混雑した通勤電車に乗っていると、「時間調整のため、1分ほど停車します」という車内放送がよくある。「急いでいるのに……」と思うけれど、あきらめるしかない。

通勤電車の時間調整には2つのパターンがある。ひとつは、「前方の電車が遅れている場合」だ。これは進行方向の電車が詰まっているからしかたない。納得できる。もうひとつは、「後続の電車が遅れている場合」だ。これはちょっと不思議。後ろの電車が遅れているなら、自分が乗っている電車は関係ない。進行方向の電車が詰まっているわけでもない。「それなら発車してくれ、会社や学校に遅刻しちゃう」、そう誰もが思うはず。

後続列車のために先行列車を遅らせる理由

しかし、これにはちゃんと理由がある。鉄道会社は駅の乗客について、「一定時間で定量的に増えていく」と考えている。A駅では1分間に100人、B駅では1分間に150人ずつ増えていく。列車が1分遅れると、その分だけ乗客が駅に増えていく。乗客が増えれば乗降時間が余計にかかるから、遅れている列車がますます遅れてしまう。最悪の場合、駅に乗客があふれてしまう。これが遅れた列車の1つ先の駅、2つ先の駅、3つ先の駅へと波及していく。遅れている列車の後続の列車も、同じ時間かそれ以上に遅れていく。

そこで、遅れている列車に先行する列車も少し遅らせて、本来は後続列車に乗る客も乗せていく。こうして路線全体の列車の遅れを最小限にとどめるというわけだ。このしくみは東京メトロ公式サイトでも動画で説明されている。駅に設置された液晶モニターでも紹介されているから、理解してほしい。

東京メトロ東西線、列車ダイヤで時間調整の理由が明らかに!

こうした時間調整は、混雑や事故、車両故障などで発生することが多い。しかし、こうしたアクシデントがなくても、いつも決まった駅で時間調整を行う列車もある。その理由は列車ダイヤを描くと理解できる。

今回のダイヤは東京メトロ東西線。西船橋駅(千葉県)と中野駅(東京都)を結ぶ路線だ。このうち、西船橋駅から東陽町駅までの区間は快速運転を実施している。東京の路線の中では最も混雑する路線のひとつだ。

朝の通勤時間帯、西船橋方面から都心へ向かう電車に乗ると、東陽町駅や茅場町駅で電車がしばらく停車する。「時間調整のため停車します」「●●分の発車予定です」と車内放送で案内される。事故や故障とは関係なさそうだ。

その秘密を、東西線の列車ダイヤで考察してみよう。大判の時刻表だと始発列車と終電車しか記載されていないけれど、交通新聞社の「マイライン東京時刻表」やインターネット時刻表の「駅から時刻表」には全時刻が掲載されている。このうち、通勤時間帯の西行き時刻を列車ダイヤ描画ソフト「Oudia」に入力してみた。

朝ラッシュ時間帯の「東京メトロ東西線」ダイヤ

東西線の浦安駅付近から神楽坂駅付近の朝ラッシュ時間帯を拡大表示してみた。よく見ると、茅場町駅の上と下で様子が違う。上は線の傾きがバラバラで美しくないが、下は線の間隔が均等だ。線が平行に並んでいて美しい。

東陽町駅から上で線の傾きが異なる理由は、同駅まで快速運転が行われ、列車の速度が異なっているから。通過運転をしない東陽町~茅場町間で線の傾きが異なる理由は、時刻表では秒単位の時刻が省略されているからと考えられる。

大都市の通勤区間において、実際の列車ダイヤは15秒単位で作られている。実際には「08時10分00秒」「08時10分45秒」と設定されていても、時刻表ではどちらも「08時10分」と表記される。つまり、駅や市販の時刻表では最大45秒の誤差がある。これらの時刻表をもとに「Oudia」に入力すると、その誤差が傾きの違いで見えてしまう。

それを踏まえて見ても、茅場町駅から下はきれいに整っている。これが事故や故障とは関係ない「時間調整」の理由だ。東陽町駅まで快速運転を行っているため、列車の到着時刻は等間隔にならない。しかし、快速運転のない都心区間では、列車を等間隔で走らせたい。それで東陽町駅や茅場町駅で「時間調整」を実施するというわけだ。

すべての列車を東陽町駅で調整しない理由は、東陽町駅には車庫へ入出庫する分岐点があり、回送列車との兼ね合いがあるからだろう。また、茅場町駅は乗降客が多く、こちらで停車時間を長くした方が都合が良いからかもしれない。ちなみに下の図は日中のダイヤ。こちらは東陽町駅で時間調整を行い、都心方面の列車が等間隔になっている。

日中時間帯の「東京メトロ東西線」ダイヤ

つまり、朝ラッシュ時間帯の東西線では、あらかじめ「時間調整」を組み込んだ列車ダイヤが作られていたわけだ。今回は筆者もよく利用する東京メトロ東西線の例だったけれど、こうした施策は他の通勤路線でも実施されているはず。「時間調整」と聞いてもイライラしないために、時間に余裕を持って電車に乗ろう。