欧米人男性は妻と子供、すなわち自分の家族をとても大切にするという。日本人男性は奥様との行事(誕生日や結婚記念日など)より仕事を優先することも珍しくないが、欧米人男性がそんなことをしたら、よほどの理由でもない限り、激しいバッシングを浴びるはめになってしまう。日本では時として美談扱いされる浪花節的な結婚生活も、欧米的フィルターを通すと、ただの傲慢にしか映らないのだろう。

僕が知っている欧米人男性(日本在住)もみんな愛妻家だ。人前で堂々と妻に「愛している」だの「美しい」だのと甘い台詞を発し、有給休暇のほとんどは奥様サービスのために消化する。たとえば友人が多く集まるような食事の席に奥様と同伴するのは当然のことで、彼らにしてみれば既婚男性が単独で参加しているほうが不自然に見えるという。

そりゃあ、女性にしてみたら嬉しい話だろう。欧米人と結婚したほうが、旦那に大切にされているという実感を得られるだろうし、極端に言えば「お姫様扱い」を満喫することができる。だから、海外経験が豊富な日本人女性の中には、欧米人男性を好む人も多く、さらには、「これだから日本の男はダメなのよね~」などと日本人男性を蔑む人もいる。彼女たちにとって、日本人のアピール下手や奥ゆかしさは物足りないのかもしれない。実際、「日本の男は頼りない、男らしくない」といった意見を耳にしたことがある。

しかし、奥様への愛を大々的にアピールすることや、生活スタイルを家族(奥様)中心にすることが、いわゆる「男らしさ」につながるのかと言われたら、それはいささか疑問が残る。なぜなら欧米人男性の場合、妻を愛しているから愛妻家をアピールしている人ばかりではなく、妻のことが怖いからという理由で愛妻家をアピールするようになった人も少なくないからだ。すなわち、愛妻家というより"恐妻家"ということである。

これは日本のプロ野球界に移籍してくる外国人選手の例を挙げればわかりやすい。彼らは入団会見や球場の施設見学などに奥様を同伴させることは当たり前で、球団と契約する際に奥様に対するケア(奥様が喜ぶようなデザイナーズマンションを用意するとか)を条文に盛り込むことも珍しくない。これだけ聞けば、彼らはさぞかし愛妻家なのだろうと思うかもしれないが、その一方で奥様のことを極度に怖がる選手が多いのも事実なのだ。

たとえば、1980年代~1990年代に阪急-オリックスでプレーし、三冠王にも輝いたことのある巨漢の長距離砲、ブーマー・ウェルズ。彼はいかつい風貌に似合わず、奥様のデブラ夫人に頭が上がらないことでも有名だった。ちなみに、デブラ夫人は名前に「デブ」の文字が入っているからかどうかは知らないが、ブーマー以上の巨漢女性であった。

そんなブーマーは、春季キャンプや遠征などホテル暮らしが長く続くときは、なぜか必ずアイロンを持参したという。普通、キャンプや遠征時における選手の洗濯は球団が担うものだが、ブーマーは自分で洗濯をやらないと気が済まない。なんでも家ではデブラ夫人から洗濯役に任命されており、ブーマー自身がアイロンがけまできっちりやらないと怒られるらしい。それが習慣化され、いつのまにかアイロンを手放せなくなったわけだ。

また、元阪神のセシル・フィルダーはマスコミから取材を受けたとき、終了後必ずその媒体の封筒や記者の名刺などをもらって帰ったという。これも奥様に対して、「決して浮気をしていたわけではなく、ちゃんと取材を受けていた」ということを証明するための貴重な品だったらしい。フィルダーはメジャーリーグでも数々のタイトルに輝いた世界の球史に残る一流打者だったのだが、家庭では奥様にてんで頭が上がらなかったという。熊のような巨体でありながら、実にかいがいしい話である。

そう考えると、欧米人男性のどこかが「男らしい」のだと言いたくなる。彼らは日本人男性より堂々としているから、奥様に愛情をアピールできるのではなく、単純に奥様のことが怖いから、つまり奥様のご機嫌をとるために甘い台詞を口にするところがある。

仕事よりも奥様を優先することが多いのもそうだ。欧米は家族(奥様)に対する忠誠心が常に問われる社会であるため、家族(奥様)をないがしろにする男性は社会的な批判を浴びやすい。つまり、家族(奥様)中心主義の背景には、そういった社会的批判に対する恐怖があるということであり、その意味で欧米人男性ははなはだ気弱だと思う。

しかし、これはよく考えれば日本人男性も同じことなのだ。日本では家族よりも仕事を優先することが美徳とされる傾向があり、仕事もしないで家族とばかり過ごしている男性は仕事先で叩かれるどこか、社会的な批判にもさらされる。日本人男性だって、そういう逆風が怖いから仕事を優先している道理はあるはずだ。

要するに、本来自由であるべき自分の行動が、なんらかの恐怖感によって束縛、あるいはコントロールされているという点では、日本人も欧米人も一緒なのだ。だから双方の間に、奥様に対する愛情の度合いや人間的度量といった優劣の問題は存在しない。

だいたい欧米はあれだけ家族(奥様)中心社会でありながら、日本よりもはるかに離婚率が高く、離婚調停も多いのだ。それを考えると、あの欧米人特有の奥様への愛情アピールも素直に受け止められなくなる。彼らはいったい何に怯えているのだろうか。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。1976年大阪府出身。早稲田大学卒業。『神童チェリー』『雑草女に敵なし!』『SimpleHeart』『芸能人に学ぶビジネス力』など著書多数。中でも『雑草女に敵なし!』はコミカライズもされた。また、最新刊の長編小説『虎がにじんだ夕暮れ』(PHP研究所)=写真=が、10月25日に発売された。各種番組などのコメンテーター・MCとしても活動しており、私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。

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