「家事も育児も家計も全部ワリカン! 」バツイチ同士の事実再婚を選んだマンガ家・水谷さるころが、共働き家庭で家事・育児・仕事を円満にまわすためのさまざまな独自ルールを紹介します。第110回のテーマは「甘え方の指導にスパルタな母」です。
私はパートナーから「妖怪甘えさせババア」と呼ばれるくらい、子どもに甘い母親だと思います。
もとから人に頼まれごとをするのは好きだし、人の役に立つのも好きなタイプでなので、子どもになにか頼まれるのも全然苦になりません。
第70回「子どもの要望にどこまで応えるか」でも書きましたが、私は「面倒くさいから」は別に頼まれごとを断る理由にならないタイプ。パートナーが息子からなにか頼まれて「面倒くさい」と思っている様子を見ると、私は人になにかしてあげることに対する許容範囲がある程度大きいのかもしれないなと思います。
しかし! そんな私ですが、なんでもかんでもいうことを聞いて甘やかしてるわけではないのです。譲れないところは、断固譲れない。第54回「自分のこだわりと家族のこだわり」では「本を粗末にすると怒る」という話を書きましたが、今回はコミュニケーションのお話です。
私は甘えには「ポジティブな甘え」と「ネガティブな甘え」があると思っていて、親しい関係のなかでも「ネガティブな甘え」をどれだけしないでいられるかが重要だと考えています。
「ネガティブな甘え」というのは、「なんで○○してくれないの」とか「○○ならわかるでしょ!? 」と、相手を怒りでコントロールしようとすることです。
もちろん、そこに至るまでの過程はいろいろとありますから、怒り自体を否定しているわけではありません。でも、怒りを使うときは理不尽と戦うとき……「自分を守るとき」だけ、と心がけています。
逆に「ポジティブな甘え」とは、「○○してほしい」「××なので○○してください」と相手にきちんと要望を伝えることです。しかし、日本人はこの「ポジティブな甘え」が不得意だなって感じることが多いです。
私自身も、若いときは上手に人に頼みごとをしたる委ねたりすることがなかなかできなかったんですよね。なので、必要以上にタスクを抱え込んじゃったり、その不均衡に不満を抱いたりしていました。相手になにかをしてもらうときに「自分がそうしてほしいから」という理由で頼むことに、なんだか罪悪感がある。自分の要望を出すことが「ワガママ」なんじゃないかと思ってしまうのです。
だから「正しさ」を依り代にして相手に要望してしまうんじゃないかなと考えました。「世間ではこれが正しいとされている。だからあなたはやるべき」と、あくまでも自分の要望なのに正当性があるとして伝えてしまう……。正しさは人によって違うものなのに。そう気がついてから、自分はちゃんと「私がそうしてほしいから」ということを相手に伝えることにしました。
すると、「自分にそんなことを要望できる価値があるのか? 」みたいなことをつい無自覚に考えてしまうのです。でも私は人に喜んでもらえるのはうれしい。だったら私もきちんと感謝を伝えればいいのだ、ということに30代半ばでやっと気がつきました……。なので、とにかく私は「ポジティブな甘え」をするように心がけています。
育児のなかで痛感したのは、子どもはすぐに「ネガティブな甘え」をするということです。怒る、グズる、泣く。そして自分の要望を叶えようとする。これは乳幼児なら仕方のないことです。
でも、息子もそろそろ6歳。言葉できちんと自分のことを伝えられる歳になってきました。なので「ネガティブな甘え」はダメ、ということを伝えています。
なにぶん、我が家のパートナーが「怒りで人をコントロールするのはダメなことだ」と自覚したのが……40代になってからです。ネガティブな甘えしかできないのは他者を傷つけ、そして自分自身を傷つけることでしかない。パートナーはそれによって人生でいくつもの失敗があったと思います。
なので、息子にはきちんと「ポジティブな甘え」ができるようになってほしい。とくにこれからの社会においてはより、自分の感情をコントロールして周囲ときちんとコミュニケーションができなければならないと思っています。
私は息子の要望を「ワガママ」とは受けとめません。なぜなら「我慢させることがよいこと」だと思っていないからです。「疲れているので歩きたくない」ということに解決方法を考えるのはよいことだと思っています。苦痛は解決するべきものだし、解決できるものだと知ってほしい。ただ、誰かを我慢させたり怒ったりしてコントロールすることで自分の苦痛を取りのぞくのは、解決ではありません。
まだ幼い息子が問題を解決するために唯一できることは、「怒りながら要望を口にする」ことではなく「自分の辛さを訴えて、きちんとお願いすること」であると私は考えます。なぜならまだ自分だけでは解決できないことのほうが多いから。
これは「媚びろ」と言ってるわけではありません。怒りは相手の怒りを誘発するし、より自分の要望から離れていくものだからです。
親が子どもの状態を先回りして察して、快適にしてあげるのはそろそろ終わりにして、自分自身で「辛いから歩けない」という要望をきちんと伝えてほしい。そしてお願いされれば、こちらも要望を叶えてあげる。そうしてみんな無理せずにハッピーになる。ということを成功体験として学んでほしいと思っています。
ここに関しては息子にもパートナーにも絶対譲りません。相手の要望をできる限り叶える「甘やかし母&妻」ですが、「甘え方」についてはスパルタでやっています。
そして、自分自身も「ポジティブに甘え」られるように日々意識しています。
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著者プロフィール:水谷さるころ
女子美術短期大学卒業。イラストレーター・マンガ家・グラフィックデザイナー。
1999年「コミック・キュー」にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末が『30日間世界一周! (イースト・プレス)』としてマンガ化(全3巻)される。2006年初婚・2009年離婚・2012年再婚(事実婚)。アラサーの10年を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。その後2014年に出産し、現在は一児の母。産前産後の夫婦関係を描いた『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』(新潮社)、『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している。』(幻冬舎)が近著にある。趣味の空手は弐段の腕前。