漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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本日、タイムリーにも仕事に行った夫から「今日9時から、町内会役員の引き継ぎがあるのを忘れていた、急ぎ行ってくれ」との報があった。

時計の針は9時15分を指している。

「俺がすぐに動ける無職じゃなかったら即死だった案件」である。今後、夫は私が無職であることにもっと感謝してほしい。

しかし15分遅れている時点で、複雑骨折ぐらいはしてしまっている。この地域にまともに住む気があったら絶対忘れないと思うのだが、夫に社会性があるのかないのかはっきりしない。

つまり来年度の町内会役員になってしまったということである。

当然だが立候補したわけではない。当団地の平均年齢はまだ若いため、町内会役員ぐらいしかやることがねえというような老は存在しない、よって鬼の輪番制が暗黙の了解となっている。

さらにその中でも、生活衛生役員になってしまった。生活衛生とは、簡単に言えばゴミ野郎である。

地域の清掃やごみ回収などを担当する役員だ。ゴミと言えば、騒音と並んでご近所ぶっちぎりバトルの火種になりやすい問題だ。

さらに、どの役員よりも仕事が多いように見える。役員をするのは仕方ないとしても、これだけは、回避スキルEXで避けたいところだ。

それが何故なってしまったかというと、今思えば後悔しかない。

まず、役員が足りないので、副区長、書記、集会所管理、そして生活衛生のどれかに立候補しろというお達しがきた。それを第4希望までつまり全部書いて出せ、ということである。

仕事内容を精査した結果、生活衛生がダントツに面倒くさいことは明らかであったが、一応夫に、希望順を聞いたところ、なんと生活衛生を2番目に入れて来た。

第4希望が副区長なので、おそらく字面だけで副区長が一番大変と思ったのだろう。

ここで「てめー、ちゃんと仕事内容読んだか?」と言えば良かった。しかし、私も希望などあってないようなもので、結局、じゃんけんかあみだくじ、支給された武器でのバトルロワイヤルになると思い、そのまま書いて出してしまった。

この時の自分と夫を和雄のサブマシンガンで撃ち殺したい。

そして、役員を決める当日、そこに集まった者は全て、生活衛生役員に回避スキルEXを発動させていた。

誰もが希望の最下位、もはや希望にすら入れていない者もいた。入れなくていいなんて知らなかった。

そうなると必然的に「じゃあ第2希望にしているカレー沢さんに」となるのは必然である。

そこでも夫が「いっすよ」などと言うので、私は船場吉兆の女将となり「どう考えても一番面倒くさいやんけ!」と、全員に聞こえるボリュームでささやいた後「ふ、副区長やりたいです!」と言ったが、時すでに遅し。

ちなみに、夫はそこで初めて生活衛生が一番面倒くせえと気づいたようである。この地域で五体満足、村八分にならずに暮らす気があるなら、役員の仕事内容ぐらい熟読すると思うのだが、この無頼さは一体何なのか。

そもそも誰も希望していない中、第2希望に書いてしまっている時点でダメである。それ以上食い下がることも出来ず、満場一致で生活衛生役員になってしまった。

第2希望に書いてさえいなければ、せめてバトルロワイヤルまでは持ち込めたかもしれないのに、後悔しかない。

しかし、そうであったとしても、生活衛生役員になってしまった可能性は高い。支給された武器がヌンチャクだったからというわけではない。その場に集まった者の半分が小さな子連れであったのだ。

この団地は、所謂働き盛り世代が多く、小さな子持ち家庭が大半である。共働きや小さな子持ちであることが、役員回避の理由になることはない。

しかし、そうであっても、私ほど「役員無理です」という理由がない者はいない。何故か暇ではないが、無職なのでずっと家にいるし、平日昼間でも動ける。

おそらく団地一役員を断る理由がないのがこの俺様である。武器がフォークどころか完全に丸腰だ。よって結局一番面倒な役員が、当方に回って来た可能性は非常に高い。

役員決定の帰り道、夫に「事務作業とかはやるが、もめ事は全部てめえに任す」と告げた。

私よりよほどちゃんとしているように見える夫だが、ある部分では全くちゃんとしていないし、何より「説明をちゃんと読まない、もしくは理解せずに決める」という致命的な悪癖があると分かったことが収穫である。