漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「熱中症」である。

前から思っていたのだが、このような病気テーマは、なったことがあるなら大変だし、なったことがないなら「書くことがない」というデッドオアデッドだ。

幸い熱中症にはなったことがないので今回は「デッド」だ。

日本の夏の暑さが命に関わるようになって久しいが、何が命を刈り取っていくかというとまず思いつくのは「熱中症」だろう。

私が子どもの頃というのは、まだ遣唐使をやっていた時代なので「熱中症」という言葉すらなく、当時は「日射病」と言っていた気がする。

「熱中症」「日射病」また「熱射病」それぞれ意味や症状は違うようだが「悪そうなヤツは大体友達」の感覚で、どれも夏にかかりやすく、総じて「悪い」ことは確かである。

では現在センターを張っている「熱中症」とは何なのか、意外とみんな知らないまま、バカの一つ覚えのように、夏場に外出する人間へ「熱中症に気を付けなさい」と言っていないだろうか。

そんなの「落石に気を付けろ」と言っているようなもので、どう気を付けていいのかわからない。

そもそも熱中症は必ずしも屋外で起こるわけではないらしい、事件とは違い、現場でも起こるし会議室でも起こるのだ。

それどころか、熱中症での救急搬送率は住居内などが約37%で、道路などが27%というデータもあるらしく、むしろ会議室のほうでレインボーブリッジは閉鎖されがちなのである。

よって今回は、無職の引きこもりだから関係ありません、という自慢話ができず残念だ。

つまり熱中症は、日光に当たっているかどうかは関係なく、温度と湿度が高ければ起こり得るのである。

高い温度や湿度により、体温が上昇し体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温の調節ができなくなり、めまいやけいれん、頭痛を引き起こすのが「熱中症」だそうだ。

では、熱中症を予防するにはどうしたらいいかというと、空調の効いた部屋にいるのが一番である。

つまり「部屋にクーラーがある無職の引きこもり」は今回も大勝利というわけだ。

どうしても外に出なければいけない場合は、できるだけ日陰を歩き、帽子や日傘を装備することが推奨される。

服装は一見全裸がベストのように思えるが、法律の観点からも着衣はしたほうが良く、さらにインナーを着たほうが熱気を遮断してくれるそうだ。

また通気性を良くするためにも、袖や襟は開いているものが良いそうだ、乳首あたりに穴をあけておくのもお勧めだ、カッコイイ日焼けもできて一石二鳥である。

こまめな水分補給も重要で、水分と一緒にミネラルを摂るのも効果的なのでスポドリがベストのように思えるが、糖分の摂りすぎになる恐れがあるので、麦茶が最強だという。

熱中症がメジャーになってから、この季節になると塩分を補給するための「塩飴」などが良く売られているが、あれはもちろん汗をかいて塩分が体外に出やすい人用である。

クーラーの効いた部屋にいる引きこもりが塩飴をガンガンに食うと逆に体に悪い、デブがダイエット食品を食い過ぎてデブるのと同じ過ちだ。

では、立ちくらみや大量の発汗など、熱中症の症状が現れたらどうしたらよいかというと、まず涼しい場所への移動が先決だ。その後、服を脱ぐ。

つまり、熱中症で具合が悪くなった人がいたら、『ゴールデンカムイ』のラッコ鍋回の尾形にしたように「胸元を開けて楽にしたほうが良い! 」「下も脱がせろ! 」「いやっ全部だ! 全部脱がせろっ! 」とするのが正しい対処だ。

しかし、ラッコ鍋の場合、次にするのは「相撲」だが、熱中症で相撲はしてはいけない。

水をかけたり、首やわきの下、太ももの付け根を冷やしたりするのが良いらしい。

ちなみに「太ももの付け根」は股間をぼかして言っているわけではなく、本当に太ももの付け根だ、股間を冷やしても、そこまで意味はないと思う。

また水分と塩分を摂取させるのも大切だが、意識障害を起こしている時に水を飲ませたり、まして塩飴なんかを食わせたりすると別の原因で死ぬ可能性があるので、口から水分や塩分を摂らせるのは避けたほうが良いそうだ。

口がダメなら、尻以外の選択肢はないではないか、と思うかもしれないが、病院に行けば点滴で打ってもらえるので、ヤバいと思ったら、ケツに塩水を入れる前に病院に行ったほうが良い。

ともかく命に関わる病気なので、気を付けるに越したことはない。私も熱中症対策のため、今年も部屋から出ないつもりだ。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。