フランスのシトロエンが新型「C4」と電気自動車(EV)の「e-C4」をオンラインで発表した。いつも個性的なデザインで私たちを驚かせるフレンチブランドは今回、どんな一手を打ってきたのか。公開された動画や写真、資料から解き明かしていこう。

  • シトロエンの新型「C4」と「e-C4」

    シトロエンの新型「C4」(左)と電気自動車(EV)バージョンの「e-C4」

シトロエンの中核であり続けてきた「C4」

シトロエンが最初に「C4」という車種を登場させたのは、なんと今から90年以上前の1928年であった。1.6リッター直列4気筒エンジンを積んだ小型車で、2.4リッター直列6気筒の「C6」とともにラインアップを構成していた。ただしその後、「C」と数字を組み合わせた車名はしばらく使われなくなり、次にC4が登場したのは2004年だった。このC4は翌年、日本でも発売されている。

  • シトロエンの2代目「C4」

    2004年に登場した2代目「C4」

2004年登場のC4は、優しい丸みを持ったフロントまわりやキャビン、スケルトン構造のデジタル式センターメーターなど、シトロエンらしいエッセンスが随所に散りばめられており、5ドアハッチバックのほかに3ドアクーペもあった。日本では1.6リッター、2リッター、1.6リッターターボの4気筒ガソリンエンジンを積んでいた。

6年後にモデルチェンジを実施したC4はやや直線基調のデザインとなり、インテリアもオーソドックスになった。この世代では、途中から1.2リッター3気筒ターボや1.6リッター4気筒ディーゼルターボエンジンが追加となり、シトロエン伝統の快適性に高次元の経済性を融合した車種として注目された。

  • シトロエンの3代目「C4」

    2010年発表の3代目「C4」

さらにC4には、「ピカソ」「スペースツアラー」「カクタス」という派生車種もある。

2007年に日本で発売となったC4ピカソは、3列シートを持つミニバンでありながら、日本製のミニバンとはまるで異なる個性的なスタイリングやインテリア、快適なシートやサスペンションなどで人気を博した。一時は日本で販売されるシトロエンのベストセラーになったほどだ。

  • シトロエンの「C4ピカソ」

    初代「C4ピカソ」

2014年のモデルチェンジでは、欧州で以前から販売の主流になっていた2列シート5人乗りが加わり、3列シートは「グランドC4ピカソ」という名称に。エンジンは1.6リッターのガソリンターボに2リッターのディーゼルターボも加わった。その後は3列シートのみに戻るとともに車名が変わり、「グランドC4 スペースツアラー」として現在も販売中だ。

C4カクタスは2016年に日本で発売。世界的に流行の兆しを見せていたクロスオーバースタイルに、シトロエンの新たなマニフェストと称された独創的なデザインを盛り込み注目を集めた。中でもボディサイドに装着された「エアバンプ」と呼ばれる衝撃吸収のパネルが印象的だった。走りの面では徹底的な軽量設計が功を奏しており、1.2リッター3気筒エンジンでも不満のない仕上がりとなっていた。

  • シトロエンの「C4カクタス」

    ボディサイドの「エアバンプ」が特徴的な「C4カクタス」

半世紀前に生まれた名車の雰囲気を取り込む

筆者はC4ハッチバックとC4カクタスの2台を所有したことがある。いずれもデザインが気に入り購入したものだが、癒される乗り味にも魅了された。ということで、今回の新型C4の発表は、個人的にもかなり興味を持っていた。

6月30日に発表された新型は、ガソリン/ディーゼルエンジンを積む「C4」と、電気自動車(EV)の「e-C4 - 100%エレクトリック」(「e」はeにウムラウト、以下「e-C4」)の2本立てになったことがまず新しい。シトロエンとしては3月に発表した2人乗り超小型モビリティ「アミ」に続くフル電動車だ。

  • シトロエンの「e-C4」

    「e-C4」はシトロエンにとって今年2車種目のフルEVだ

ちなみに、アミの名前は今回の発表会で何度も登場した。この小さなEVが自分たちの未来を象徴するイノベーションであることをシトロエンはアピールしたいようだ。

つまり、新型C4の最大のアピールポイントは電動化ということになりそうだが、筆者はデザインにも注目した。シトロエン自身、自分たちのスタイリングが新たなフェーズに入ったことを提示しているとアナウンスしているからだ。

まず目に付くのは、これまでのC4より車高がやや高く、C4カクタスに近いクロスオーバー風のスタイルになっていることだ。前後のフェンダーまわりの張り出しもシトロエンとしてはダイナミックで、力強さが強調されている。

  • シトロエンの「C4」

    これまでに比べ車高が高く、クロスオーバー風のスタイルになった新型「C4」

SUV/クロスオーバーの人気は一時のブームではなく、定着しつつあると思っている。シトロエンの「C3エアクロスSUV」と「C5エアクロスSUV」も成功を収めている。多くの人がSUVやクロスオーバーに触れ、少し背の高いクルマの使いやすさを知ったのだろう。

今回の発表会でもシトロエンは、新型C4/e-C4をこのような車高にした理由として、乗り降りしやすいシート高や運転しやすい目線の高さを上げており、オフロードに挑むためではないことを付け加えていた。

一方で、真横から見た時のシルエットは、最近ではセダンで採用が相次いでいる「ファストバック」となっているが、これはトレンドに合わせたというより、伝統を継承しているのだと思っている。ちょうど50年前の1970年、同じクラスに向けて送り出された「GS」や、4年後にあの「DS」の後継車として誕生した「CX」を彷彿とさせるからだ。

  • シトロエン「GS」
  • シトロエン「CX」
  • 左が「GS」、右が「CX」

パッセンジャー向けの新たな仕掛けとは

とりわけ伝統を明確に感じさせるのは、フロントのオーバーハングがリアのそれより明らかに長いことだ。これはGSやCXのみならず、「BX」や「C6」など、多くのシトロエンが採用してきたプロポーションである。筆者はこれを見た瞬間に、紛れもないシトロエンだと確信した。

シトロエン自身、このクラスに大胆なデザインと技術の車種を送り出してきた例としてGSの名前を挙げているし、説明の中でもデザイナーがGSやCXに言及しているので間違いない。言い換えれば、シトロエンは半世紀も前からファストバックを取り入れていたというわけだ。

  • シトロエンの新型「C4」

    ファストバックスタイルを採用した新型「C4」

顔つきを見ると、ブランドのロゴマークであるダブルシェブロンの両端を左右まで伸ばし、ヘッドランプにつなげる処理などは、C4が最近のシトロエンの延長線上にあるクルマだと感じさせる。左右の端をV字に開き、上下それぞれのランプユニットと結びつけたのは新しい処理だ。さすがだと思ったのは同じV字型をリアコンビランプにも取り入れていることで、前後のモチーフを共通としたことで前後の統一感が生まれている。

インテリアデザインは、運転席前とヘッドアップ、そしてセンターに合計3枚のディスプレイを置いたインパネをはじめ、エクステリアに比べると主張は控えめだ。しかし、その中でも目を引く部分はいくつかある。

ひとつはインパネ助手席側に内蔵したトレイを引き出して、タブレット端末を固定できるようにしてあることだ。手持ちに比べればはるかに見やすいし、安全性も高い。ドライバーだけでなくパッセンジャーにも移動の喜びを提供しようと考えた、シトロエンらしいアプローチだ。

もうひとつは、高めのセンターコンソールにセレクターレバーがないこと。このスタイルは他のブランドの電動化車両の一部が取り入れているが、C4カクタスもセレクターをボタンとパドルで置き換えていた。それをさらに進化させたものだ。EVにはトランスミッションがないし、エンジン車もマニュアルトランスミッションでなければセレクターがレバーである必要はない。フランスらしい合理的な判断だ。

  • シトロエンの新型「C4」

    フランスの合理主義が感じられる新型「C4」のインテリア

快適性については、すでにC5エアクロスSUVで導入しているアドバンストコンフォートシートやプログレッシブハイドローリッククッションを、この新型C4/e-C4も採用している。それをCセグメントと呼ばれる親しみやすいクラスで、クロスオーバーでありながらGSやCXなどの伝統も織り込んだスタイリングとともに味わうことができるのは楽しみだ。日本上陸を心待ちにしたい。