前回は新型コロナ対応融資の契約面の特徴について情報提供いたしました。今回は第21回の内容をアップデートするかたちで2019年の資金調達環境について振り返ります。
昨年に引き続き、新しく起業した法人の資金調達環境全体について網羅的に調査した文献はないようです(ご存じの方がいらっしゃいましたらご一報いただきたく存じます)。(1)新設法人数の推移、(2)ベンチャーキャピタルの投資状況、(3)創業前及び創業後1年以内の企業への融資実績の順に、数字を追っていきます。
(1)新設法人数の推移
新しく設立された法人の数の推移については、東京商工リサーチが毎年発表している「全国新設法人動向」調査にて確認することができます。直近5年の新設法人数を抜き書きすると下記の通りとなります。
直近数年間は13万件前後を維持しており、起業熱が高まったとも冷めたとも言えず、安定した状況だと考えます。
(2)ベンチャーキャピタルの投資状況
スタートアップの資金調達に関して調べた資料は複数あるようです。困ったことに集計値が倍近く異なることもあり取り扱いが難しいですが、まずは数値を紹介します。
一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターが毎年発表している「ベンチャーキャピタル等投資動向速報」から、直近5年の投資件数を拾うと下記の通りとなります。
2016年以降の数字が第21回に記載したものとは異なっておりますが、集計元が値を更新したことに因るものです。正確な情報収集の困難さを物語っております。
一方、株式会社INITIALが公表している「国内スタートアップ資金調達動向」から、直近5年の調達社数と資金調達額を列挙すると下記の通りとなります。
「ベンチャーキャピタル等投資動向速報」と「国内スタートアップ資金調達動向」の集計方法が異なっているにせよ、共通して読み取れることが2点あります。2018年から2019年にかけて投資件数は減少傾向にあることと、1件あたりの投資金額は増加傾向にあることです。
(3)創業前及び創業後1年以内の企業への融資実績
新しい法人に対する融資の状況を政府系金融機関も民間金融機関も包括したかたちでまとめている資料は、昨年の記事に引き続き見つけておりません。Web公開されている統計の中から代替情報として、日本政策金融公庫国民生活事業のニュースリリース (2019年の数字は「令和元年度(第12期)事業報告に掲載されている「創業前及び創業後1年以内の企業への融資実績(先数)」を参照します。
元々ダウントレンドに入っていたものの、2018年から2019年にかけて融資先数が顕著に減少し、1社あたりの融資金額も減少しています。この数字を見たときに悲観的な印象を受けますが、明るい材料がない訳ではないです。日本政策金融公庫が近年力を入れている民間金融機関との協調融資についても数字が発表されており、2019年の数字が未発表ではありますが、2018年までは力強い伸びを見せていました。
上記の情報をもとに、新設法人の資金調達活動が活性化していたか否か検討してみます。
エクイティファイナンスを受けた企業の割合(演算の厳密性に関しては注意点がございまして、第21回の記事にて説明をしております)に変化があるかを確認すると、僅かながら減少しています。また、新設法人のうちデットファイナンスを受けた企業の割合を試算すると、エクイティファイナンスのケースと同様に2018年から2019年にかけて減少しています。
新型コロナ感染症の影響が出る前の時点で、資金調達を必要とする新設法人の数は資金調達方法に拠らずピークを超えた状況であり、エクイティファイナンスでは1社あたりの調達金額が増加傾向、デットファイナンスでは1社あたりの調達金額が減少傾向だと推測できます。
大きな金額の資金調達を必要としている起業家の人数が枯渇してきている予兆を感じ取れますが、一方で旺盛な資金ニーズを抱える企業も一定数存在しておりますので、全面的に悲観することもないでしょう。日本政策金融公庫以外の民間金融機関がどの程度創業融資に取り組んだのかについては情報がないので、減少分を何処まで代替しているかはわかりませんが、引き続き調査を進める予定です。2020年の大きなトレンド変化の中で今回紹介した数字にどのような影響があるのか、今後も注視したいと思います。
2019年の資金調達環境に関する考察は以上です。次回は令和2年度の制度融資について、注目度は高くないが有用なものをピックアップして紹介いたします。