大証FXの取引が不振だ。9月中の取引金額は1131億円で、1日あたりの平均が51億円。これに対して店頭FXの同月取引金額は、全通貨ペアで157兆8,406億円にも達している。大証FXは、店頭FXの取引金額の、わずか0.07%に過ぎない。これは、もはや競争以前の問題だろう。
もちろん、店頭FXの統計は61社分。これに対して大証FXに参加している会社数は7社だから、ある程度の差が生じるのは仕方がない。でも、会社数で見れば、大証FXは店頭FXの約9分の1なので、その取引金額を単純に9倍にしても、店頭FXの取引金額にははるかに及ばない。つまり、大証FXは目下、大苦戦中ということになる。
なぜ苦戦しているのか。その理由は簡単だ。
レバレッジ規制がスタートする来年8月からは、最大50倍までしかレバレッジが認められなくなるが、今のところは経過措置ということで、400倍、600倍という高いレバレッジも容認されている。恐らく、FX愛好家のなかでもアクティブな投資家は、今のうちにハイレバレッジで取引して、稼げるだけ稼いでおこうという気持ちになっているのかも知れない。
そう考えると、大証FXの取引が低迷する理由もよくわかる。何しろ、レバレッジは最大で30倍に過ぎない。もちろん、ハイレバレッジを指向していない投資家であれば、それでも十分なレバレッジ倍率ではあるが、市場の流動性を高めている(つまりそれだけ活発に取引している)投資家からすれば、やはりレバレッジの高さが即、収益チャンスの拡大につながる。
そして、そういう投資家は、今の時点では大証FXで取引しようとはしない。大証FXの取引金額が低迷するのは、仕方のないことなのだ。
さて、そうは言うものの、店頭FXに優位性があるのは今のうちだけだろう。2010年の8月から、FXのレバレッジは最大50倍まで制限される。くりっく365や大証FXなどの取引所FXも同様だ。つまり、レバレッジの面で見た店頭FXの優位性は、この時点でほとんどなくなる。さらに、2011年8月からは25倍制限になるので、この時点で店頭FXのレバレッジの優位性は完全に失われる。
ここで大証FXに対する注目度が高まってくるはずだ。
まず、レバレッジは同じなのだから、投資家からすれば、基本的に取引先を差別化する要因が少なくなる。しいて言えばコストの差だが、店頭FXが今の低スプレッド、低取引手数料を維持し続けられるかどうかは疑問だ。コスト面での差別化も出来なくなれば、店頭FXの魅力は大きく後退する。
レバレッジも、コストも決定的な差別化要因にならない。こうしたなか、取引所FXには絶対的な優位性を持つ要因がひとつだけある。税制メリットだ。
店頭FXによって得た収益は、雑所得として総合課税扱いになる。給与所得などと合算した場合の最高税率は50%だ。ところが、取引所FXなら20%の申告分離課税で済む。そのうえ、最長3年間の損失繰越や、株価指数先物取引、あるいは商品先物取引との損益通算が可能になるなど、取引所FXの税制メリットは大きい。
そのうえ、レバレッジ規制にともなって、店頭FX会社の再編が加速していくだろう。これについては、当コラムでもたびたび指摘している通りだが、超回転売買によって薄利多売を行ってきたようなFX会社ほど、これからは業績悪化に苦しめられることになる。
廃業が相次げば、他の健全なFX会社までもが、疑いをかけられる。そして、こうしたなかで、取引所FXの信用力が、相対的に高まっていくはずだ。
もちろん、FXそのものから投資家が離れていけば、いかに取引所FXでも、もうどうしようもなくなるだろうが、一定水準の数で投資家が残り、それなりに取引が行われれば、取引所FXにとっては、これからフォローの風が吹いてくるはずだ。
執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)
主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。