地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒やしてくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方のものを食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。
今回のテーマは青森県。本州最北端、津軽海峡を挟んで向こう側には北海道を臨みます。
リンゴで有名な本州最北端の地、青森
青森と聞いてすぐ思いつくのは、やはりねぶたや津軽三味線ですね。歴史好きには、縄文時代の大型住居跡・三内丸山遺跡、人物では太宰治が有名です。
また、日本海と太平洋の両方に面していることから豊かな漁場を持ち、イカとヒラメの漁獲量は日本一、ホタテの養殖では全国2位。さらに「大間まぐろ」といえば知らない人はいないブランド海産物の王様です。
農産物ではリンゴは全国シェアの50%以上を生産し日本一、ほかにも長芋、ゴボウ、ニンニクなどが全国一の収穫量となっています。そんな青森ではどんなご当地グルメに出合えるのでしょうか。
今回は、神田にある「青森県郷土料理 居酒屋 跳人 神田本店」さんにお邪魔しました。JR山手線「神田」駅東口から出て徒歩で1分ほどの地下にあるお店です。
お店の入口には、ねぶたの模型や民芸品などが展示され、まさに郷土料理を出す居酒屋さんに相応しい雰囲気がありました。席数はカウンターとテーブル席を入れて56席ほど。大人数でも収容できる大きなお店です。
海の恵みと寒さが生み出した身も心も温かい味を提供
最初にお願いしたのは「津軽漬け」(450円)。海の幸(数の子、昆布)と山の幸(大根)の醤油漬けだそうです。北海道の松前漬けに似た感じでしょうか。現地では商標によって呼称がバラバラだそうで「ねぶた漬け」などとも呼ばれるんだとか。
見た目では、数の子の存在感はそこまで大きくはありません。代わりに目立つのは大根。昆布のとろみをすするようにしていただきます。口に入れた瞬間から海鮮のだしと醤油の旨みが広がります。大根のパリパリという食感が特徴的です。大根の食感を楽しんでいると数の子のプチプチも混ざりこんできます。バリエーション豊かな食感です。福神漬けと松前漬けを一緒に食べているような感じでしょうか。なんとなく食べ続けてしまいます。
お次に登場したのは「けっこみそ(貝焼き)」(790円)。「けっこ」は青森の方言で「貝」を指す言葉です。ホタテの殻をお皿にして、出汁とホタテの身を入れて、味噌で煮込んで卵でとじた料理だとか。卵が貴重だったころに精がつくようにと考えられた料理で、昔は嫁入り道具としてホタテの貝殻を持たせたそうです。
おー。こういう貝に盛りつけられた料理ってなんかテンション上がりますね。
すくい上げてみるとこんな感じ。しっかりめな昔ながらのプリンくらいの硬さです。味噌が入っているという話でしたが、味噌の存在感はそこまで強くなく、カツオ出汁の風味と、ホタテと卵のやさしい甘さが広がります。上品な茶碗蒸しみたいな味わいです。
店主さんいわく、現地ではもっと味噌が利いていてしょっぱいそうなんですが、「跳人」さんでは味噌を抑えめにして東京の人も食べやすく味付けしているんだとか。これは本場仕様の「けっこみそ」も食べてみたくなりますね。
続いてお願いしたのは「バラ焼き」(750円)。牛バラ肉とたっぷりの玉ねぎを甘辛のタレで仕上げる、青森県十和田市のご当地B級グルメだそうです。十和田にある米軍基地から出る切り落とし肉をおいしく食べるために生み出された料理なんだとか。
具材的には牛丼の具ですね。大きく違うのは甘みの強いタレの存在です。青森県内ではシェア70%、どこの家庭にもあるという万能調味料、上北農産加工さんの「スタミナ源たれ」が味の決め手。県内で取れる新鮮なリンゴや玉ねぎ、ニンニクを使用した独特の甘さと風味が特徴です。牛肉の香りも相まってなんとも濃厚。これが十和田の味なんですな!
おでんでポカポカのおもてなし
そして最後に登場したのは「生姜味噌おでん」(790円)です。生姜をおろしたものと味噌を和えたタレで食べる一品。青函連絡船で青森と北海道を行き来していた頃、乗船前の乗客に身体を温めてもらおうと屋台で生まれた味なんだとか。
おでん汁はカツオと昆布の透き通ったもの。こんにゃく、昆布、煮卵などオーソドックスな具に加え、「跳人」さんではホタテや姫竹の具材を加えています。おでんに貝類というのは珍しい気がしますね。さすが養殖が盛んなだけのことはあります。これに生姜味噌をかけていただきます。
味噌主体かと思えば感覚的に、味噌とおろし生姜=1:1くらいでしょうか。薬味というレベルは完全に超えていて口の中、全部生姜。強制的に身体を温めに来ます(笑)。それほどに北国の寒さは厳しいということですね。おでん汁自体は、透き通った見た目の通り、上品な出汁の味。味噌をつけたときの味のギャップが心地よく、味噌ありと味噌なしを何度も行ったり来たり。食べ終わるころにはすっかりポカポカしてきました。
「豊盃米」で作られた注目の銘柄とは?
青森の地酒というと「田酒」を思い浮かべる人も多いと思いますが、ここ「跳人」さんには、青森の地酒がズラリ10種以上そろいます。今回オススメいただいたのは地元でも広く愛されているという弘前市の三浦酒造「豊盃 特別純米」(900円=1合)です。口に含んだときに丸く香るようにやわらかに広がり、身体に染み込んでいくようすーっと消えていく心地よい後味のお酒でした。
青森へ恩返ししたい思いからお店をオープン
「跳人」さんは、創業15年。オーナーである小野幸春さんは青森県旧浪岡町出身で、高校卒業後に上京、ソムリエとして30年務めた帝国ホテルを辞め、50歳にして独立。2006年に開業したのが「跳人」です。青森の食材にこだわっているのは、本場の味を届けたい、青森に貢献したいという気持ちからでした。
店内では週3~4回ほど、無料の津軽三味線のライブが行われ、食べ物やお酒以外でも青森を楽しむことができます。もちろん小野さんのこだわりのワインも取りそろえています。主に南フランス産のワインが多いとのこと。訪れた際には、小野さんにお願いして青森の味を南仏のワインで味わってみると新しい発見があるかもしれません。あずましー時間が待ってますよ!
<店舗情報>
「跳人」
住所:東京都千代田区鍛冶町2-2-9 第2登栄ビルB1F
電話:03-5294-7455
営業時間:[月~金]11:30~14:00、17:00~24:00、[土曜日]16:00~24:00
(※取材時の2021年2月には、緊急事態宣言下にあり、ディナータイムは20:00までの短縮営業中)
定休日:日曜日、祝日
※価格は全て税込
古屋敦史
取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)