日本で買える小型SUV特集の第2弾は日産自動車「キックス」だ。日産にとって虎の子の技術であるハイブリッドシステム「e-POWER」と運転支援システム「プロパイロット」を搭載するコンパクトなSUVだが、ライバルたちに比べて何が特色で、どのくらい競争力があるのか。同社のお膝元である横浜市内で試乗してみた。

  • 日産「キックス」

    日産自動車が2020年6月に発売した小型SUV「キックス」(本稿の写真は撮影:原アキラ)

タイ生産の“逆輸入”モデル

2020年6月に“日本デビュー”を果たしたキックス。生産地はタイなので、いわゆる逆輸入車だ。日産の小型SUVといえば、独特なエクステリアデザインで国内外で人気を博した「ジューク」が思い浮かぶが、日産はフルモデルチェンジを経た新型ジュークを日本に導入していない。その代わりに入ってきたのがキックスというわけだ。

実は、現行のキックスが世に出たのは4年以上も前の2016年8月で、ワールドプレミアされた場所は日本から見れば地球の裏側に位置するブラジルだった。ブラジルを皮切りにメキシコ、中国、タイなどでも生産・販売が始まったキックスは、新興国向け低価格車という出自を持っているのが特徴だ。

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    試乗車のボディカラーはオレンジとブラックの2トーンだった

とはいえ日産は、タイ生産のキックスに同社ご自慢のハイブリッドパワートレイン「e-POWER」と運転支援システム「プロパイロット」を搭載するとともに、右ハンドル化し、内外装の質感を向上させるなどの大幅なブラッシュアップを施して日本に持ち込んでいる。日本市場で最新の小型SUVと戦うためには必須の準備といえるだろう。

派手な2トーンインテリア

小型車向けの「Vプラットフォーム」を採用するキックスのボディサイズは、全長4,290mm、全幅1,760mm、全高1,690mm、ホイールベース2,620mm。車重は1,350キロだ。今回の特集で取り上げるクルマの中では、比較的前後方向に長く、背の高いディメンジョンを持っている。

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    時節柄、ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「VRX2」を装着していた試乗車

グレードと価格は、ベーシックな「X」が275.99万円、インテリアが2トーンになる「X ツートーンインテリアエディション」が286.99万円なので、基本的には1種類といっていい。試乗したのは2トーンモデルの方だ。

ボディカラーはプレミアムホライズンオレンジとピュアブラック(ルーフ)の2トーンで、内装もオレンジタンとブラックの組み合わせ。そのせいか、室内はとても明るく元気がよい印象だが、オレンジの彩度が少し高すぎると思うのは筆者だけだろうか。

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    2トーンインテリアの内装は明るいオレンジを多用。ちょっと派手な色使いだ

ドライバーの眼前には、右スポークにプロパイロットの操作ボタンを配したDカット型の本革巻きステアリングがあり、その奥の右側にアナログの速度計、左側にプロパイロットなどさまざまな情報を表示する7インチカラーパネルが備わっている。ナビは9インチ(オプション)だ。センターコンソールのバイワイヤ式シフトセレクターは、それまでの「ノート」が丸形のものを使用していたのに対し、キックスはSUVらしくレバー式を採用。その周囲にはスターターボタン、EVモードスイッチ、e-POWERモードスイッチ、電動パーキングボタンが配置されている。

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    ステアリング右スポークにはプロパイロットの操作ボタンを配置

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    回転式のアナログメーターとデジタル表示部を組み合わせたメーター部

「ゼログラビティシート」と呼ばれるシートはぷっくりとした表皮を採用していて、かけ心地がいい。フロントシートの背面形状が少し窪んでいるおかげで、ただでさえ広い後席のニールームは600mmと余裕たっぷりだ。

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    かけ心地のいいシート

ラゲッジルームはクラストップレベルの423L。大型スーツケースなら2個、Mサイズのスーツケースなら4個、9インチゴルフバッグは3つを詰め込むことができる。後ろ側からは、レバーを引っ張るだけで分割可倒式シートを操作可能。荷室をアレンジすれば長いものを簡単に載せることができるし、全て倒せば広大な空間が出現する。ただ、後席の座面が高く、たっぷりとしたクッションを使用している関係で、中央に15cmほどの段差ができてしまい、フルフラットにならないのは惜しい。

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    432Lという広いラゲッジルーム

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    後席を全て倒すと広いスペースができるものの、中央には大きな段差ができる

e-POWERとプロパイロットの走りは

搭載するのは、シリーズ式ハイブリッドの電動パワートレイン「e-POWER」。82PS(60kW)/6,000rpm、103Nm/3,600~5,200rpmを発生する1.2リッター3気筒を発電専用エンジンとし、1.5kWhの小型リチウムイオンバッテリーと最高出力129PS(95kW)/4,000~8,992rpm、最大トルク260Nm/500~3,008rpmの走行用モーターで前輪を駆動する。

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    「キックス」のe-POWERは発電用の1.2リッター3気筒エンジンと走行用モーターの組み合わせだ

その走りはというと、低速から豊かなトルクが発生し、しかも静かという“ほぼEV”らしい美点をしっかりと伝えてくる。バッテリーが減ってくるとエンジンが始動して充電を始めるのだが、「その音がしょっちゅう聞こえてくるのでうるさい」といった初代ノートでの評価を反映し、キックスでは遮音を徹底するとともに、車輪の回転数をチェックすることにより、走行音が高まった時を選んでエンジンを始動するという進化した調教が行われているのだ。ちなみに最新のノートでは、左右の車輪の回転差まで検知できるシステムを使って、荒れた路面だと判断するとエンジンを回す制御になっているという。

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    ほぼEVという走りは、静かで軽快で楽しい

走行モードで「S」(スマート)か「ECO」を選べば、加減速をワンペダルで行うことができる。このシステム、初めのころは、アクセルを戻した時にガクンという性急なマイナスGが伝わってきたものだが、キックスではその点は改良されていて、自然な減速フィールが得られる。そのまま完全停止まで持っていけるワンペダルの操作に慣れてしまうと、これはこれでとても使いやすいと思っていたら、最新のノートでは、最後の停止についてはブレーキペダルを踏むというロジックに変更されているそうだ。

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    レバーの先にはスターターボタン、EVモードスイッチ、e-POWERモードスイッチが並ぶ

運転支援のプロパイロットは、最新のものが標準装備となる。高速道路や渋滞時など、全ての車速で作動するシステムだ。ほんの数年前まではカクカクしたような動きを見せることもあったプロパイロットだが、キックスのシステムは車間とともに車線の中央を自然に維持して走ってくれるので、安心して使うことができる。作動状況も大きなモニターでわかりやすく表示してくれるのがいい。

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    プロパイロットの表示は見やすく、とても使いやすい

気になったのは、足回りがちょっと硬い点だ。良路ではスムーズな乗り味を見せるのだが、路面が悪かったり、段差を通過したりすると、乗員に伝わるショックが大きくなる。これは、背の低いノートなどでは感じられなかった特徴だ。同じシャーシをベースに背の高いボディを搭載したことで発生するピッチング(揺れ)を、なるべく押さえ込もうとするためのチューニングを施したことによるのだろう。

乗り出した際に表示された航続距離はDモードで690キロ、ecoモードで790km(ガソリンタンクは41L)だった。燃費はWLTCモードで21.6km/Lを公称。街中を流れに添いつつゆったりと走った際の燃費計は18.1km/Lを表示していたが、加減速を確かめたりしていると15.9km/Lになった。

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    ECOモードを多用して走ると、燃費計は18.1km/Lを表示

日産広報によれば、キックスには「もう少し、売れてほしい」のだそう。直近の販売台数は2020年10月が3,542台、11月が4,292台、12月が3,529台だった。確かに、このジャンルとしてはもう少し増えて欲しいところだろう。やはり、300万円に近い価格しか選べないという点がネックになっているのだろうか。

実際に乗ってみると、海外生産ということで想像しがちなネガな要素は全く見つからなかった。それに、ライバル車でも最上級モデルでオプションを選んでいると、すぐにキックスと同等の価格になってしまうはずだ。e-POWERやプロパイロットという日産自慢の最新システムを手に入れたいという新し物好きのユーザーには、間違いなくアピールできる小型SUVである。

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