FXの大相場の数々を目撃してきたマネックス証券、マネックス・ユニバーシティ FX学長の吉田恒氏がお届けする「そうだったのか! FX大相場の真実」。為替相場分析の専門家がFXの歴史を分かりやすく謎解きます。今回は「黒田マジック」について紹介します。

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ここまでアベノミクスという言葉を、ほとんど説明することもなく使ってきましたが、これは基本的には安倍政権、または安倍総理の経済政策という意味です。1980年代の米レーガン政権時代に、ロナルド・レーガン大統領の経済政策という意味で、レーガノミクスという言葉が使われたことを真似たということですね。

ちなみにこれをさらに真似て、トランプ大統領の経済政策(あるのか???)を、トランプノミクス、またはトラポノミクスと呼ぶこともありますね。

いずれにしても、このアベノミクスの象徴とされたのが、大胆な金融政策、機動的な財政発動、民間投資を喚起する成長戦略で構成された「三本の矢」という言葉でした。この中で、株高・円安が歴史的に展開する結果となったことへ最も大きく影響したのは、やはり大胆な金融政策でしょう。それを主導したのは、2013年3月に日銀総裁に就任した黒田東彦氏でしょう。

その意味では、黒田総裁こそは、「政策相場」アベノミクス円安(株高)の「主役の中の主役」といえるのではないでしょうか。そこでこれからは、アベノミクスの主役、黒田総裁の「真実」に迫ってみたいと思います。

「日本のバーナンキ」登場

黒田氏は、2013年3月に第31代の日本銀行総裁に就任します。そして4月4日、総裁就任後初めてとなる金融政策決定会合で、2%の物価目標を2年程度で実現するために、日銀が供給するマネタリーベースを2年間で2倍にするなど大胆な金融緩和に踏み切りました。

この日の米ドル/円は93円で取引が始まり、一時92円台後半まで下落したものの、予想を超える、まさに「黒田サプライズ」が発表されると一気に96円を超えるまで3円以上の大幅な円安(米ドル高)となりました。そしてその後も米ドル高・円安は続き、約1カ月後には100円の大台を超え、103円を記録するところとなったのです。

  • 【図表1】2013年の米ドル/円の週足チャート【図表1】2013年の米ドル/円の週足チャート

    【図表1】2013年の米ドル/円の週足チャート

ところで、黒田総裁が主導した大胆な金融緩和は、約1年半後の2014年10月31日にも行われました。いわば「黒田サプライズ2」ということですが、でもこの時の米ドル/円のプライスアクションも、じつは「黒田サプライズ1」のケースとほぼ似たものとなりました。

サプライズ決定のあったその日、米ドル/円は3円以上の上昇(円安)となり、約1カ月で最大10円を超える上昇(円安)となったところで一幕降ろしたのです(図表2参照)。要するに、「黒田サプライズ」のインパクトは、初日で3円超の円安、約1カ月で10円超の円安。それを黒田総裁は、市場の意表を突く2度の金融緩和決定によって実現した形となりました。

  • 【図表2】2014年の米ドル/円の週足チャート(出所:マネックストレーダーFX)

    【図表2】2014年の米ドル/円の週足チャート(出所:マネックストレーダーFX)

さすがにこうなると、世界の金融市場関係者が、「クロダは何をするかわからない」として一目置くところとなったでしょう。米ウォールストリート・ジャーナルは、「黒田サプライズ1」の直後、「これは、FRB(連邦準備制度理事会)が金融危機後に採用した金融政策へ日銀も転換したことを意味する」として、「日本のバーナンキ」と題する社説を掲載しました。

ただ、黒田総裁は、「サプライズ緩和」決定前に、じつは隠密裏にバーナンキ議長に面会していたとの話もあったので、これも単なる例えではなかったのかもしれません。