「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、金融庁Japan Fintech Week連携イベントとして2024年3月8日にFinGATE KAYABAで開催された、国内最大級の保険業界カンファレンス「ホケンノミライ2024」の前後日談について、イベントを主催したGuardTech検討コミュニティ・代表の温水淳一氏にお話を伺いました。

  • この日のためにデザインされたイベントロゴ(画像・写真提供:GuardTech検討コミュニティ)

保険業界のオープンAPI普及と協業・共創を推進する「GuardTech検討コミュニティ」

――GuardTech検討コミュニティ主催のイベント・勉強会には何度か参加させていただいていますが、今日は3月に開催された「ホケンノミライ2024」についてお聞きしたいと思います。イベントのお話の前に、まずはGuardTech検討コミュニティについて復習させてください。

温水淳一氏(以下、温水氏):銀行業界では「オープンバンキング」という言葉が以前から使われており、それを保険業界でも実現したいと考えました。GuardTech検討コミュニティを立ち上げた当初は、保険業界のオープンAPIの普及を目指す有志団体だったのですが、今では協業・共創を推進する有志団体になりました。テクノロジーのことだけではなく、縦割りの組織や文化からの脱却、業界のカルチャーを変えるための活動を行っています。

インシュアテックに限らず、フィンテック人脈のエコシステムをつくっていきます。個人がつながるために、まずはSNSでグループをつくったり、オンラインの勉強会や交流会、イベントを開催したりと、手軽にできることからスタートしました。5年ほどそんな活動を続けて、土台ができてきたと感じています。

また、若手の閉そく感、チャレンジできない環境をなんとかしたいという思いもあって、GuardTech検討コミュニティを立ち上げました。有志団体ですから、外部の人がすんなり入れるのが良いところです。これが「企業と企業」の関係になると、取っ掛かりがないと社外の人と出会うことも難しくなります。GuardTech検討コミュニティが「個人と個人」「個人と企業」「企業と企業」のハブとなり、取っ掛かりにしてもらえればと思います。

立ち上げたばかりの頃は、勉強会や交流会で人をつないだり、アイデアの議論をしたりしました。それを続けていると、求められているのはビジネスマッチングだと改めて感じ、この5年間でコミュニティメンバー同士でさまざまな共創が生まれています。

――GuardTech検討コミュニティは、人と出会うためのプラットフォームですね。私の場合、こういったインタビューをきっかけに人と出会うこともあり、記事があると紹介もしやすくなります。GuardTech検討コミュニティ主催のイベントには何度か登壇もさせていただきましたが、300名、500名と毎回申込数が増えていて凄まじいなと感じていました。影響力も高まっているのではないでしょうか?

温水氏:そうですね。当初は、部活動や課外活動程度と社内でも捉えられていたと思います。それが今では、CEOや役員がイベントに参加するようになりました。コミュニティをビジネスに応用して新しいことができないかを真剣に検討できる環境になってきています。

  • ホケンノミライ2024の会場(画像・写真提供:GuardTech検討コミュニティ)

保険業界の未来を問い照らす「ホケンノミライ2024」

――3月に開催された「ホケンノミライ2024」は、どのような経緯で始まったのですか?

温水氏:住友生命保険相互会社のエグゼクティブ・フェロー/デジタル共創オフィサーの岸和良さんと話していて、「なにかすごい保険イベントをやろう」と盛り上がったのがきっかけです。フィンテックのみなさんがさまざまなイベントで盛り上がっているのに、インシュアテックや保険分野は若い人が自由に参加できるイベントがあまりない。それを打開するために、なにか行動を起こそうと。

フィンテック業界では、いろいろなところでたくさんのイベントが開催されていますが、イベントが大型化するとセッションなどの内容もスポンサー企業に左右されがちになり、そうした企業の「取引先が聞きに来て終わり」という予定調和感がどうしても生じます。開催当初の熱気が冷めて魅力が失われ、ディスカッションやネットワーキングが弱くなってしまうわけです。参加者同士や登壇者がつながって議論できる。そんなイベントをしたいと前々から思っていました。岸さんが背中を押してくれたのですが、「ホケンノミライ2024」はGuardTechらしいイベントになったと思います。2023年の秋頃から着手し、有志が集まって形にしていきました。

――イベントのロゴや特設サイトもすごく良いデザインですよね。

温水氏:最初は私が慣れないCanvaを使って自力でサイトをつくったのですが、イベントのロゴデザインを株式会社hokanのデザインを担当されている青木さんにお願いしました。商業主義的なカンファレンスとは一線を画す、独創的なデザインのアイデアを出してくれました。結果、ロゴデザインだけでなく特設サイトも制作していただきました。ロゴや特設サイトができてから、明らかにイベントを支えてくれた有志メンバーの意識が変わり、スイッチがバチっと入ったと思います。デザインの力を強く感じた瞬間です。

GuardTechは、ずっと有志メンバーが手弁当でイベントや勉強会をつくりあげてきたのですが、今回も30名ほどが集まってくれました。中には、会社の業務として協力してくれた人や休みを取って協力してくれた人もいます。結果、企業ではなく有志コミュニティが主催する、インシュアテック領域のカンファレンスでは今までにない国内最大級のものになりました。

――内容も含めて、有志コミュニティならではのイベントですね。企業がこういったカンファレンスを主催すると、どうしてもどこかでストップがかかったり、内容もチューニングされてしまうと思います。特に近年は、損保・生保ともに保険の存在意義が問われていると感じます。ホケンノミライが、業界の未来を照らすカンファレンスになれば素敵ですね。

  • ホケンノミライ2024での温水氏と岸氏(画像・写真提供:GuardTech検討コミュニティ)

温水氏:「ホケンノミライ2024」では、メイン会場でのラウンドテーブル、サブ会場でのミニ・セッションの他、手軽にネットワーキングできるようにスペースも用意しました。ラウンドテーブルもミニ・セッションもバラエティに富んだ内容で、私もイチ参加者として全部聴講したかったほどです。

【当日のセッション】 「ホケンノミライ~何が変革を阻むのか~」
「ホケンノミライを、デザインから考える」
「有志コミュニティ・越境人材が切り拓くホケンノミライ」
「DeFi型保険の最新動向と保険会社が押さえるべきポイント」
「アルムナイネットワークを活かせ!~企業代理店2.0への道~」
「“保険+非保険”時代の予想絵図」
「生理痛を体験。男性も上司もマストで知るべきFemtech(フェムテック)の基礎」
「マッチングアプリ成婚者の保険加入動向調査報告!」
「なぜ盛り上がらない?『金融サービス仲介業』」
「日本のWeb3.0政策と世界の規制スマートコントラクト保険の現状」
「ホケンとUXのミライ」

  • ホケンノミライ2024登壇者・参加者のみなさん(画像・写真提供:GuardTech検討コミュニティ)

  • ホケンノミライ2024ネットワーキングの様子(画像・写真提供:GuardTech検討コミュニティ)

未来は予測するものでも待つものでもない

――「ホケンノミライ2024」には、なにか裏テーマのようなものはあったのでしょうか?

温水氏:次世代の人材育成ですね。エフェクチュエーション的なアプローチで「大きなことにつながりそうなスモールスタート」をホケンノミライで行い、それを若手の方々に体験してもらいたいと考えました。エフェクチュエーションは、未来を予測する代わりに、現在できることをもとに将来を創造していく思考法のことです。岸さんは、ご自身のnoteの中で「エフェクチュエーション成功させる5つのポイント」として、

①自分のできることを言語化し磨く
②SNSやnoteなどのオウンドメディアに発信する
③人的ネットワークを増やす
④やりたいことを言語化しお願い(おねだり)する
⑤やり遂げるメンタリティを常に持つ

を挙げています。言葉にすることやそれを発信すること、人とのつながりを増やすことは不可欠で、それをホケンノミライに参加することで体験してもらいたいなと。それで、有志活動のセッションも入れることにしました。多様な働き方や越境人材の必要性を知ることで、若者のキャリア形成につながるかもしれません。若手向けのセッションを想定していたのですが、実際はミドルの方々も多く参加していました。来年は、「アンダー25枠」や「学生枠(保険業界の内定者)」を設けて招待制にするなど、工夫したいと思います。社内や取引先以外の人と関われる機会は、若手の成長につながります。過去の体験を教えるOJTだけではダメで、これからの人材育成は機会提供・環境提供です。未来を予測したり、未来をただ待つよりも、自分たちが未来を創造するという意識を持って取り組んでもらいたいですね。エフェクチュエーションはホケンノミライにとって重要なテーマなので、岸さんと相談しスピンオフイベントとして「金融×エフェクチュエーション」のカンファレンスを急遽企画し開催に向け準備中です。

――特に新型コロナの頃は、未来予測が流行りましたね。今の時代を生きている私たちの日々の行動が未来になっていくわけですから、若手や子どもたちの世代になにかしらの良い影響を残したいなと思います。ところで、「ホケンノミライ2025」の開催はもう決まっているのでしょうか?

温水氏:そうですね。今後は毎年開催になるかもしれません。金融庁の方々やメディア関係者の反応もよく、取材依頼も複数いただいています。主催した私たちがビックリするほどの反響です。現在でも、GuardTech検討コミュニティは「個人と個人」「個人と企業」「企業と企業」のハブとなっているのですが、今後は「コミュニティとコミュニティ」のハブにもなっていくと思います。保険・金融だけではなく、不動産業界の団体などとも共催してイベントを開催していく話も出てきています。それらのイベントやコミュニティからビジネスにつなげていき、エコシステムを築いていければと思います。

「ホケンノミライ2025」に関して言えば、登壇者にも参加者にももっと若い人を入れたいと考えています。偶発的なビジネスマッチングはできているのですが、若手が増えればもっと予想できないようなマッチングが生まれるのではないでしょうか。アメリカの社会学者であるマーク・グラノヴェッターが発表した社会的ネットワークに関する仮説に、「弱い紐帯の強み」という理論があります。新規性の高い価値ある情報は、自分の家族や親友、職場の仲間といった社会的つながりが強い人々(強い紐帯)よりも、知り合いの知り合い、ちょっとした知り合いなど、社会的つながりが弱い人々(弱い紐帯)からもたらされる可能性が高いそうです。そんな「弱い紐帯の強み」を体現する場をつくりたいですね。

企業に属していると、数年で立場が変わっていきます。しかし、個人間のつながりであれば人事異動や転職をしても関係がブツっと切れてしまうことはありません。たった一人がきっかけとなり、後に大きなイノベーションを起こすことがあります。それと同様に、たった一人との出会いが、ビジネスや人生を大きく変えることもあるわけです。一人ではなにもできなくても、一人が始めなければなにも始まらない。そんな一人になる若手と出会いたいですし、良い意味で若手が暴れられる環境を提供できればと思ってGuardTech検討コミュニティの活動を続けていきます。