漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「一番好きなパスタ」である。
これは「ペペロソチーノ」の一言で終わっていい、というボーナステーマという理解で良いのだろうか。
奇しくも世間はボーナスシーズンである。
当然我々無職にそのようなものはないし、会社員どもがもらうボーナスに比べれば、二行で原稿料をもらうぐらいカワイイものである。
相変わらずパスタは週5、ないし6のペースで食べている。
ただ「今日は息したぜ」とイチイチ言わないように、当たり前のこと過ぎてわざわざ言わないだけだ。
しかしペペロソチーノが一番好きだが、家では滅多に食べない。ちなみに昨日はミートソースを食べた。
ちなみに一昨日もミートソースだったし、その前もミートソースで、先週も週5でミートソースだった。
これは「オレ、パスタマイニチクウ、デモオレ、ガイシュツ、キライ」という私の意見を汲んだ結果、ミートソースの5個パックを通販で買う、に落ち着いたからだ。
最初はいろんな味が入ったセットを買っていたのだがコスパ的にミートソースのみが最強、という結論に至ったためこうなった。
ちなみに、昼間は栄養が入った粉を牛乳とココアで割ったものを週7で飲んでいる。
この話をすると私が全く食べることに興味がなく、考えるのも作るのも面倒だから思考停止で同じものを食っているように思われるが、逆である。
手間で言えば、夫用に普通の夕食を作り、さらに自分のパスタを作っているので文字通り二度手間なのだ。
逆に食に対して並々ならぬこだわりがあるからこうなっているつもりなのだが、傍から見ると食事がだるくて仕方ない人に見えるというのが不思議である。
何故ペペロソチーノが一番好きなのに食べないのかというと単純に臭いからだ。
一時期週5でぺぺっていた時期があったのだが、夫から「臭い」という率直なご意見をいただいたので現在は控えている。
私はパスタを二畳程度の密室で食べる上、窓を開けないため部屋はもちろん私自身もペペロソの擬人化みたいな臭いを発していたと思われる。
指摘される前に気づくだろう、と思うかもしれないが、カメムシでさえ自分の臭さで死ぬ程度の繊細さがあるのに対し、人間というのは自分がどれだけバッドスメルを放っていても割と気づかないものなのだ。
しかし「自分の悪臭は平気」という設計にしておかないと、ウンコしながら死ぬことになるためこれは仕方がないとも言える。
しかし、神も「自分の悪臭は平気」というトリッキーな機能をつけるのではなく「ウンコが臭くない」という設計にした方がいろんな人が助かったのではないかと思う。
臭くないように部屋をペペロソ耐性にするなど工夫はできたかもしれないが、当然そこまでマメではないため、だったら最初からあまり臭くないパスタを食おうという結論に落ち着いた。
ミートソースの良いところは、そんなに臭くない、普通に美味い、そして量が多いという点だ。
市販のパスタソースはその名の通り、液状のソースが入っているのだが、正直同じ価格帯でもこのパスタ汁の量がかなり違うのだ。
ちなみにパスタソースは税別150円台ぐらいのものがベストだと思っている。
それ以下になるとパスタ汁ではなくパスタ粉を使っていたりして、味も食感もあまり宜しくなくなってくる。
コスパは大事だが安さだけを追い求めていたらむしろQOLを下げることになってしまう。
市販のペペロソチーノソースを買った人ならわかると思うが、ぺぺ液というのはかなり量が少ない。
私は1食で1.5人前ぐらいのパスタをゆでるため、どうしても市販のぺぺ液では足りなくなりがちなのである。
そうなると、パスタに「無味」の部分が出て来てしまったりするのだ。
味のないパスタというのは冷凍食パンに匹敵する虚無なため、せっかくの1日の楽しみが台無しになりかねない。
かと言って1食に二人前のぺぺ液は石油王が過ぎる、オイルだけに。
その点、ミートソース汁の量は頼もしい。増税とかのどさくさで明らかに目減りはしているもののそれでも多い。
また味が濃いため、どれだけ麺に対してミート軍の方が劣勢であっても一生懸命混ぜれば全体がミート味になり、虚無部分が発生しづらいし、パスタソースの中でも値段が安く、さらに手堅く美味い。
よって平素は連日ミートソースを食い、たまに良いことがあった、夫が留守、もうペペロソを食わなければやっていられない、という時だけペペロソを食べるようにしている。
このように人生の数少ない楽しみである食事を少しでも有意義にするために色々と考え手間もかけているのだが、傍から見るとただ生命維持のために食事ではなくエサをかっ込んでいる人に見える、というのが不思議である。