「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回のテーマは、「Web3(暗号資産、NFT、ブロックチェーン技術、メタバース)の基礎知識と投資意義」。連載内シリーズとして、何回かに渡って紹介します。

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暗号資産のユーザー層の変遷

2024年に入り、ビットコインETFの承認やビットコインの半減期到達(4年に一度のイベント)など、ポジティブな話題の多い暗号資産業界ですが、どのようなユーザー層が暗号資産を保有しているのでしょうか。

暗号資産は比較的新しい存在ですから、保有しているユーザーは20~30代の若者が多く、株式投資や不動産投資など、他の投資経験のない投資未経験層が多いようです。では、これまでどのような変遷をたどっているのでしょうか。

ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモトが2009年1月3日にネットワークの最初のブロック(Genesis Block)をマイニングしてから、2024年で15年が経ちました。2009~2010年頃のビットコインは、暗号技術者やIT・PCオタクたちの間でゲーム通貨的な存在として、ある種の実証実験のような取引がされていたと言えるでしょう。

コンピューターサイエンスにおける課題として、「ビザンチン将軍問題」が挙げられます。ビザンチン将軍問題とは、1980年代にコンピュータ科学者であるレスリー・ランポート氏らによって定式化された問題のことです。ビザンチン将軍問題は、中央集権的な管理システムが存在せず、参加者の中に故障したコンピュータや悪意を持った者が紛れ込んでいる状態で、「全体で正しい合意形成ができるのか?」に焦点があります。ビットコインは、このようなコンピューターサイエンスの課題を解決できるのではないかと注目されました。

2011~2012年頃になると、ビットコインは投機対象として徐々に投機家に注目されるようになります。大きなきっかけとなったのは、2011年4月にアメリカのTIME誌が初めてビットコインの特集記事を企画したことでしょう。これによりビットコインの知名度が格段に高まり、1BTC=80円台から1BTC=約1500円まで急騰しました。大手メディアにビットコインが紹介されたのは、このときが初めてです。2009年に初めてビットコインと法定通貨のマッチングによる価格(1BTC=約0.07円)が提示されてから、わずか2年ほどで約2万倍も価値が上昇しています。この頃から、ビットコインはROI(投資利益率)の高い投資対象として注目されるようになりました。ビットコインの保有者たち(ビットコイナー)が決済システム・決済アプリや取引所などを自由に開発していたのもこの頃です。

2013年のキプロスショックで資産の逃避先としてビットコインへの注目がさらに高まり、2014年のマウントゴックス事件では「ビットコイン倒産」などの誤情報がメディアを駆け巡り価格は暴落。「ビットコインなんて円天と同じようなもので、すぐに消滅する」と数々の批判を受けましたが、価格は徐々に回復しています。2015年からは、ニューヨーク州などでビットコインなどの現在の暗号資産に関する法整備(ビットライセンス)が開始され、イノベーターだけでなく、アーリーアダプター、アーリーマジョリティへと暗号資産のユーザー層は広がっていきました。

暗号資産の金融商品化と金融事業化

2024年1月10日には、米証券取引委員会(SEC)がビットコインの現物に連動する上場投資信託(ETF)11本を承認したと発表しました。ブラックロック(BLK.N)、アーク・インベストメンツ、21シェアーズ(ABTC.S)、フィデリティ、インベスコ(IVZ.N)などの申請を承認し、アメリカでビットコイン現物ETFが承認されるのは、今回が初めてのことです。今後各国で、ETFなどの金融商品化が進むでしょう。

将来的には、スイスのシグナム銀行(Sygnum Bank)のような暗号資産銀行も増えていくと考えられます。シグナム銀行では、法定通貨と暗号資産の預託受入、暗号資産トレーディング、レバレッジ取引、暗号資産を担保とした法定通貨ローン(クリプト担保ローン、通称クリ担)、それらの他の銀行へのAPI提供などを行っており、スイスでは銀行ライセンス一つでそれらが可能とのことです。

日本でも、2021年11月に創設された「金融サービス仲介業」によって、1つのライセンスで銀行・証券・保険すべての分野のサービス提供が可能になっています。暗号資産銀行(クリプトバンク、web3バンク)が日本でも増えると、web3企業・プロジェクトの誘致などの面でもメリットがありそうですね。

ビットコインの最高値更新の背景

2024年3月には、ビットコインの最高値更新が話題になりました。ビットコインの前回の最高値は2021年10月で、ドル建では一時1BTC=6万7016.50ドル、円建では1BTC=779万円を記録していました。このときの最高値更新は、投資信託のプロシェアーズ社(2006年設立)が取り扱うビットコイン先物に連動したETFがSECによって承認され、初のビットコイン先物ETFとなったためです。ビットコインそのものがリスキーと思う投資家にとっては、金融商品化されたことで投資しやすくなりました。ビットコインは簡単に直接買うことができますが、SECに承認されたことで、大きく社会に認められるアセットクラスへと昇格したと言えます。

その後、FTX事件などで「クリプトの冬」を再び迎えますが、ビットコインは2024年3月5日には1BTC=1000万円を突破し、円建で史上過去最高値を更新しました(ドル建では1BTC=6万9200ドル)。ビットコインだけでなく、イーサリアム(ETH)、ソラナ(SOL)、ドージコイン(DOGE)などの暗号資産の価格も上昇しており、2024年2月には暗号資産の市場規模は2022年4月以来初めて2兆ドルに回復しました。

ビットコインや暗号資産の高値への再突入は、アメリカにおける金利の高止まりが長期化する可能性があるという逆風の中でのものです。2020~2021年にビットコインや暗号資産の価格が高騰した際は、投機的な行動を促す低金利が価格上昇をけん引していましたが、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が高インフレを抑制するために利上げを開始すると勢いは衰え、ビットコインは過去最高を記録してから1年も経たないうちに1BTC=1万6000ドルまで急落しています。

金利が高止まりし、いつ下がるのかはっきりとしない中でも暗号資産の価格上昇が続いているのは、ビットコインETFの登場が要因でしょう。ビットコインETFの登場は、暗号資産需要の原動力になることは間違いありません。ETFを利用すれば、より多くの投資家がトークン自体を購入せずに投資できるからです。ブラックロックやフィデリティといったウォール街の大手企業のETFはビットコインに直接投資しており、市場に出回るビットコインをますます吸収していくと思われます。