「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、SCSK株式会社のTAMP事業プロジェクトで営業・企画チームリーダーを務める今村瑛介氏に、日本における金融アドバイザーソリューションについてお話を伺いました。
SCSK株式会社 今村瑛介氏
TAMPとは
――本日は、ありがとうございます。今村さんは、2009年から証券マーケットの営業を担当され、証券基幹システムの導入などに従事してきたわけですが、TAMP事業プロジェクトを立ち上げたきっかけについて教えてください。
まだ記憶に新しい「老後2,000万円問題」や、昨年からのコロナ禍による先行きの不透明感。また、新設される金融サービス仲介業への異業種の参入など、個人や法人、金融仲介サービス提供者というあらゆる角度から「資産運用のニーズ」が高まっていると実感しています。
しかしながら、日本では個人資産のうち12%しか運用に回っていません。「もっと資産運用を身近な存在にしたい」「資産運用を普及させたい」「金融アドバイザーが適切なアドバイスができる仕組みをつくりたい」という想いが、TAMP事業プロジェクトを立ち上げた原動力になっています。
「TAMP」とは、Turnkey Asset Management Platformの略で、金融アドバイザー向けプラットフォームのことです。
資産運用のアドバイスを行うIFA(独立系フィナンシャル・アドバイザー)の方などが使うポートフォリオ分析や、金融商品の発注までを行うことのできる事業支援プラットフォームで、アメリカではこのTAMPを経由した個人からの投資は全体の4割にも及びます。
2度の渡米で交渉を重ね、アメリカで人気の高いアドバイザーソリューションである『Advyzon』の日本版構築と証券会社、投信会社、保険会社などと連携するAPIプラットフォーム構築プロジェクト=TAMP事業プロジェクトを社内で立ち上げました。
――金融アドバイザーのためのソリューションが日本版TAMPというわけですね。はじめからBtoCでエンドユーザーである個人投資家に届けるよりも、まずはBtoBで金融アドバイザーの課題解決をする方が、資産運用の普及のスピードも早まりそうですね。
そうですね。まずはBtoBを考えました。日々取引をするデイトレーダーの方は、証券会社のシステムで十分だと思います。個人投資家のなかでも、これから資産を築く資産形成層や、すでに資産家である層に伴走する存在であるIFAや金融アドバイザーにソリューションが必要であると考えたわけです。
しかし将来的には、BtoBだけでなくBtoCも展開していきたいと考えています。
日本版TAMPが持つ4つの特徴
――日本版TAMPには、どのような特徴があるのでしょうか?
機能としては4つの特徴があります。「顧客個人だけではなく、世帯管理が可能」「複数の金融機関の情報を、Advyzonで一元管理できる」「管理者/営業員向けの多数の業務高度化/効率化機能」「お客様向け専用アプリでスムーズな情報共有ができる」という4つです。
ファミリーオフィスと呼ばれるサービスがありますが、個人資産だけでなく世帯(ファミリー)の資産を管理し、世代を超えて運用していくニーズがあります。相続対策のご提案などのニーズにも応えられるようにしました。お子さんの資産形成のために、ジュニアNISAの登録もできます。
また、「○○銀行と△△銀行に口座があり、□□証券や◎◎証券にも口座がある」というように複数の金融機関に口座をお持ちというケースも多くありますので、それらの情報を一元管理できるようにしています。他には、金融アドバイザー業務を高度化・効率化する仕組みや、アプリケーションを使って金融アドバイザーからエンドユーザーの方に情報共有できる仕組みも構築しています。
――ありそうでなかったソリューションですね。エクセルで管理するのもアドバイザーの方々は大変でしょうから、素晴らしいプラットフォームだと思います。異業種から金融サービス仲介業に参入する企業も増えるでしょうから、日本版TAMPのニーズも高まりますね。
ありがとうございます。そうなってくれると嬉しいですね。
――今村さんは、金融サービス仲介業は今後もっと伸びていくと感じますか?
そうですね。IFAだけでなく、保険代理店、地銀、さらに異業種からの参入が増えていくと思います。異業種というのは、アメリカのGAFAのような「ユーザープール保有企業」です。
日本では、メルカリやLINEなど非金融領域だった企業がフィンテック企業になってきています。そのような企業と金融機関をつなぐためのプラットフォームという役割も、日本版TAMPにはあります。
CRM(顧客関係管理)やポートフォリオ管理・分析、プランニング、発注連携、文章作成など、金融アドバイザーソリューションは多岐に亘りますが、アメリカではTAMPを活用することが一般化してきていますから、日本でも一般化していくと考えています。
――日本版TAMP事業では、どのようなロードマップを描いていらっしゃいますか?
Step1は、BtoBtoC領域での日本版TAMP基盤の構築です。顧客管理機能・金融機関接続API機能をリリースします。
Step2は、金融機関と異業種との連携基盤の構築です。金融機関接続API機能を活用し、ユーザープール保有企業の「金融サービス仲介制度」活用を支援していきます。周辺システム強化によって、効率的な業務運営を支援します。
Step3はまだ想定ですが、Step1とStep2のシステムを活用してBtoC領域まで拡大したいと考えております。相談ニーズがない顧客へ、ライフプランの見える化を提供していきたいと考えています。
投資家の属性や資産、家族構成、趣味趣向、リスクの許容度などのプロファイリングデータから、現預金や証券、保険の比率を検証し、リバランスが必要なときはアラートがあがる仕組みも構築していきます。そうすることで、金融アドバイザーの業務も効率化・パフォーマンスの最大化が実現できると考えています。
いずれは金融サービスの完全自動化・ロボット化が実現できるのかもしれませんが、まだAIにそこまでの精度はありません。ですが、10年後は今よりも精度はあがっていることは間違いありませんし、2045年に来ると言われるシンギュラリティ以降は完全自動化・ロボット化が実現するかもしれません。
しかし今は、属人的なノウハウで運用しているのが実状です。属人的なノウハウが悪いわけではないのですが、ナレッジ化は必要だと思っています。
――そうですね。トレードをしている人は昼食を取らずに没頭していることもありますし、業務もハードだと思います。運用を任せる投資家の観点では、「このトレーダーやファンドマネージャーに万一のことがあったら、自分の資産運用はどうすれば…」という不安もあるでしょうから、日本版TAMPによって金融アドバイザーや業界の働き方改革が実現できるでしょうし、ビックデータが蓄積されてナレッジ化されれば投資家の不安も解消できそうですね。
「ソフトウェアは面白い」ことをもっと知ってほしい
――最後に、今村さんが今20代だとすれば、どんなことを学びたいですか?
日本版TAMP事業に取り組んでいて、ソフトウェアの面白さを改めて感じています。ソフトウェアによって、だれかの課題を解決できる。ソフトウェアによって、社会の課題を解決できる。そんな実感があります。ですので、ソフトウェア技術についてもっと学びたいですね。
それと、アメリカを見てきた影響もあるのですが、世界をもっと知りたいです。今はコロナの影響もあって国際間の移動は制限がありますが、リモートワークが普及したことでさらにボーダレスな時代になったと思います。オンラインイベントが多いですから、自宅にいながら世界に学びに出かけられるようなものです。20代の人には、今の環境を最大限活かして学んでほしいですね。
10年前は感じていなかったのですが、グローバルな人材になることが改めて重要だと感じています。グローバルな仕組みを日本にローカライズすることができれば、日本市場でシェアを取れる可能性がありますし、世界レベルのAIやクラウド、5Gなどの新しい技術を学ぶことで新しい市場をつくることもできると思います。