投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。本シリーズの第2回「リスクとリターンの関係」では、投資において、それなりのリターン(収益)を上げようとすれば、相応のリスク(リターンの変動)を受け入れる必要があることを学びました。それでは、あなたは投資でどれだけのリスクを取るべきでしょうか。

  • 投資でどれだけのリスクを取るべきか(写真:マイナビニュース)

    投資でどれだけのリスクを取るべきか

あまりにも漠然とした質問ですが、単純な答えはありません。あなたの投資の目的や投資の期間、投資資金の性格などによって、様々な答えがありうるからです。また、同じ金融商品であっても、投資のやり方によってはリターンやリスクなどの属性が大きく変化する可能性もあります。

以上の点を説明するため、ごく単純化した例をみてみましょう。

リターンとリスクには様々な考え方がある

金融商品(A)に1,000万円を投資すると、1年後に50% の確率で1,150万円に、50% の確率で950万円になるとします。1年後の期待値は1,050万円で、期待リターンはプラス5% です。

金融商品(B)に1,000万円を投資すると、1年後に50% の確率で1,500万円に、50% の確率で700万円になるとします。1年後の期待値は1,100万円で、期待リターンはプラス10% です。

  • 例:リターンとリスクの考え方

    例:リターンとリスクの考え方

金融商品(A)はローリスク・ローリターン、金融商品(B)はハイリスク・ハイリターンといえます。もっとも、ローリスク・ローリターンか、ハイリスク・ハイリターンかは、あくまで比較のうえでのことであり、明確な基準はありません。

さて、1,000万円を1年間運用しようとしているあなたは、どちらの金融商品を選ぶでしょうか。

あなたが1年後に1,000万円を頭金にして住宅を購入する具体的な計画を持っているとしましょう。金融商品(B)はもってのほかですが、金融商品(A)でも頭金が不足する可能性があるので、あなたにとってはリスクが大きすぎると考えるかもしれません。

あなたが運用しようとしている1,000万円のうち900万円は親からの借入で、1年後には返さなければならないとすれば、どうでしょうか。親に全額を返済できなくなる可能性のある金融商品(B)は考慮の対象外となるでしょう。

金融商品(A)の場合、1年後に900万円を返却した後(甘い親なので利息は取らないとします)、あなたの手元に残るのは50万円か、250万円です。前者は100万円に対してマイナス50% のリターン、後者は同じくプラス150% のリターンで、期待リターンはプラス50% です。借入をしたことにより、金融商品(A)への投資はハイリスク・ハイリターンになりました。これをレバレッジ(てこ)効果と呼びます。

  • レバレッジ(てこ)効果とは

    レバレッジ(てこ)効果とは

話が少し横道にそれましたが、あなたが、今運用しようとしている1,000万円以外に9,000万円の定期預金を持っているならば、どうでしょうか。

預金には利息は付かないものの、1年後に確実に全額が返ってくると仮定しましょう。あなたは1億円の資産を運用しており、金融商品(B)に1,000万円投資することで、1年後の資産総額は、9,700万円か、1億500万円のいずれかになります。つまり、資産総額がプラス5% になることを狙って、マイナス3% になるリスクを取ったことになります(期待リターンはプラス1% )。あなたにとって金融商品(B)を組み入れた資産運用はローリスク・ローリターンと言えるかもしれません。


以上のように、一般的にローリスクと言われるものであっても、あなたにとってかなりのハイリスクかもしれません。また、やり方によってはローリスク・ローリターンの金融商品への投資がハイリスク・ハイリターンになる場合もあります(上の例では借入によるレバレッジを用いました)。  さらに、ハイリスク・ハイリターンの金融商品への投資であっても、あなたに十分なリスク許容度(上の例では十分な資産)があれば、大きな問題ではないかもしれません。

専門家はいろいろとアドバイスしてくれるでしょうが、どの程度のリスクを取れるのか、取るべきなのかは、やはりあなた自身が判断するようにしましょう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。