーターやバッテリーは共同開発を行うパナソニックサイクルテック製。同社の電動アシスト付き自転車とバッテリーを共用(交換可能)できるそうだから、電気自動車(EV)やスマホのように、将来的にバッテリーが劣化してしまうことを不安視する必要はない。
e-POの大きな特徴は「アシスト走行モード」を備えていること。電動アシスト自転車のようにモーターの補助を受けながらペダルを漕いで走行するモードだ。
通常の電動アシスト自転車は10km/hまでは人力1に対してモーター2の「2倍アシスト」となり、10km/h以降は徐々にアシスト力が低下し、24km/hでアシストがゼロになる。ところがe-POは、人力1に対してモーター3の「3倍アシスト」となり、10km/hを超えてもアシストが継続する。
これにより、坂道のように電力だけでは出力不足が不安な場面でも、漕いで進むことが可能となる。モードの切り替えに操作は不要。ペダルを漕げば勝手に「アシスト走行モード」に切り替わる。
バッテリー残量が少なくなった際などの緊急時には、走行は人力で行い電力は灯火器類のみに使用する「ペダル走行モード」に切り替わる。つまり、普通の自転車として乗れるのだ。外出先でバッテリーが切れてしまった場合でも、最悪、漕いで帰れるというのは安心だ。
ただし、「ペダル走行モード」であってもe-PO自体は原付一種であるため、ほかのモードで走っている時と同じ法規(例えばヘルメット着用など)が適用される点には注意が必要だ。バッテリーの電力が完全になくなって灯火器類が使用できなくなれば、「ペダル走行モード」であっても自走は不可となる。
スズキが電動モペッドを開発する理由とは?
なぜ今、スズキは電動モペッドの開発を進めているのか。2025年にいわゆる「原チャリ」が生産終了となることが関係していることは間違いない。
スズキの担当者によれば、2022年3月末時点の国内における原付一種所有台数は約448万9,000台。これは二輪車全体の約43%にあたる規模だ。そんな中で50ccが廃止されてしまうと、125ccなど他の乗り物に移行できない人が少なからず出てくる。そうした人には代替となる乗り物が必要だ。そこで電動モペッドの登場というわけである。
二輪メーカーのスズキであれば、高い安全性を備えた電動モペッドが提供できる。さらには、すでにあるディーラー網を活用したアフターケア体制も、ユーザーにとって魅力的に映るはずだ。
電動モペッドはすでに流行の兆しがあり、街中で乗っている人をときどき見かけるようになってきた。ただ、今のところ電動モペッドは海外メーカー製が主流だ。ここに日本製、しかもクルマとバイクで知名度の高いスズキ製の商品が登場すれば、購入の心理的ハードルが下がるかもしれない。
ひとつ疑問なのは、なぜe-POを「特定小型原動機付自転車」として開発しないのかということ。特定小型原付は16歳以上なら免許なしで乗れて、ヘルメットの着用は努力義務となるため、原付一種よりもハードルの低い乗り物だ。こちらの方が間口が広いような気がするのだが……。
そのあたりについてスズキの担当者からは、「実際に特定小型原動機付自転車で道路を走行してみましたが、最高速度20km/hでは実用性が十分であるとは感じられませんでした。二輪メーカーとして、責任を持って現在の原付一種ユーザーに代替案を出していくと考えた時には、やっぱり30km/hを出せることは必要な要件でした」との回答が得られた。
e-POはあくまで開発中の乗り物であり、発売時期や価格については今のところ決まっていないそうだ。50ccが廃止となる2025年に発売すると決めて物事を進めるのではなく、「自信を持って世に出せる」と思えたタイミングで販売を始めるとのことだった。