超人手不足といわれる世とあって、転職によって30代後半でも大幅な給与アップなどの有利な待遇を手に入れられる世の中になった。また給与面だけではなく、プライベートな時間の確保やリモートワークといった柔軟な働き方など、いわゆるクオリティ・オブ・ライフある人生にシフトできたという転職成功例もよく聞かれる。

今後の人生を変える手段として実に大きな役割を担う、転職。ここでは、よりよいビジネスライフを求めて転職を決断した人々のリアルな声を取材。変わりつつある『転職の今』を追う。

  • データアナリストとして、常にさまざまなデータに触れている

氏名: 中村義人(仮名)/男性/28歳

職種: 営業職

勤務地: 世田谷区

家族構成: 妻と二人暮らし

年収: 580万円

転職回数: 3回

(1社目: 勤続1年半/2社目: 勤続1年/3社目: 勤続3年半/4社目: 勤続半年~現在)

好きだから目指した音楽の仕事だが……

「音楽が『好き』だったから、というのは第一にありましたね」

好きなことを仕事にする。それは理想的な就職の形だろう。音楽が好きだった中村さんは、「少しでも関われたら」と音楽業界の会社を志した。今のキャリアとは大きく違う仕事だ。

「レコード会社などは残念ながら縁が無くて。それで音楽配信を手掛けるIT関連企業に縁があって就職して、1年半ほど働きました。今考えると少し幼稚な気がしてしまうのですが、その場の状況に自分がうまくなじめていない気がして。単純に自分の能力が低かったというのもあります。半ば逃げるような形だったので、あまりいい形の転職ではありませんでした」

今ある状況から目をそらすように、最初の転職をした中村さん。転職エージェントを使って、わずか1カ月ほどの期間で早々にリスティング広告の制作アシスタントに転職した。

「仕事と趣味は違うなと痛烈に感じましたが、最初の会社は合わないと感じながらも広告という仕事自体は嫌じゃなかった。なので、もう音楽から離れて広告業界に早々に転職を決めました。ですが、そこがいわゆるブラック企業で……(笑) 毎日深夜まで仕事をしていましたね。とはいえ、ベンチャー気質でスピード感の早いウェブ広告業界でスキルを磨きたいと思っていましたし、広告の知識はここで得ることがでたので、決してマイナスではなかったと思います」

過酷な労働環境下でスキルを獲得すべく働く中で、次の転職を意識するタイミングが中村さんに訪れる。それは結婚という、人生の大きなライフイベントがきっかけだった。

このままでは結婚はできない

「結婚を機にもう少し落ち着いた仕事ができる会社がいいと思ったんです。長く働けるという意味で、なるべく大きな会社がいいと考えました」

この激務の毎日では、結婚もままならない。安定を求めて、次の転職に取り組んだ。

「今までの仕事で、Excelを使って数字を見ていくことが得意なのが自分の強みだと感じていたので、それが生かせるような仕事に絞りました。それで広告制作の仕事を選んだんです。1社目、2社目はやっている事業の内容で選んでいましたが、3社目は自分がどういう仕事をするのか、かなり明確にしたうえで転職できたように思います。大手のエージェントを通して2カ月ほどで決まり、内定が出たタイミングで入籍もしました」

結婚を考えた転職では、勤務時間や向こう10年安定していると見込める規模の会社であることなど、生活のことも考えた転職となった。

3社目でまず携わったのは広告制作。営業から持ち込まれた案件を、ライターやカメラマンを手配して記事を制作し掲載する。掲載後のレポート作成まで、一連の流れのほぼすべてを担った。

「その中でもレポート作成が得意だったんです。広告制作を1年半ほどやった後に、レポート部分を重視するような部署に異動になりました。より精度の高いレポートを作り、そのレポートそのものに付加価値をつけられるかどうかを考えるようになりました。この仕事が、大きなターニングポイントになったと思います」