漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「英会話」である。

私が住んでいるのは僻地なので、未だに外国人はSSR級のレアである。ちなみに日本人の若者と子どもがSR、老はR、鳥獣がNだ。

しかし、東京に行くと本当に外国人が多いと思うし、もはやコンビニの店員などは日本人な方がレアになりつつある。

おそらく都会の人は田舎より英語がわからなくて困るシーンが多く、それはこれからもっと増えるだろう。今後、英語能力、もしくは超高性能ボディランゲージが不可欠となってくる。

ボディランゲージのほうが汎用性がありそうだが、こちらは「ありがとう」のつもりでも、国によっては「不悪口YOU」という意味かもしれないし、凄まじい下ネタな可能性もある、やはり「英語」を覚えるのが一番無難だろう。

むしろ、これからは英語が喋れねえと話にならねえ、と学校も語学に力を入れているようだし、赤子のころから英語に触れさせる親も増えているという。

では我々、学生時に英語を学べなかった中年は、ジェスチャーを蟷螂拳か、というぐらいキレキレにしてグローバル社会に挑むしかないのか。

そっちのほうが、屈強な外国人とケンカになっても互角にやりあえるので、ある意味一石二鳥な気もする。

たしかに「暴力」ほど全世界共通の言語はない。だがそれは万国共通の悪いコミュニケーション方法である、国際問題に発展しかねない、言葉を覚えるほうが安全だ。

英語を覚えるとしたらまず「英会話教室」だろう、正直、英会話教室に通おうかと思ったことはある。

お前が英語を覚えてどうするのか、と思われそうだが、何せ日本の外国人人口は増えるばかりだ、今後我が村でも、外国人の数が鳥獣を越えてくる、という可能性もなくはない。

よって、こちらに話すつもりが一切なく、極力目が合わないように虚空を見つめていても、英語で話しかけられてしまうことがあるかもしれないのだ。

今後英語ができて損はなく、今、習い事をするなら英会話が一番有益、その次が蟷螂拳である。

何せ無職なので、時間もある、やるなら今しかないだろう。

そんなワケで、最寄りの英会話教室を調べたことも、何度かある。

その時点で私は、ある重要なことに気付く。「無職というのは、時間はあるが金はない」のだ。

英会話教室というのはけっこう金がかかる。某有名英会話教室は週2回の1年コースで30万程度だ。

たしかに、今まであまたの金を「自分」という名のドブに投資してきた私だが、30万はデカい。

それに、「払った分まで頑張って勉強しよう」という気になるか、というとそうでもない。

むしろ、人はドブに捨てた金額がデカければデカいほど、捨てた時点で「勝ち確」だと思ってしまいがちなのだ。

高いダイエット商品を買った時点で「これは痩せた」と思ってしまうように、英会話も授業料を支払った時点で「やりきった感」が出てしまい、あとは通うだけで英語が喋れるようになると思って「努力しない」可能性が高い、

それどころか、通うかどうかさえ不明である、ジムに1年くらい会費を寄付し続けた経歴があるので、たとえ30万でも行かない可能性は大いにある。

また、英会話と言うからには、授業内容は「会話」なはずである。

「アメリカ人講師とのマンツーマンレッスン」という文言を見た時点で「怖っ無理! 」と思うし「5,6人でのグループレッスン」と書かれていても「殺す気か」と思う。

アメリカ人講師は日本語が喋れるし、グループレッスンは日本人ばかりだ、とかそういう問題ではない。

ここで私は、何語だろうが「会話が怖い」ということに気付く。

私は日本人と日本語で喋る時でさえ「怖い」から、ろくに話せないのである。

つまり英語を覚えても、会話などできない可能性が高い。

それに、まず英会話教室の受付に「英語を習いたいのですが」という己の意志を伝える、高度なコミュニケーションが必要となる。

これは先に「受付に英語が習いたいと伝える教室」に通わないといけない。

手続きは全てメールでどうにかならないのかと思うのだが、そこまで会話を避けたい奴が英「会話」教室に通おうというのもナゾであるし、上達などするわけがない。

よって、グローバル社会もいつもどおり「部屋から出ない」で乗り切ろうと思う。

外国人が鳥獣の数を超え、空一面に外国人が飛び交うようになっても部屋から出なければ無関係だ。

むしろ、自分が英語を習うより「部屋から出なければ万難を避けられる」というライフハックを全世界に逆輸入したいとさえ思う。

実際「ひきこもり」が社会現象にまでなっているのは日本だけで、諸外国にはそこまでいないらしい、実に遅れている。

hikikomori代表として、ひきこもり後進国を導いていきたい。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。