FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「相場の行き過ぎの判断」について紹介します。

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相場は行き過ぎるものです。その最たる例が「バブル」でしょう。ではその「行き過ぎ」をどうやって判断するかというのは、相場を見る上でとても重要なポイントになります。

そんな相場の「行き過ぎ(オーバーシュート)」の見極め方として、私がよく使う方法が過去の平均値からのかい離という方法です。専門用語では移動平均(ムービング・アベレージ=MA)といいます。

たとえば、過去3カ月の平均なら90日MA、そして過去一年なら、一年は基本的に52週間なので52週MAとなります。そんな過去の平均値から大きくかい離した動きは、「行き過ぎ」の分かりやすい目安となるわけです。

2016年11月の米大統領選挙前に私が注目したのは、代表的な安全資産とされる円の総合力を示す実効相場が、過去の平均値である移動平均線(MA)を大きく上回っていたことでした。

円実効相場の52週MAからのかい離率は、基本的に±10%中心に推移してきました。それを超えると「上がり過ぎ」、「下がり過ぎ」懸念が強くなります。そんな円実効相場の52週MAからのかい離率は、2016年11月の米大統領選挙前に、一時プラス16%程度まで拡大し、なんとあのリーマン・ショックが起こった2008年以来の「上がり過ぎ」となっていたのです。

  • 円実効相場の52週MAからのかい離率 (2000~2018年)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

    円実効相場の52週MAからのかい離率 (2000~2018年)(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

「物事には限度がある」という真実

代表的な「安全資産」とされる円が、総合的に「上がり過ぎ」懸念を強めているということはどういう意味があるか。普通に考えたら、暴落リスクに備えた安全資産へのシフトが、過去の実績から見たら「行き過ぎ」の動きになっている可能性があるということでしょう。

ああ、何か丁寧に、正確に書こうとすると、かえって分かりにくくなってしまうかもしれませんね。要するに、このデータこそ、暴落論が行き過ぎの可能性があることを客観的に示唆していたといえるでしょう。

「恐怖の大魔王」みたいなトランプが、「世界のリーダー」のような米大統領になることを怖れるのはとても自然な感覚だと思います(淡々と言いながら、トランプ一族とかトランプ支持者は間違いなく敵に回しそうですが)。

ただ一方で、「物事には限度がある」ということもそれとは次元の違う真実でしょう。たとえ、「恐怖の大魔王」が「世界のリーダー」となり、いわば地球が支配されることになっても、すでにその前からチャイナ・ショック、Brexitショックと暴落相場を繰り返してきた結果、さらなるリスク回避の安全資産買いで円高が進む余地は限られそうなそんな状況になっていたようなのです。

それこそは、米大統領選挙でまさかのトランプ勝利(まさトラ)が現実になっても、「トランプ・ショック」の株安・円高は意外に限られる、別な言い方をすると「トランプ暴落」予想は外れるかもしれないことを察知する、明らかに重要な手掛かりだったのです。