今回の調査対象になったのは、20代前半、いわゆるZ世代の社員です。コロナ禍の時期から現在までWHF(リモートワーク)を選択しています。仕事のパフォーマンスは中の下といったところでしょうか。しかしながら、ITリテラシーの高い若い世代が少ない業界であることから、勤務先としては期待を寄せていました。ところが徐々にレスポンスが遅くなり、仕事の期限もギリギリ、または微妙に遅れることが増えてきたのです。

そこでリモートワーク中にさぼっているのではないかという疑惑が生まれたのですが、調査したところとんでもない事実が見つかりました。

「勤務中に副業しています」「いいね」

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Z世代のZ君の勤務先は行政法人で、いわゆる半民半官企業。守秘義務の多い業務が多く、副業は禁止されています。ところがZ君は、こっそりと副業をしていました。副業といっても、ブログや攻略note、有料相談などで収益を上げるもので、同業他社にかけもちで勤務しているとか、風営法に絡む店で働いているとか、そういうものではありません。メルカリで不用品や仕入れたものを定期的に売って少額の利益を得たくらいで即解雇とはならないように、今回も本来であれば見逃し、または勤務態度とあわせて「口頭の注意」で済むような内容と言えなくもなかったのですが、問題はその内容でした。

Z君は20代前半にして、すでに何度か転職経験があります。その転職経験をもとに「転職キャリアアップアドバイザー」を名乗り、SNSで集客をしていたのですが、次のようなことを繰り返し主張していたのです。

「フルリモートの会社で働いているなら、できるだけ仕事せずに安定した固定収入を得るのが正解。会社員として仕事に費やす時間は最小限に抑えてうまくサボり、その時間で難関資格取得の勉強や副業、転職活動をすれば、リスクを取ることなく安全に次のステージに上がれます。それまではセーフティネットとして会社を利用しましょう」

副業、起業、資格取得を考える人の悩みは「時間がない」

いや、確かに賢い、要領のいい選択肢に聞こえます。効率的にリソース配分し、リスクなく最大の成果を得る。そういう割り切った考え方にも一理あります。

副業、起業、資格取得などステップアップを考える人の最大の悩みは「時間がない」ことです。働かずに自分の夢に集中できれば、それだけのお金があれば、時間さえあれば、寝ずに取り組めるだけの体力があれば……そう考えない人はほぼいないでしょう。朝から晩まで仕事、仕事、仕事。行きも帰りも満員電車。そして家事に育児、その他「やらなければならないこと」だらけで手一杯。してみたいことやしなければいけないことは沢山あるけれど、いかんせん時間がない。そう思っている人なら、Z君の“ライフハック”? “キャリアハック”? を聞いてどう感じるでしょうか。

「背信行為」をしないことは、社会人の最低限のルール

Z君の主張は一見、効率的なアイデアに思えるかもしれませんが、就業規則で副業が禁止されている組織で雇用されている従業員としては、完全にアウトです。生活費が足りなくて、あるいは何らかの理由でお金が必要になり、副業禁止規定に反して何らかの副業をしてしまっているといった単純な違反より、はるかに問題は大きいのです。

Z君は、就業時間中にしっかりと業務をこなす前提で雇用されています。就業時間中に副業をさせるために、会社は給与や福利厚生をZ君に用意していないのです。なのに本来の仕事はそっちのけで副業に毎日励んでいるなら、それは、いわば詐欺と同じ行為になってしまいます。そしてそのような会社を裏切る行為を自慢げに公開し推奨しているのは、「勤務先を騙して、給料を詐取しましょう」と唆していることになり、社会的にも非難されることなのです。昔風にざっくばらんな言い方をしますと、「給料泥棒」です。

勤務先に対し背信的な行為をしないことは、社会人として最低限のルールです。このルールは、仕事の成果や成績、スキルや能力などよりもっともっと根本的な絶対ルールだと言えるでしょう。

上司や人事の指導にもピンときていない様子のZ君-会社の措置は…

この件に関しZ君と「会社との信頼関係」について話した上司と人事部の担当者は、Z君は正直何が悪いのかあまりわかっていないようだ、という印象を受けたそうです。結果的に、いったん部署全体のリモートワークは取り消しとなり、出勤して上司の監督のもとパフォーマンスを精査し、今後またハイブリッド勤務にするかどうか検討することになりましたが、Z君が内心どう考えているかは不明です。しかしながら、会社への背信的な行為が発覚したため、自由が制限されてしまったことは彼にとっても思わぬ誤算だったに違いありません。

ITリテラシーが高く、タイパのように物事の効率性を重視し、その多くがリモートワークを好むZ世代。会社へのエンゲージメント(帰属意識)が薄いと、思わぬ問題が生まれることもあるようです。