「サードウェーブコーヒー」の魅力にどっぷりとはまった筆者。学生時代はコーヒー店で働き、暇を持て余してはいろいろな店舗でコーヒーを飲むことに時間を費やしてきた。飲みすぎて、週3回で腹痛を起こすほど腸は弱いにも関わらずだ。それだけの魅力がコーヒーにはある。

いろいろな店舗で飲んでみると、それぞれの味に特徴があることが分かる。コンビニのコーヒーでも飲み比べてみると、店舗ごとに味が違うことに気がつくだろう。今回はその違いをとことんまで楽しめる「NOZY COFFEE」を訪れてみた。

「Brazil PRIMAVERA(ブラジル プリマベーラ)」

「サードウェーブコーヒー」の文化で、コーヒーは大量消費から生産者とのつながりを重視し、高品質なコーヒー豆が持つ個性を生かす楽しみ方に変化してきた。どんどん高級志向になってきているコーヒーは、さらに豆の品種にもこだわりはじめてきた。「シングルオリジンコーヒー」という言葉を耳にしたことはないだろうか。

「NOZY COFFEE」によると、「シングルオリジンコーヒー」とはコーヒーの生産国、生産地域、生産処理方法が明確で、またそれらが一切ブレンドされていないコーヒーだという。「コーヒーはカフェインを含む眠気覚まし」というイメージはもう古い! コーヒーはもうワインに近い嗜好品になりつつあるのだ。ブレンドで各店の個性を体験するのもいいが、今回はこの「シングルオリジンコーヒー」の魅力を紹介できればと思う。

飲ませてもらった「Brazil PRIMAVERA(ブラジル プリマベーラ)」は、ブラジルの「PRIMAVERA」という農園で取れたもの。飲んでみると、爽やかな酸味をまず感じ、紅茶のような華やかな香りが鼻を通る。その後にじわりとコクが主張してくるが、爽やかさもあってさらっと喉を通っていく印象だ。

提供された豆がどんな豆なのか教えてくれるカードがもらえる

では、この「シングルオリジンコーヒー」はどこで飲めるだろうか。今回は東急電鉄田園都市線「三軒茶屋」駅から徒歩10分のところにある「NOZY COFFEE 三宿店」(東京都世田谷区)に行ってきた。入り口正面にはカウンター席があり、左にある階段を下るとレジとバーカウンターがある。秘密基地みたいでわくわくする造りだった。

「NOZY COFFEE 三宿店」(東京都世田谷区)

入って正面にはカウンター4席とベンチ

階段を下ったところにレジとバーカウンターがある不思議な造りだ

レジ前には「シングルオリジンコーヒー」の豆がずらっと並ぶ。これらのコーヒー豆は、同店のバイヤーが中南米を中心に世界各国のコーヒー農園を渡り歩き、生産者と直接コミュニケーションをした上で入荷したものだ。それを原宿にある別店舗「THE ROASTERY」(東京都渋谷区)で焙煎して、三宿店に届けられている。

豆は常時8種類あり、季節や時期によってその内容は変わる。そのため、感動的な一杯に出会ったとしても、再来店したときにはその豆はなくなってることもあるんだとか。しかし、ここに通っていると「この農園の豆はさっぱりしているから好き」とか、「朝は目を覚ましたい時は●●産がいいよね」という話ができるようになり、モテそう……とよこしまな考えが脳裏をちらついてしまったが、なんにせよ今まであまり気がつかなかった農園まで興味がわいてくることは間違いないだろう。

レジ前に自慢の「シングルオリジンコーヒー」が並んでいる

常時8種類が置かれており、その特色を細かく説明されていた

提供しているメニューは「ESPRESSO」(税込480円)や「AMERICANO(HOT/ICED)」(税込530円~)、「CAFE LATTE(HOT/ICED)」(税込580円~)、「COLD BREW(水出しアイスコーヒー)」(税込600円)など、「シングルオリジンコーヒー」の魅力を堪能できるものばかり。自分の好みやその日の気分に合わせてバリスタがコーヒーを選んで入れてくれる「OMAKASE」(税込650円)というものもある。

今回飲んだ「Brazil PRIMAVERA」も「OMAKASE」を注文し、「酸味がきついコーヒーが苦手」「飲んだ時にしっかりとコクを感じるコーヒーがいい」と回答してすすめられたものだ。基本的には、バリスタの人が「今日の気分」や「味の好み」などを聞いてきてくれるので、「どんなことを言えばいいのか分からない!」と思う人でも大丈夫。

メニューはシンプルで、「シングルオリジンコーヒー」を存分に堪能できる

同店で入れるコーヒーには、「ペーパーフィルターを使わない」というこだわりがある。紙のフィルターだと「シングルオリジンコーヒー」の風味や油分をカットしてしまうからだ。抽出の際は、これら全てのコーヒー豆の持つ魅力を十二分に伝える。自分たちが取り扱うコーヒー豆に自信を持っている証拠だろう。

目の前でバリスタが入れてくれるのは「サードウェーブコーヒー」ならでは

「シングルオリジンコーヒー」の味わいをしっかりと伝えるため、ステンレスフィルターを使用

「シングルオリジンコーヒー」を生産者からバイヤーが買い付け、ロースターが丁寧に焙煎、そしてバリスタがその魅力を欠かさず消費者に届ける。この一連の流れすべてに対しての誇りを持っているのが「NOZY COFFEE」だという。

しかしなぜここまで「シングルオリジンコーヒー」にこだわるのだろうか。NOZY珈琲代表取締役の能城政隆氏にその疑問をぶつけてみた。

NOZY珈琲代表取締役の能城政隆氏

福田: 「取材にご協力いただき、誠にありがとうございます」


能城氏: 「いえいえ」


福田: 「カウンターに並ぶ『シングルオリジンコーヒー』の豊富さにはびっくりしました。どうして同店はこの『シングルオリジンコーヒー』にこだわっているのですか?」


能城氏: 「学生時代からコーヒーを見てきて、『コーヒーの価値ってなんだろう』って考えました。喫茶店やホテルでは、空間に重きを置いているお店が多いですよね。でも僕はコーヒーの良さにもっと着目してほしかったんです」


福田: 「コーヒーの良さって考えると、やはり味や香りですかね。細かいところまでは、意識して飲まないと気がつかないかもしれません」


能城氏: 「『スペシャルティコーヒー』が誕生してクオリティーの高いコーヒーが出回っているのに、それに対する評価が薄い気がする。それは『シングルオリジンコーヒー』の文化が発達してないからではないかという答えに行き着きました」


福田: 「『シングルオリジンコーヒー』という豆を意識する文化が少ない……。しかしコーヒー豆に注目するって、やっぱりマニアとかじゃないと難しいのでは?」


能城氏: 「実はそんなことはないんですよ。焼酎や日本酒を見ても、『冷か熱か』や『芋か麦か』という時代から、銘柄で選ぶ時代に切り替わってきているんですよ。消費者は飲み比べを楽しむようになってきたんです! これは『シングルオリジンコーヒー』に対しても同じで、農園ごとに味の違いを楽しめるようになってきています。生産者にとってもうれしい話ですよね」


福田: 「焼酎や日本酒と一緒で、コーヒーに対する見方も変わってきたということですね。それで同店は、店内よりもコーヒーを重視しているということなのですか?」


能城氏: 「そうですね。お店を開いた2010年当時は『コーヒースタンド』という言葉が出回ってなかったのですが、今までのコーヒー豆屋とは違う新しいスタイルを出そうと考えていました。それが『シングルオリジンコーヒー』を意識して楽しめる店舗ですね」


福田: 「『コーヒースタンド』って聞くと表参道や代官山に集まっているイメージなのですが、どうしてここ三宿に?」


能城氏: 「出店するときに三宿を選んだのは、この地域にはしっかりとコンセプトを持った店が多く、多少エッジがきいていてもしっかりと受け入れてくれるだろうという思ったからです。ちょうど向かいに『シニフィアン・シニフィエ』という有名なパン屋もあるので、食に対するアンテナも敏感だろうと考えられました」


福田: 「なるほど。三宿は食のアンテナが高い地域だったんですね! 知らなかった……。こだわりの話だけでなく、出店の話まで聞かせていただき、ありがとうございました」


今までのカフェやコーヒー豆屋とは違う新しいスタイルが同店の魅力だと語る


同店で教えてもらったことは、「コーヒーは入れ方や飲み方だけでなく、国や生産地域、その風土に合わせた味わいを楽しめる嗜好性を秘めている」ということ。これまでの何気なく飲んでいたコーヒーは一体どこの農園でどんな人が作ったものなのだろう。そんなことに気づかせてくれる店舗だった。