今回のテーマは「寝坊」である。当コラム、いかに私がだらしない人間かを晒し、どれだけそれを正当化するかがテーマになってしまっているが、実は「家族コラム」である。

確かに私はだらしない。本体も周りも汚い。歩いた後には、脱いだ靴下片方のみが10足ぐらい落ちているし、袖口には常にカラッカラの米粒がついているので、小腹が空いた時にも安心だ。

そして怠け者であり、動くのが嫌いだ。最近では尿意を感じた瞬間、「ここでしてもよいのではないか」と思うし、その思いは年々強くなっているので、もはや発射5秒前である。最近問題になっている「セルフネグレクト」は全く他人事ではない。むしろ予備軍だ。気づいたら身体が半分腐ってたということも十分ありえるし、そうなっても「賞味期限は俺が決める」と放置するに決まっている。

そんな女以前に大人として、人としてどうか、というような状態だが、そこまでだらしなくない部分もある。

まず、締め切りは守る。最近では締め切りが多すぎて、何がいつ締め切りか分からず、知らない内に破っていることが頻発しているため、「締め切りを覚えていれば破らない」というところまで落ちているが、それでも基本的に締め切りは守っている。

もちろん、提出した物は締め切りを守っている以外に褒めるところがない。私の雑な人格の縮図のようなものだが、ひとつでも美点があるだけマシだろう。もし世の中の作家が全員締め切りを守りだしたら、その唯一の褒めどころさえ、当たり前のことになってしまうので、他の作家たちは全員5年ぐらい締め切りを破ってほしい。私の良さが際立つし、編集者という生き物が困るので一石二鳥だ。

つまり、「時間にはそんなにルーズではない」ということだ。待つのも嫌いなので、早く来て待つということはしないが、遅れることはそんなにない。

よって、寝坊もあまりしたことがない。「目が覚めたら家を出る時間の10分前だった」ということはザラにあるが、元々身だしなみレベルが低いので、ハイスピードで着替えて顔を洗って、そこら辺に落ちている液体(歯磨き粉含む)を顔に塗って、ウンコして飛び出せば、大体間に合う。ちなみに、ウンコにかける時間が一番長い。

「起きたら出社どころか曜日を越えてサザエが終わっていた」というような、致命的寝坊はしたことがない。よって、今まで私は朝には強い。目覚ましなしでも起きられる人間だと思っていたのだが、最近そうじゃないような気がしてきた。「常に誰かが先に起きているから起きられるのではないか」と。

実家にいた頃は5人家族で、祖母は早起き、母も仕事に行くので、みなが起き出したらそれにつられて起きていた。今も夫が先に起きているので、それに合わせて起きる。夫の起床はいつでも「圧倒的起床」である。私も遅刻はしないが、それでもギリギリまで寝ていたい派だ。だが、夫は常に出社1時間前には起きているし、それは年々早くなっている。

朝、夫は6時には起きるので私もそれに合わせて起きる。夫が洗濯ものを干し、風呂を掃除し、私は夫の弁当と朝食を作る。二人暮らしなので洗濯ものは2日に1回。量も大したことはない。6時15分頃にはやるべきことが終わる。

そこで私が何をするかというと、「二度寝」だ。そもそも出社が7時半ぐらいなので、そこまで早く起きる必要がないのだ。そしてそのまま、「気づいたら出社10分前だった」に続く。

夫の出社はそれより早いが、その間、何をしているかというと、新聞を読んだり、余裕がある時は床などを掃除していたり、私の元にクソほど送られてくる雑誌類を分別したりと、「スタイリッシュ起床アクション」をしている。もはや人間性が根本的に違うのだ。

私も夫もいい加減仕事ばかりしているが、私はあくまで私の仕事で忙しいだけだ。よって、仕事がない時は、虚空を見つめるか延々ソシャゲで単純作業をしているかだ。「時間があるから床を掃除する」という発想がない。

だが夫は、たまの休みになると、更に床を掃除したり、布団を干したり、毛布を洗いに出かけたりするのである。「毛布を洗いに行く」と言う発想、ない。カーテンと同じぐらい、一度入手したら、半永久的に洗うことなく使い続けるものだと思っていた。

寝坊しないのもそうだが、私が辛うじて人間の生活ができているのだ夫のおかげだと思う。むしろ、私が落とした靴下を夫が拾うから、私は更に靴下を落とすようになったのだ。恐らく、一人暮らしになったら永遠に起きなくなるだろう。

そんな非常にきちんとした夫なのであるが、最近「あなたの部屋の掃除はあきらめた」と告げられた。勝った。几帳面への勝利である。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。