文章の質を高めるには、書く文章の内容に応じて、的確かつ具体的に自問自答していくことが近道です。さらに、魅力的な文章・読まれる文章を書くためには、ふだんから効率よく情報(書くための素材)を手元にそろえておくと便利です。

そこで今回は、文章を書くために効率よく情報(材料)を集め、インプットする方法についてお伝えしていきます。さまざまな方向に意識的にアンテナを張り続けることで、有効な情報を脳にインプット&ストックしていきましょう。

  • 情報を効率よくインプットするには?

人は意識しないと認識できない

そもそも人の脳には「忘れる」という能力が備わっています。一説には、人間は毎秒40億ビットの情報を受け取っているにもかかわらず、意識的に処理できる情報は2,000ビット程度だそうです。

その割合は、実に0.000005%。この狭き門をくぐり抜けて情報を自分のモノにするには、意識の処理の仕方を変えるしかありません。情報を集めるためにお勧めしたいのが「9マス情報キャッチ法」です。

手元に集めたい情報を「9マス」に書き出すだけで、必要な情報を受け取るアンテナが立ちます。すると、そのアンテナに関する情報が、次から次へと飛び込んでくるのです。

私が講師を務める文章講座で、受講生にしてもらう簡単なゲームがあります。題して、「色探しゲーム」です。

「今から20秒間、この部屋のなかを見回して赤い色が何個あるか探してみてください」と指示します。受講生たちはグルグルと部屋を見渡します。赤色を10個や20個、なかには30個見つける人もいます。

そこで私は、たくさん見つけた人のなかから1人を指してこう聞きます。「では、青色は何個ありましたか?」と。かなり意地悪な質問です(笑)。すると、その人は「わかりません」「見ていませんでした」「青色は気にしていませんでした」と答えます。これが人間の脳の処理方法なのです。

グルグルと部屋中を見渡していたので、青色が視界に入っていないはずはありません。しかし、受講生たちは"青色"に注意を払っていなかったため、青色の情報を取り込まなかったのです(取り込めなかったのです)。

これは脳科学的には「脳幹網様体賦活系(のうかんもうようたいふかつけい)※通称RAS」、心理学では「カラーバス効果」という論理で説明されています。

脳の仕組みを簡潔に示すなら「その人が意識した情報だけを取り込む」というもの。私たちの世界では、同じ場所で同じ風景を見ていても、人それぞれ取り込んでいる情報はまったく違う、ということが起きているのです。

欲しい情報のアンテナを立てる方法

グルメな人は、街を歩きながらおいしそうなお店をサッと見つけることができますよね。これは「グルメ」のアンテナが立っているからです。犬を飼いたいと思っている人は、散歩中の犬に目が行きやすくなります。「トイプードルはかわいいな。この犬は5歳くらいかな?」と考えたり、ペットショップのショーウインドウに引き寄せられていったりするでしょう。

一方で、グルメでない人は、おいしそうなお店をスルーしがちです。犬に興味のない人であれば、すれ違う犬に気づきさえしないこともあります(「意識として処理しない」という意味です)。極端なことをいえば、私たちは、同じ世界にいながら、違う世界を生きているようなものなのです。

脳内にあなたが欲しい情報のアンテナを立てるには、「9マス」を使って書き出すことをお勧め。書き出した瞬間からアンテナが張られます。 書き出すだけでも十分な効果を得られますが、書き出したものを口に出したり、何度も読み返したりすることで、そのアンテナ感度はますます高まっていきます。

次回、実際に9マスを使った具体的な実践法をお伝えしていきましょう。

著者プロフィール: 山口拓朗(やまぐち・たくろう)

伝える力【話す・書く】研究所所長。
出版社で編集者・記者を務めたのちに独立。23年間で3000件以上の取材・執筆歴がある。講演や研修を通じて「論理的なビジネス文章の書き方」「好意と信頼を獲得するメールの書き方」「売れるセールス文章&キャッチコピーの作り方」「集客につなげるブログ発信術」など実践的ノウハウを提供。2016年からは中国の5大都市で「SuperWriter養成講座」も定期開催中。多数のインフルエンサーを輩出している。著書に、『「9マス」で悩まず書ける文章術』(総合法令出版)のほか、15冊以上ある。