大手私鉄の急行やJR各社の快速など、乗車券のみで利用できる速達列車も多い。ちょっと遠くへ急いで行きたいときにうれしい列車だ。でも混雑する路線では、通勤ラッシュ時間帯になると急行・快速が走らなくなってしまう。この時間帯こそ急いでいる人が多いと思うのだけど……、なぜだろう?
一例として、都心から羽田空港へのアクセス路線として活躍する東京モノレールの時刻表を見てみよう。東京モノレールは普通の他に、「空港快速」「区間快速」の2種類の列車が設定されている。空港快速が最も速く、起点のモノレール浜松町駅から終点の羽田空港第2ビル駅までの所要時間は約19分。区間快速は21分、普通は24分かかる。
普通と空港快速の所要時間は5分しか違わない。それでも空港快速を運行する理由は、「急いで行きたい」という利用者の要望に応えるため。そして羽田空港アクセス路線のライバル、京急電鉄と競合しているためだ。京急電鉄のエアポート快特は、モノレール浜松町駅近くの都営浅草線大門駅から羽田空港国内線ターミナルまで約23分で結ぶ。空港快速の所要時間「19分」は、エアポート快特より4分早い。「20分以下」のアピールも効果的だ。
ところが、同社の公式サイトで浜松町駅の時刻表を調べると、7時台から9時台半ばまで普通のみ。空港快速も区間快速も運転されていない。
列車ダイヤを見れば、その理由がわかるかもしれない。そこで今回は、東京モノレール羽田線の朝6時台から12時頃までのダイヤを作ってみた。時刻表の参考資料は、交通新聞社発行の『MY LINE 東京時刻表 4月号』だ。
東京モノレールの停車駅案内にならって、赤い線が最速の空港快速、オレンジの線が区間快速とした。早朝は2種類の快速列車が走っている。空港快速は昭和島駅で先行する普通を追い越す。区間快速は途中駅の追い越しはなし。だが、朝7時台になると、この2種類の列車はモノレール浜松町駅から姿を消してしまう。ここからずっと普通だけ。快速の復活は9時36分発の空港快速からだ。
なぜ7時台から9時台前半まで快速列車が走らないか? 謎を解く鍵は列車の運行間隔だ。普通だけの時間帯と快速が走る時間帯の2つのダイヤをもとに、列車の間隔を比べてみよう。普通だけ走る時間帯のほうが間隔が狭いことに気づくはずだ。つまりこの時間帯は運行間隔が短い。そして列車の本数は多くなっている。通勤ラッシュ時間帯は運行本数を増やすため、快速を運転しないというわけだ。
輸送効率が良い「平行ダイヤ」
東京モノレールは開業当初、浜松町駅と羽田空港駅の2駅しかなかった。全列車が現在の空港快速のような運行形態だった。しかし、空港輸送だけでは収益が増えなかったこと、沿線に企業が増えたことなどを理由に、途中駅を増やしていった。オフィス街にできた天王洲アイル駅や、物流拠点の流通センター駅・昭和島駅、空港職員向けの整備場駅などだ。その結果、現在は空港利用客輸送だけではなく、通勤客にとっても重要な路線になっている。
通勤客が多いなら、通勤利用者の多い各駅に停まる列車を増やしたほうがいい。同時に快速も走らせたいけれど、それは難しい。なぜかというと、速度の遅い列車と速い列車を混在させると、運行間隔が一定にならなかったり、追い越し駅で各駅停車の停車時間が長くなったりするから。全体的な運行本数が減ることで、全体の輸送量も減ってしまう。
一方、同じ速度の列車を連続して走らせれば、運行間隔は均等になる。追い越しなどもないから、ぎりぎりまで運行間隔を縮められる。すべて普通だから所要時間は快速より遅くなってしまうものの、輸送量は最大となり、最も効率がいい。列車ダイヤで見ると、同じ角度の線が平行して並んでいる。そのため、このようなダイヤを「平行ダイヤ」と呼んでいる。
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