漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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出来れば鬼滅の刃になりたい。

せめてジャンプで描いてさえいれば、親戚の集まりで「漫画家」と名乗ることもやぶさかではない。

ちなみに現在は「今何をやっているの?」と聞かれたら「何もやっていない」もしくは「あなたは私が何をやっていると思いますか?」と、吉良吉影ブチ切れムーブ改め、フォレスト会長仕草でやりすごしている。

しかし、誘われてないランチを先に断るようで恐縮だが、ジャンプなどの少年誌でストーリー漫画を連載するというのはかなりリスクが高い。

漫画もデジタル化で大分作業が早くなってきてはいるが、週刊誌でストーリー漫画を連載するというのは、1人では無理だし、他に連載をかけもちする、というのも多分難しい。

つまり、時間とコストをかけて「これ一本に賭ける」ことになってしまう。

それ故に当たればデカいのだが、昔はジャンプで連載し、原稿料はアシスタント代でマイナス、単行本が売れず打ち切りで、借金だけが残るというケースも珍しくなかったそうだ。

今でも借金とまでもいかなくても、時間と健康を犠牲にして「何の成果も得られませんでした!」ということは良くあるし、何よりそういうことはメンタルに悪い。

よって私のように、オリジナル漫画だけではなく「この商品を不自然に絶賛しろ」と言われたらPR漫画も描き、漫画家だが文章を書けと言われれば書き「この映画にイチャモンをつけてください」と言われれば「デビルマンの方がクソです」とコメントするなど、小さい仕事でも数をこなして食つなぐ、薄利多売な作家もいる。

このように漫画家としての生計の立て方も多様化してきている。

誰しもアベンジャーズのように「対象読者: 世界」みたいな巨大すぎる方針で万人に受ける世界的大ヒットを狙いたいとは思う。

しかしそれは誰にでも出来ることではないし、資本も必要になってくる。

それよりも「サノスを性的な目で見ずにいられない人へ贈る」という、支持者は少ないが「デシメーションの後、辺境の惑星でひっそりと暮らすサノスの元へ現れた黒塗りの高級車、そこから現れたマイティソーが出した示談の条件とは…」みたいな話を考えるのが得意な人が、そういうスピンオフを見られるならいくらでも積む、という精鋭を相手に商売をするというやり方も最近はありになってきている。

昔で言うところのカルト作家だが、こういう「一部に熱狂的なファンがいる」という作家は、雑誌アンケートの結果も悪いし、どれだけ熱狂的でも本を万単位で買ってくれる「熱狂」というより狂でしかない行動をとるファンは少ないため、連載が終わりやすく本も売れず、結局活動が続けにくいところがある。

だが最近は、そういう作家が、出版社を通さず熱狂的ファンから直接集金できるようになりつつある。

「ピクシブファンボックス」のように作家が、ファンから会費のようなものをもらい、会費を払ってくれたファンのために作品を公開するという形も増えてきているのだ。

商業単行本で300部しか売れないというのは「事件」であり、確実に連載が終わるが、このやり方であれば、1,000円の会費で300人の読者を確保することで、単純に月収30万円となり、下手な商業誌で描くより儲かる場合もあるし、何より「打ち切り」がないため、安定感もある。

読者としても、出版社に中抜きされることなく、応援したい作家の胸の谷間、もしくはケツの割れ目に直接札びらをねじ込むことができるのだ。

もちろん、それが簡単というわけではなく、数は少なくても「金を出す読者」を獲得する必要はある。

これと同じようなシステムが「クラウドファンディング」だ。

実は今回のテーマはこの「クラウドファンディング」である。

この「クラウドファンディング」とは「打ち切りになった漫画を完結まで描きたいです」など目的を掲げ、目的達成のために出資者を募る方法である。

そして目的が達成されたら、出資者に対し出資額に応じ「作成した本を贈呈」「サイン色紙プレゼント」「5分間殴って良い」などの「リターン」を返すことになる。

本当にその作品を完結させたいという強い意志があるなら、他人から金をせびらずタダでも描けよ、と思うかもしれないが、漫画を描くというのは、意外と体力がいる行為なため、「ご飯を食べずに描く」というのは、ちょっと難しいところがあるのだ。

それ以前に、ご飯を食べないと「生きる」のも割と難しいところがある。

打ち切りになった漫画を商業で再開というのはよほどでなければ難しいが、クラウドファンディングでは「ソーが出した示談の条件を知ることが出来るなら金は惜しまない」という人間が一定数いれば、製作可能となる。

好きな漫画がいつも打ち切りになるというデス読者にとっては嬉しいのではないだろうか。

しかし、クラウドファンディングというのは、決して本人がやりたがっているわけではない場合もあるということは覚えておいてほしい。

クラウドファンディングの会社が、集金力のある人間に「うちでクラウドファンディングをしませんか」と持ち掛ける場合もあるのだ。

つまりクラウドファンディング会社が手数料目的でやらせるクラウドファンディングもあるということだ。

もちろんそれでも、推しへのプラスにはなるのだが、推しがどうしてもやりたいという企画というわけではない。

推しが、特に必然性もなく、グッズを作りたいと言い出したらその可能性もある、ということは一応覚えておこう。