漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

→これまでのお話はこちら


今回のテーマは「自由研究」である。

夏の風物詩の中でよくもこれだけ私に無関係なものを選んだな、という感じがする。自由研究といえば、小中学生の夏休みの宿題であり、関係あるのはその親である。

むしろ完全に投げてやらないまま9月1日を迎えるという、エクストリームノーガード登校をキメようとしている我が子の保護管理責任を問われることを恐れた親が替え玉作成するという意味では親の方が関係あるかもしれない。

そして「これ親が作っただろう」という魔女狩りが行われるまでが自由研究である。

クラスに1人ぐらい異常に張り切っている奴もいるが、私は毎年怒られを回避するためだけに、やる気と独創性皆無の低クオリティ自由研究を提出していたので、この頃からクリエイターには向いていなかったようだ。

そういう意味ではエクストリームノーガード登校をしようとする子どもは何らかの才能があるような気がするので、下手にその芽を摘まず、登校させてやってほしい。少なくとも「怒られ耐性」だけはレベルアップして帰ってくるし、実は三角関数よりもこっちの方が社会では役に立ったりする。

しかし、今はインターネットというものがある。

おそらく1日でやれる自由研究ぐらいいくらでも見つかるだろう。

そう思って調べてみたところ「1日でできる自由研究」というそのまんまなページが見つかったので、やはり今の子どもは恵まれている。

多くの子どもがこれを参考にすることが目に見えているため、被りが発生するという危惧があるかもしれないが、ネットがない私の時代でも平気でテーマが5、6人被っていたので臆することはない。

むしろ被っていた方が埋没するため親チートがバレにくい。

ちなみに「人気の自由研究ランキング」なるものも見つけた。

一体何を基準に人気なのか謎だが、そのランキングによると1位は「温まりやすい色と冷めやすい色」だそうだ。

鉄板といえば鉄板の自由研究だが、令和の自由研究としては地味なのではないか。もっと3Dプリンタで自分のディルトを作るなどして、いろんな意味で伸び代を見せつけてほしい。

では温まりやすい色と冷めやすい色の自由研究がどんなものかというと、保冷剤をさまざまな色の布で包み、外に放置、時間経過ごとに温度を測り、温まりやすい色とそうじゃない色を調べるという研究である。

なぜこの研究が人気かというと、温まりやすい色と冷めやすい色がわかることにより、服装の色で体温調整を行い、冷暖房器具使用を控え自然環境に配慮することができる、つまりSDGsについて考えることにつながっているということらしい。

つまり「人気の自由研究」というのは、大人ウケ、もっと端的にいうと「国ウケ」が良い自由研究ということである。

他にも結論を「自然環境について考えることができた」にもって行ける自由研究は人気のようだ。

だが残念ながら今年はこの猛暑である。結論は「何色の服を着ようが今年は冷房を使わないと死ぬ」だ。

小中学生の身空で、ネットで大人ウケのいい自由研究を調べてソツなくこなして提出するとは情けない、と言いたいところだが、おそらく社会に出てからもソツなくこなせるのはこのタイプである。

それに対しディルトタイプは大化けの可能性もあるが、ドストレートに穀潰しになる可能性も高いギャンブル要素の強い存在だ。

ともかく今の学校教育はSDGsと言っておけばニッコリということだけはわかった。

あと現在の自由研究の特徴は「ばえてる」という点である。

宝石石鹸やバスボムを作ったりと、とにかくカラフルで見栄えが良いものが多い。子どもが"ばえる"ものを作ってもそれを嬉々としてTwitterにあげるのは親だろうと思うが、確かに見栄えが良い方が子どもがワクワクしてやる気になるし、提出する時もちゃんとやってる感がある。

逆に見栄えが悪いと、どれだけ手が込んだ研究だとしても、真面目にやったように見えないのである。

自由研究ランキングに「牛乳でプラスチックを作ろう」というのが入っていた。

牛乳がプラスチックになるなんていかにも子どもがワクワクしそうな話だ。ちょっと体の弱い子どもなら興奮のあまり熱を出してもおかしくない。

この自由研究は私が小学生の頃もあり、字面にワクワクした私は迷わずその研究を選んで行った。

その結果大量の股間から発生するカスのようなものができた。

一見大失敗、もしくは大成功のように見えるが、これで正しいのである。

自分の知っているプラスチックとは随分違うが、理屈的にはこのカスが牛乳からできたプラスチックなのだ。

実験的には成功でも、とにかく見栄えが悪い。これを提出したらワンチャン怒られるまである、そう考えた自分はそれを廃棄し、他の記憶にも残らない研究に変更した。

この"ばえ"とは対極の研究が令和に残っていることに驚いたが、おそらく私が子どもの頃とは違う作り方なのだろう。

そう思ったが、作り方も大量の股間カスができるところまで一緒であった。

しかし、それを最後クッキー型で固めて、星形やハート型にするのである。

ただ、それだけの違いなのだが、それで「やっている感」が出ているのだ。

もし、今年自由研究に関わる人がいたらチョイスの段階で見栄えが良いものを選んでほしい。