久しぶりに米国の芸能と政治社会についての話をひとつ。
マーティン・ルーサー・キング牧師の有名な演説(例の「I Have A Dream...」のスピーチ)で知られるワシントン大行進からまる50年目を迎えた8月28日に、「Let Freedom Ring」と題する記念式典が首都ワシントンDCのリンカーン・メモリアルで開かれていた。
話題の映画『The Butler』に出演するフォレスト・ウィテカーとオプラ・ウィンフリー、それにジェイミー・フォックスあたりが顔を見せる、というニュースが流れていたのでひそかに注目していたこの式典。存命する歴代の民主党大統領(ジミー・カーターとビル・クリントン)も列席し、オバマ大統領が約28分にも渡る力のこもったスピーチをしたことなどが各メディアで大きく報じられていた。オバマが今年1月にあった自分の就任式でも20分くらい演説していなかったことを考えると、この長さは異例といえるかもしれない。ついでにいうと、オバマ政権と予算関連の軋轢が生じている共和党関係者はひとりも顔を見せなかったとか。
Obama Commemorates King’s ‘Dream’ Speech - NYTimes
Carter, Clinton Praise MLK at 50th Anniversary Event - WSJ
Commemorating the 50th anniversary of the March on Washington - Washington Post
Youtubeのwhitehouse.govチャネルには、ライブ中継されたストリーミング映像の録画(約5時間も長さがある)などが公開されている。またWSJなどにはダイジェスト版も出ている。
約5時間ある「完全版」を観ると、実にいろいろな立場の人々が登場し、スピーチしたり、歌を披露したりしているのがわかる(中には、なぜかニュージーランドの先住民族の踊りのようなものも見られる)。
2時間41分すぎにちょっとだけ登場するジェイミー・フォックスは、「ウィ・アー・ザ・ワールド」の提唱者として知られる往年の大歌手ハリー・ベラフォンテが名前を挙げた同時代の公民権運動の指導者らの名前を自分の娘が知らなかったということに触れ、こう続けて力説した。
「年長の人たちがやってきたことを若い連中に語り継がなくちゃいけない」「先人の仕事を俺たちーーウィル・スミス、ジェイ・Z、カニエ・ウェスト、アリシア・キーズ、ケリー・ワシントンら——が引き継いでいかなくてはいけない」。
また「モータウン・レコード創業者のベリー・ゴーディJr.がキング牧師の演説をレコードにして売ったその儲けを、牧師の残された家族に渡した」といった逸話を語る場面もある(フォックスも出演していた映画『ドリームガールズ』のなかにも、キング牧師のレコードを出す場面があったのを思い出した)。
Jamie Foxx: Will Smith, Jay Z Should Be Next Civil Rights Leaders (Video) - THR
なお、50年前の大行進に参加していたNBA往年のスーパースター、ビル・ラッセルが今回の式典でもスピーチしていた(2時間8分すぎあたりに登場)。
それとは別に、壇上に並んだ来賓(?)のなかには次期駐日大使の指名を受けたキャロライン・ケネディの顔も見える(オバマ大統領のすぐ後ろ、オプラの横の席)。大行進があった1963年当時の大統領が父親のJ・F・ケネディで、その関係から一族を代表して、ということかもしれない。
ところで。
ワシントンでの催しにエンタテインメント業界の大物が登場するのはすっかりお馴染みになった感もあるが、50年前の大行進については高校時代の歴史の授業でざっと習った覚えがあるくらいで、断片的な情報の寄せ集めくらいしかなかった(以前に記したMLB初の黒人選手、ジャッキー・ロビンソンの話などもそのひとつ)。この原稿を書くにあたり、資料やyoutubeにある映像などをあたってみて、50年前の大行進の際にも歌が重要な役割を果たしていたということを知り、改めて新鮮に感じた。
Wikipediaの「March on Washington for Jobs and Freedom」の項目には、ジョーン・バエズ(スティーブ・ジョブズあこがれの人)や、まだ少年のようなボブ・ディラン、ピーター・ポール&マリー、ゴスペル界の伝説的名歌手マヘリア・ジャクソンなども登場してそれぞれ歌を披露した、などとある。また下記の映像にも、そうした音楽アーティストの姿が出ている。
ジョーン・バエズについては、彼女も歌った「We Shall Overcome」という曲が公民権運動のアンセムとなっていた、といった説明もある。下掲の映像のなかにも、この歌を合唱する人々の姿を捉えた場面がいくつか出ていたりする。
[HD Stock Footage Civil Rights March on Washington with Martin Luther King Jr.]
(バエズがしばらく前にホワイトハウスに呼ばれていたのは、そういう経緯があったのか、と改めて納得)
上掲のWSJのダイジェスト映像には、オプラ・ウィンフリーの「自分は当時9歳で、大行進があると聞いて『私も参加しちゃダメ?』と母親に尋ねたことを覚えている」「50年経ってあの時の夢が果たせてとてもうれしい」云々といった一節があるが、大行進の始終を記録したこの30分ほどの映像をみると、そうした気持ちになったのも頷ける。
一方、この大行進が「仕事と自由を求めて」のものだった、というのも別の意味で興味深く感じた。演説者のなかに、ユダヤ教など複数の宗教関係者・代表者に混じって、UAW(全米自動車労連)の幹部が登場しているのもそうしたことと関係があるのかもしれない。昔の、たとえばフランス革命や大正時代の米騒動から、最近の「アラブの春」といったものまで、結局は「食べていくこと」(の大変さ)が大勢の人々を立ち上がらせる、というのは想像しているよりも普遍的なことなのかもしれない。
追記1:ホワイトハウスと公民権運動
ジョーン・バエズやボブ・ディランも呼ばれて歌っていたホワイトハウス主催の「公民権運動にまつわる音楽」の昨夜(2010年2月)については、以前に少し紹介していたが、さきほどホワイトハウスのサイトをみたら一連の催しの映像を残したページがすっかり一新されていた
Performances at the White House
追記2:『42』主演俳優の次回作はジェームス・ブラウンの伝記
日本でも11月に劇場公開が決まった映画『42』。この主役のジャッキー・ロビンソン役を演じたチャドウィック・ボーズマンが次回作が決まったらしい。'42's' Chadwick Boseman to Play James Brown in Biopic
追記3:過激パフォーマンスアーティストへの寄付に著名人が立ち上がり……
ジェイ・Zやレディー・ガガも資金集めに協力していた、マリーナ・アブラモヴィッチというライブ・パフォーマンス・アーティストのミュージアム設立計画。その実現に向けたKickstarterでの資金集めがみごと目標額に達したという。ガガも「ひと肌脱いだ甲斐があった」といったところか。
Jay Z, Lady Gaga help push Marina Abramovic's art museum past Kickstarter goal
追記4:男女の悲喜こもごも
映画『Behind The Candelabra』(邦題『恋するリベラーチェ』)でオカマさんを演じたマイケル・ダグラスがキャサリン・ゼタ・ジョーンズと別れることになったとか、この夏BillboardのHot 100チャートで1位と2位を独占し続けたロビン・シックとマイリーサイラスがMTVのVideo Music Awardsで大暴れ(大暴れしたのは主にサイラスのほう)したとか、はたまたグーグルの「グラス野郎」ことサーゲイ・ブリンが社内の若い女子と懇ろになったのがばれて、奥さんと別居……(Harper's Bazarにあるこの写真、デザイナーのダイアン・フォン・ファステンバーグの横に、ブリンの不倫相手とされる社員(黄色いワンピース)がちゃっかり写っていたりするのがおかしい)など、最近は男女関係の話題も賑わっている。
追記5:ラマー・オドム騒動に端を発するNBAの薬物疑惑
最後に。
NBAプレーヤーのラマー・オドムといえば、LAレイカーズで2度優勝、米国代表チームに選ばれたこともあるスター選手だが、いまではキム・カーダシアンの妹「クロエの亭主」としてすっかり有名になった感がある。そのオドムが謎の失踪事件を起こしていたことは各所で報じられているとおりだが、この薬物濫用が原因とみられる失踪をきっかけに、NBAでも複数の選手が違法な薬物に手を染めているのではないか、といった話が一部で浮上してきている。
LAMAR ODOM - NOT THE ONLY NBA DRUG USER
ただし「NBA(事務局)の検査はとても徹底したものだから、やっていたらバレないわけがない(見つからないようにするのはたいへんなこと)」という選手のコメントも出ている。
NBA STAR DAVID LEE - NBA Drug Testing Is 'VERY THOROUGH'
いずれにしても大リーグ(MLB)でたぶん空前の「スター選手出場停止処分」があった矢先の出来事なので、NBAファンとしてはちょっと気懸かりな話である。