FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「ドラギ・マジックのまとめ」を解説します。
ここまで6回にわたり、2009~2012年にかけて起こった欧州債務危機、ユーロ危機を解決した「ドラギ・マジック」について述べてきました。今回はそのまとめです。
マイナス金利決定という「第2のドラギ・マジック」
2011年11月に、マリオ・ドラギ氏が3代目のECB総裁に就任した時、ギリシャから始まった債務危機はいよいよイタリアなど欧州の大国にも拡大、ギリシャ危機から欧州債務危機となっており、その中でイタリア出身のECB総裁に対しては否定的な見方も強かった。
2012年になり、いよいよ欧州債務危機は深刻化。これは欧州の制度的弊害に伴う構造問題だけに、早期の解決は難しいといった悲観論が急速に拡大していった。
これに対して、ドラギ総裁が2012年7月26日、「ユーロを守るためなら何でもやる」と発言。ECBによる実質的な国債市場への無制限介入策を決定すると、イタリアやスペインなどの国債利回りは低下(価格は上昇)に急転換し、ユーロ相場も底を打ち反発へ転換、欧州債務危機は大方の絶望的悲観論をよそに終息へ向かうところとなった。
この2012年7月頃、世界経済は「リーマン・ショック」からの「100年に一度の危機」を脱し、顕著な回復に向かい始めていた。それをよそに、欧州債務危機は長期化する中でむしろ行き過ぎた悲観論、「逆バブル」の様相となっていた。
そういった中でのドラギ総裁の強い言葉と、断固たる政策姿勢は、「逆バブル」破裂のきっかけとなり、欧州債務危機が解決に向かう上での重要な役割になった―――。
以上が、欧州債務危機とユーロ危機をドラギ総裁がリーダーシップを発揮することで解決に導いた「ドラギ・マジック」の、私が考える「真実」です。どうでしょうか。「なるほど!」「そうだったのか!!」「FXって面白い!!!」と感じてもらえたでしょうか。
さて、2012年7月26日のドラギ総裁発言をきっかけに1ユーロ=1.2ドル割れを回避、反発に転じたユーロ相場は、2014年には1.4ドルまで上昇しました。しかしそんなユーロ高に歯止めをかけ、ユーロ安へ反転するきっかけを作ったのも、再びドラギ総裁でした。
ECBは、2014年6月に、先進国としては異例のマイナス金利政策を決定したのです。これ以降、ユーロ相場は下落に向かい、2015年にはついに1.2ドルも割り込んでいったのです。こんなふうに説明すると、まさに「ユーロ高もユーロ安もドラギが全て決めた」ような感じになりますね。
ところでこんな人、前にも一人いましたね。アベノミクス相場の主役、日銀の黒田総裁も、「円安も円高もクロダが全て決めた」ような感じの頃がありましたよね。「ドラギ・マジック」と「黒田マジック」といった具合で、この二人はこの時代を代表する「通貨マフィア」として、また金融市場への「インフルエンサー」として比較されることが少なくありませんでした。
ただ、第2の「ドラギ・マジック」ともいえそうなマイナス金利政策の決定では、ドラギ総裁はユーロ高に歯止めをかけた点で基本的に成功とされるのに対し、黒田総裁は2016年2月にマイナス金利を決定したものの、直後に円高の洗礼を浴び、基本的に失敗とされるといった具合に、両者は明暗を大きく分けるところとなったのです。
さて、「番外編、ドラギ・マジック」はこれで終わりです。次回からは、「リーマン・ショック編」を始めます。2020年2月から突如、世界中を大混乱させるところとなった「コロナ・パニック」は、よく「リーマン・ショック以来」といった例えがつきますが、ではそんな「リーマン・ショック」とはどんな出来事だったのでしょうか。