吉本興業と所属するお笑い芸人たちの「闇営業」を発端とする騒動はまだ鎮静化の様子がありません。テレビはもちろん、ウェブ、新聞など多くのメディアで取り上げられています。

一連の報道を見ていて筆者が疑問に感じたのは、特に「雇用契約」にまつわる内容でした。もともと芸能業界に疎いこともあり、彼らは同社社員として雇用契約を結んでいるのかな? と考えていました。ところが、「雇用契約」はないようで、どうも業務委託契約となるようです。

では、業務委託契約と雇用契約は何が異なるのでしょう。また、雇用関係にない、吉本興業とお笑い芸人の間で、例えば「パワーハラスメント」は成立するものなのでしょうか? 弁護士ドットコム取締役で弁護士でもある田上嘉一さんに、疑問を解消するため、お話を伺いました。

  • お笑い芸人の契約はどうなっている?

雇用契約と業務委託契約の違い

田上さん「『業務委託契約』は、法律に定められたものではなく、その法的性質は民法の請負契約や委任契約又は請負と(準)委任が混在した契約です。そして『雇用契約』は当事者の一方(労働者)の、労働に従事するという約束と、他方(使用者)の、これに対して報酬を与えるという約束によって効力が生じる契約(民法623条)となります」。

今回のケースでいうと、お笑い芸人が特定の仕事をし、その仕事に対して吉本興業が報酬を支払う「請負類似の契約」と捉えられることが多いようです。そして、通常の雇用契約との大きな違いが、業務委託契約では「労働への従事の方法について被用者が使用者の指揮に服さないこと」だそう。

つまり、ある仕事が吉本興業から芸人Aさんに振られると、その仕事に対する働き方(芸の披露方法)について、吉本興業からは指示できないということ。あくまで、芸人Aさんの裁量で仕事のやり方は調整できるのですね。

請負契約、委任契約と雇用契約の違い

ところで業務委託と同じニュアンスの言葉で、「業務請負」や「委任」があります。これは業務委託と何が異なるのでしょうか、一般的な違いを説明してもらいました。

田上さん「請負は『本人の労働』が目的ではなく、仕事の完成を目的とするものです。仕事が完成しなければ報酬請求権は生じません。そして、委任は受任者が一定の行為・仕事を自身の裁量を持って行うことを目的とするものです。受任者は一定の行為・仕事をすれば、契約上の責務を果たしたことになります」。

雇用契約と委任契約は、働くことを契約(労務供給契約)したことでは同じです。ただ、雇用は契約に従って一定時間働くことで、対価である報酬を請求する権利が生じるのですね。

田上さん「雇用契約がある場合、被用者は使用者の指揮に服するのを本則とする点は、雇用契約と委任契約・請負契約との重要な差異といえるでしょう」。

業務委託契約のマイナス面

業務委託契約の場合、通常の雇用契約と違い、勤務条件の面で大きく不利益をこうむる部分があります。

田上さん「雇用契約であれば、被用者は原則として労働基準法等の保護を受けることができます。しかし業務委託契約では、原則としてこのような保護を受けることができないということが決定的に異なります」。

それから、雇用契約は労働基準法によって基準が定められているので、労働基準法に反する契約は無効となります。けれど、業務委託契約は両者の合意があれば、契約内容は自由で、公序良俗に違反しない限り有効となるそうです。

つまり「ギャラ(報酬)が安い」という問題は、業務委託契約を交わした以上、労働基準法とは関係ないのですね。ちなみに、「給料」という言い方をしている場合もあるようですが、雇用関係が無いので給料という言い方は適切ではありません。

次回は「解雇」問題について紹介します。

取材協力:田上 嘉一(たがみ よしかず)

弁護士、弁護士ドットコム取締役 早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。大手渉外法律事務所にて企業のM&Aやファイナンスに従事し、ロンドン大学で Law in Computer and Communications の修士号取得。知的財産権や通信法、EU法などを学ぶ。日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」や企業法務ポータルサイト「BUSINESS LAWYERS」の企画運営に携わる。TOKYO MX「モーニングCROSS」などメディア出演多数。