「俺たち、何しに来たんだっけ……」

宮城県・大崎市にある感覚ミュージアムの体験レポートも、今回でいよいよラスト。私と同行者のT君は、前回と前々回で思わず取材の趣旨を忘れてしまうほど癒されてしまっていたが、館内にはまだまだ大物が残っていた。

瞑想をテーマにしたモノローグゾーンのなかでも、特にハマる人が多いと評判なのが「アースガーデン」と「ウォーターガーデン」。アースガーデンでは床に敷き詰められた砂にゆらゆらと影が投影されており、また一方のウォーターガーデンでは水面の波紋が部屋中に反射している。どちらの部屋も薄暗く、揺らぎながら変化する影や波紋を眺めているだけで何十分でもぼーっとできてしまう。ミュージアム全体のなかでも来館者の滞在時間は長めで、特にカップルや年配の方には好評だという。スタッフの方によれば、おすすめなのは平日。遠足などの団体客が来ない限りは独り占めもできるとのことなので、どっぷり瞑想したい人は平日を狙って行ってみてほしい。

建築家の奥村理絵氏と現代音楽家の一ノ瀬響氏が共同で手がけたアースガーデン

こちらはウォーターガーデン。変化する水面と天井の波紋をずっと見ているだけでも飽きない

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ウォーターガーデンの周囲には水音も響き、地底湖のような幻想的な空間となっている

モノローグゾーンから入り口に戻るカスケードトラバース。音が反響しやすい造りで、歩くだけでも足音がかなり響く

不思議な遊具が多い感覚ミュージアムのなかでも特に奇天烈な部類に入るのが、最後に紹介する「スペース・アンド・サウンド」。無響空間に近い部屋のなかには、大きな輪が振り子のように吊り下げられており、利用者はその輪にまたがって体験することになる。輪に取り付けられたハンドルを動かすと、モニターに映った三次元空間上のポイントがピピピ……という音に合わせて移動。またハンドルに取り付けられた紐を引っ張ると、爆発音が響くという仕組みになっている。子供たちには独特の操作感と巨大な爆発音が大ウケで、体験時間には順番待ちができるほどにぎわっていた。スタッフの方によれば、来館した花火職人が長時間この部屋でアイデアを練っていたこともあるのだとか。

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アーティストグループ、ダブルネガティヴズが制作した「スペース・アンド・サウンド」

モニターにはこんな感じ。三次元空間が表現された球体も徐々に形が変化するようになっている

T君「野口さん! もうこんな時間ですよ!」
野口「あれ?」

一周して来るといつの間にか2時間ほどが経っていた。それほど広くないにもかかわらず、映画1本分の時間をあっと言う間に過ごさせるとは恐るべし感覚ミュージアム。実際、子供に混じって遊んだり、あるいはなにも考えずにリラックスしたりと、脳みそのいろんな部分がほぐされる感覚はなかなか得がたい。これで大人の入場料がひとり500円というのはかなり割安だ。また全体を通してみてわかったことだが、テーマ性と親しみやすさが両立しているのもいい。アート的な要素が強いとどうしても敷居が高くなってしまうし、逆に子供たちの遊び場としての要素を強めすぎると大人には物足りなくなってしまう。感覚ミュージアムは、その微妙なバランスの上でうまく成立している珍しいミュージアムと言えるだろう。

感覚ミュージアムの一角にある市民ギャラリーもなかなかユニーク。一見するとごく普通の写真展だが……

約1,000個ある市民ギャラリーの小さな引き出しには、地元の学校やや全国各地から集められた作品が収められている

仙台からは在来線で1時間30分ほど。変わった文化施設や癒しに興味がある人には幅広くおすすめできる。ひとりで静かに浸ってもいいし、親子連れやカップルで遊びに来てもいい。そんな感想を口々に言い合いながら、私と同行のT君は満足して感覚ミュージアムを後にした。

感覚ミュージアムの館内で使われている関口孝氏の環境音楽も発売中。価格は2,800円

手前はおみやげのなかでも人気のオリジナルエッセンス。数種類あり各1,050円。奥はミュージアムオリジナルのはが木(き)と、木(き)ホルダー。それぞれ420円

五感を使ったミュージアムには味覚もちゃんと用意されている。館内のカフェではランチセットのほか、地元特産のクランベリーやブルーベリーを使ったシェイクも人気

T君「あ、カップルと言えば、僕の知り合いでも彼女と来たって奴がいましたよ」
野口「そうか。カップルか……」
T君「なにか気になることでも?」
野口「だったら俺たちは、なんでそんなデートスポットに男同士で取材に来てしまったんや……」
T君「人を休日に呼び出してその言い草か!!」

感覚ミュージアムは、このように独身男性同士で訪れても非常に楽しい施設である。