■「文句なしに泣ける」母性を追求した名作

1位『Mother』(日テレ系、松雪泰子主演)

  • 松雪泰子

    松雪泰子

  • 芦田愛菜

    芦田愛菜

脚本家・坂元裕二、演出家・水田伸生、主演女優・松雪泰子、助演女優・田中裕子と高畑淳子、子役・芦田愛菜。それぞれのポジションを任された人がスキルと才能を発揮したことで、2010年を代表する作品になった。

母親に捨てられて鈴原夫妻に引き取られた過去があり、道木怜南(芦田愛菜)をネグレクトから救うべく母親になることを決意した鈴原奈緒(松雪泰子)。奈緒を引き取り、2人の妹とともに愛情を注いで育てた鈴原籐子(高畑淳子)。奈緒を捨てた過去の罪滅ぼしをするように、奈緒と怜南のために尽くす望月葉菜(田中裕子)。

男を優先して怜南にネグレクトしていたにも関わらず、強引に取り戻そうとした道木仁美(尾野真千子)。妊娠した胎児の心臓に障害があることを知って中絶手術に臨むが、直前で生んで育てることを決めた鈴原芽衣(酒井若菜)。さまざまな立場で生きる女性の感情を「これでもか」というほど詰め込んでいたが、男性の坂元裕二がここまで母性をとらえていることに驚かされた。

これらの演技派女優たちを脇役のように見せてしまったのが道木怜南(鈴原継美)を演じた芦田愛菜。名目上の主演は松雪だったが、演技の素晴らしさから「芦田愛菜主演、松雪泰子助演」という見方をする視聴者が多かった。

「会いたいよ」「もう一回誘拐して」「お母さん!」というシンプルなセリフひとつで視聴者を泣かせ、「愛菜ちゃん天才!」という声が続出。芦田はもちろん、当時あまり連ドラ出演のなかった尾野真千子、倉科カナ、綾野剛らも含め、多くの俳優にとってもターニングポイントとなった作品とも言えるだろう。

「子どもの誘拐と逃亡劇」という点では、わずか2週間前にスタートした『八日目の蝉』(NHK)と比較されがちだったが、当作は「ネグレクトから救い出す」という大義があり、「疑似母子の心は、より深い絆で結ばれている」というピュアさで上回っていた。

20歳になった継美と奈緒が再会したラストシーンも秀逸。喫茶店のテーブルには、継美の好物だったクリームソーダと“好きなものノート”が置かれ、二人はそっと手を重ね合った。あえて顔を映さず、視聴者の想像に委ねる演出は、ドラマ史に残るラストシーンと言えるのではないか。

最近は悪役が登場しない牧歌的なムードの作品が主流となっているだけに、「心をギュッと押しつぶされる」「文句なしに泣ける」という切ないシーンを連続させた当作がいっそう輝いて見える。

主題歌は、hinaco「泣き顔スマイル」。

■『龍馬伝』『月の恋人』『セカンドバージン』『モテキ』

その他の主な作品は下記。

「42年ぶりの坂本龍馬が主人公の大河ドラマ」として注目を集めた『龍馬伝』(NHK、福山雅治主演)。主演・福山に加え、脚本に『HERO』『ガリレオ』の福田靖、演出に『ハゲタカ』『るろうに剣心』の大友啓史という豪華布陣で盛り上がったが、最終回の龍馬暗殺シーンに思わぬ落とし穴。愛媛県知事選の当選速報をテロップで流し、その文字が福山の顔にかぶったことで猛バッシングを受けた。

「会社社長と3人の女性との恋」という90年代の月9回帰を思わせた『月の恋人~Moon Lovers~』 (フジ系、木村拓哉主演、主題歌は久保田利伸「LOVE RAIN ~恋の雨~ )。舞台はインテリアメーカー「レゴリス」で、主人公のキャラは強気なオレサマ系とまさに“キムタク仕様”。一方の相手役は、自然体のインテリアデザイナーに篠原涼子、貧しくもピュアな中国人にリン・チーリン、カリスマモデルに北川景子と豪華な顔ぶれがそろった。

出版プロデューサーと17歳年下のキャリア官僚との不倫を描いた。『セカンドバージン』(NHK、鈴木京香主演、主題歌は倖田來未「あなただけが )。最終回の急展開とシビアな結末は、当時「NHKでは異例」と言われる過激なものだった。“不倫サレ妻”を演じた深田恭子の反撃ぶりとベッドシーンも話題に。

突然訪れたモテキに戸惑い、空回りしまくる底辺の男を描いた『モテキ』(テレビ東京系、森山未來主演、主題歌はフジファブリック「夜明けのBEAT )。通常各3~4人で手がける脚本・演出をすべて大根仁が手がけたことが何よりの品質保証。色気ある女性キャラの描き方から各回の音楽まで細部へのこだわりがウケて、翌年に映画化された。

ツイッターを通じて友人になった男女5人の群像劇『素直になれなくて』(フジ系、瑛太主演、主題歌はWEAVER「Hard to say I love you ~言い出せなくて~ )。恋、夢、絆、コンプレックス、嘘……トレンディドラマに戻ったかのような脚本を手がけたのは北川悦吏子。ただ、当初「ツイッタードラマ」とうたわれていたが、有効活用されることはなく批判を受けてしまった。

「恋で人生捨てられますか」というコピーの通り、同窓会をきっかけに恋が再燃する大人たちの姿を描いた『同窓会~ラブ・アゲイン症候群~』(テレ朝系、黒木瞳、高橋克典、斉藤由貴、三上博史主演、主題歌は阪井あゆみ「ex-lover )。往年のトレンディ俳優をそろえたキャスティングで注目度は高かったが、家族の猛反対を経てたどり着いた最終回は灰色決着。「おそらく恋が実ったのだろう……」というあいまいな結末だった。

さらに、『てっぱん』『八日目の蝉』(以上NHK)、『曲げられない女』『ホタルノヒカリ2』『怪物くん』『Q10』(以上日テレ系)、『エンゼルバンク~転職代理人~』『ナサケの女~国税局査察官~』『警部補 矢部謙三』『ハガネの女』『熱海の捜査官』『秘密』(以上テレ朝系)、『ブラッディ・マンデイ』『特上カバチ!!』『新参者』『獣医ドリトル』『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』『うぬぼれ刑事』(以上TBS系)、『夏の恋は虹色に輝く』『流れ星』『泣かないと決めた日』『ジョーカー 許されざる捜査官』『ギルティ 悪魔と契約した女』『GOLD』(以上フジ系)、『モリのアサガオ』『マジすか学園』(テレ東系)などが放送された。