今回のテーマは「炊飯器の作法」だ。私は前にも書いたかもしれないが、365日中、少なくとも300日ぐらいは、昼は「満足1本バー」と「ウイダーinバー プロテイン」、夜はパスタ、という寸分違わず同じものを3~4年食い続けているという、サイコ野郎みたいな食生活をしている。

偏食というわけではない。食べられないものは少ないし、大体の食べものはおいいと思う。しかし、あまりにも人生に楽しみが少なすぎるため、「一番好きなもの以外はもう食わねえ」という方針で生きており、自分で食べるものを選べる時は大体それなのだ。よって、「一番好きなもの」が変わった時は、またそれを300日以上食い続けると思う。

もしかしたら何らかの病(ビョウ)を心に抱えている気がしないでもないが、身体の方は今のところ割と問題がない。そんなわけで、私は家で米を食べることが少ないため、炊飯器はほぼ夫専用機と化している。

私が食に対しての思い入れが若干異常者なのに対し、夫は普通以下である。まず、食べる量が平均以下だと思うし、強いこだわりもない。もらった菓子はもちろん、自分で買った菓子すらすぐには食わず、1カ月以上寝かしていたりするのだ。もしかして、オブジェにするために買ったのかと思うほどである。

食べ始めたとしても、全部食いきらない。スナック菓子を半分ぐらい食べて、輪ゴムで留めているのだ。私はいまだかつて、スナック菓子を途中で食うのをやめて、あまつさえ、それを輪ゴムで縛って保管などということをしたことがない。

食っている途中で、家に戦闘機が突っ込んできたとかでなければ、まず食いきる。仮に突っ込んできたとしても、自分やスナック菓子に直撃でなければ、食いきってから対処を考える。直撃して食べるのを中断したとしても、それを輪ゴムなどで留めることはしない。そのままシケらせるし、シケらせたのを全部食う。

握った拳は収めるな、吐いた唾は飲み込むな、飲むなら乗るな、乗るなら飲むな、菓子は開けたら全部食え。それが「生き様」というものではないか。

しかし、正直言って、食にこだわりが強い男など、夫としては面倒なだけである。むしろ、腐っているもの以外は概ね文句を言わず食ってくれる夫だから何とかなっている、と言っても過言ではない。

そんな夫なので、これと言って好きな食べものがあるようにも見えないが、どうやら米は好きなようである。弁当も、おかずに対して米が明らかに多いし、ゲル状のおかずは、気付いたら米にかけて食っている。よって、炊飯器の米に対しても、邪悪に対するメロスぐらい敏感である。壊れてもないのに、炊飯器を2回自費で買い換えるぐらいだ。

それでも、炊飯器内に米が長いこと存在しているのが許せぬようで、もう炊けた瞬間、保存容器に詰め替えて冷蔵庫保管している。それが果たして、米にとっていいのか分からないが、とにかく炊飯器内で米が温め続け、黄ばんでいくのが1秒たりとも耐えられぬようである。

こちらとしては、米を研いだりするのが面倒なので、少しぐらい多めに炊いておきたいところなのだが、米の鮮度を大切にしたい夫の意向により、大体1日で使いきるぐらいしか炊けないし、少しでも多いと保存容器に詰められている。食うのは夫だし、そもそも私が食べものの腐敗に鈍すぎるような気もするので、それはもう好きにさせているのだが、ひとつ困ったことがある。もはや彼に、「妻が米を食う」という概念がないのだ。

確かに、私はパスタばっかり食っているサイコ野郎だが、人の子である。米も食うのだ。それに、表立った身体の不調はないが、毛が過剰に抜けたり、肌荒れを超えて「剥がれてる」という状態になったり、傷が永遠に治らないという事態に直面すると、「米とおかずを食べた方がいいのだろうか」と思ったりするである。

しかし、そう思い立っても、炊飯器番の夫の計算に私は入っていないのだ。よって、米を食おうと炊飯器を開けても、絶妙に夫の分しかなかったりするし、自分も食うことを念頭に置いて多めに炊いても、気付いたら保存容器や夫の弁当箱にすでに詰められ済みだったりするのだ。

「私だって米を食うんですよ!」と言いたいところだが、そう言えるほど食ってないので、何も言えないのが現状である。よって米を食いたいなら、保存容器に入れられている時はそれを茶碗に移し変えて食うか、弁当箱に入れられている時は諦める。日本人の主食であるはずの米だが、なぜか我が家で食べるには難易度が高い食べものになってしまっている。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。