「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第215回のテーマは「『ちゃんとして』じゃわからない」です。

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息子と一緒に空手をやっています。空手は元々私がかれこれ20年くらいやっていて、後からパートナーが始めました。子どもが小さいうちは夫婦で順番に稽古に行っていましたが、息子が成長した最近は家族全員で稽古に行っています。

私は長年、初心者の指導係をやっていて、その延長で息子のことも指導しています。パートナーも、自分の子なのでできていないところがあれば「こうだよ」と教えています。

普段、大人の初心者を相手に指導しているときは、相手が相手の判断で「続ける、辞める」を判断できるので、「やめてほしくない」私はものすごく気を使って指導しているんですよね。「わかりやすいし面白い」と思えば、相手は続けてくれますが「よくわからないし、つまらない」と思われたら、もう次の週から来てくれません。

私の所属する空手の支部はあくまでも趣味の人の集まりであり、誰かが「本業」として運営しているものではないのですが、支部運営にある程度の人数は必要なので私は「やめてほしくない」と思ってやっています。私は「先輩」として新人さん(後輩)を指導していて、「指導」も稽古の一部としてやっています。つまり仕事としてではなくてあくまでも自分の練習として「丁寧にわかりやすく伝える指導」をやっています。

というわけで、いつもは丁寧に伝える、ということを心がけているはずなんですが……。相手が息子となるとついつい「親」のポジションが入ってきてしまうんですよね。「何度も言ったのに、真ん中突けてないなあ」と思ってしまうのです。相手が大人の他人なら「ああ、最初に教えたのに真ん中突けないタイプだなあ(そういう人は結構います)」と思うだけで、むしろ数回言っただけでできる人をみると「お、この人は運動してたのかな? 筋がいいな」と思うくらいです。

ですが、息子だと「ちょっと~~先週も言ったでしょ~~! 」という気持ちになっちゃうんですよね……。

「前に教えたはずなんだから“真ん中突いて”でわかるでしょ」と思ってしまうのです。これは、自分の子どもに「あなたならそれくらいできるでしょ」と「期待」しているということであると同時に、「丁寧に言わなくても許される」という親としての甘えなんですよね。大人の他人なら「辞めます」と言われたら引き止めるのも難しいですが、子どもなら説得できちゃうポジションでもあります。

パートナーが「だから真ん中だって」と言って、息子が「僕は真ん中突いてるよ! 」というやり取りを見て「しまった、これじゃまだ伝わらない段階だった……。真ん中が正確にわかってないのだから、もっと丁寧に位置を教えなければダメだった」と反省しました。

そして関係性と指示出しの問題って、もちろん空手などの指導だけじゃなくて、日常生活の指示出しにも同じことが言えるな、と気が付きました。

相手が初めて会う人だと、共有しているものがほぼないのですごく丁寧に説明しようと思うのに、相手が親しい人間だと「わかるでしょ」という甘えが出てしまう。確かに、一緒にいる時間が長いのだから、全然知らない人よりは「わかる」はずなんですけど、それでも本当は「丁寧」に伝えないと伝わらないし、わからないことは多い。

「ちゃんとやって」の「ちゃんと」の中身を、相手とどれだけ共有できているのか? 相手にやってほしい、行動して欲しいことがあるなら「ちゃんと」の中身をきちんと口に出して言ったほうがいいんですよね。

子どもと親の関係だけでなく、夫婦間でもこういうことはよくあります。もちろん、仕事などの関係でもあると思います。自分が思う「ちゃんと」が相手の思う「ちゃんと」とは違う可能性は大いにある。相手が大人でもすれ違うのだから、相手が子どもならさらにもっとわかりやすく言わなきゃダメですよね。

空手の時は「真ん中」という言葉が親が思うのと、息子が思うものが違っていた。つい使ってしまいがちな「ちゃんと」の中身も実は人によって曖昧だったりする。言葉は「言えば通じる」とは限らないんですよね。その言葉の指し示す意味を、お互いが齟齬ができるだけないように共有していなければならない。

なので、相手が誰であれ、できる限り「丁寧」に、相手と自分の齟齬がないように話す努力をしないといけないなあと思いました。いちいち息子に「ちゃんと片付けて」じゃなくて「出した鉛筆は筆箱に入れなさい」と言うのは、正直めんどくさいのですが……。

いつか「ちゃんと片付けて」で片付けてくれることを願いつつ、その先に言わなくても片付けてくれることをさらに祈りつつ、今のところは丁寧に言うことを私も頑張らないとな~と思っています。

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著者プロフィール:水谷さるころ

女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。